業務命令と賃金支払い

業務命令違反の賃金は不要

労働者は、使用者の指揮命令のもと労務を提供し、その対価として使用者に対して賃金請求権を取得します。

したがって、労働者が使用者の業務命令を拒否して、日常行っている内勤業務に従事したとしても、それは使用者の指揮命令のもと労務を提供したとはいえないので、その対価としての賃金請求権は発生しないと考えられています。

水道機工事件 最高裁 昭和60.3.7

外勤出張拒否闘争に対し使用者が賃金カットしたことにつき、労働者が内勤業務に従事したことを理由に賃金を請求した事案。最高裁は、賃金支払義務は生じないとした。

原審は・・・本件業務命令は、組合の争議行為を否定するような性質のものではないし、従来の慣行を無視したものとして信義則に反するというものでもなく、上告人らが、本件業務によって指定された時間、その指定された出張・外勤業務に従事せず内勤業務に従事したことは、債務の本旨に従った労務の提供をしたものとはいえず、その指定した時間については出張・外勤以外の労務の受領をあらかじめ拒絶したものと解すべきであるから、上告人らが提供した内勤業務についての労務を受領したものとはいえず、したがって、被上告人は、上告人らに対し右の時間に対応する賃金の支払義務を負うものではないと判断している。

原審の右判断は、前記事実関係に照らし正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。

熊本営林局多良木営林署事件 福岡高裁 昭和58.12.6

作業主任者との併任を命じられた営林署の常用作業員が、集材機運転手の欠員補充問題につき組合との間で解決がみられるまで右作業主任の辞令書を返上するとしてその職務に従事しなかったため、その間の賃金が支払われなかったのに対しその支払を求めた事件

上司の職務命令に反し、殊更指示された以外の業務に従事しても、それは債務の本旨にしたがった労務の提供とはならず、賃金請求権は発生しない。したがって、控訴人が本件業務命令に反して、作業主任者の業務に従事せず、指示外の土場の掃除、盤台上での枝打ち等の作業に従事しても、控訴人の賃金請求権は発生しないと解するほかない。


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