賃金支払いのルール

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賃金支払いのルール

労働基準法では、賃金、給料、手当、賞与などの名称に係わらず、労働の代償として使用者が労働者に支払うすべてを「賃金」と定義しています。


賃金支払の五原則

賃金は労働者の生活を支える重要なものですから、その支払方法については労働基準法第24条により、次の五つの原則が定められています。

(1) 通貨払いの原則 小切手や手形などではなく現金で支払うこと
(2) 直接払いの原則 労働者本人に支払うこと
(3) 全額払いの原則 分割払いはできないこと
(4) 毎月1回以上払いの原則 月1回以上であれば何回でもよい
(5) 一定期日払いの原則 25日など特定の日。第3木曜日のような定め方はできない

通貨払い


現物給与は禁止

給与は通貨で払うこととされています。

賞与の一部を自社株で支給することは、無効(ジャガード事件 東京地裁 昭和53.2.23)とされました。

ただし、労働協約に別段の定めがある場合には、通貨以外のもので支払うことができます(労基法第24条)。

また、支払いが確実で命令で定められた場合には通貨以外でも支払うことができます(同条)。

例えば、
(1)退職手当について、銀行振出小切手・銀行支払保障小切手・郵便為替、
(2)労働者の意思に基づく労働者指定の本人名義預金口座への振込み、
がそれに当たります。


実物給与に関する労働協約(例)


実物給与に関する労働協約

出来高払い


一定額(6割程度)の保障が必要

出来高払制とは、労働者が製造した物の量・価格や売上額などに応じた一定比率で額の定まる賃金制度をいいます。

労働基準法第27条は、「出来高払いその他請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない」としています。

この規定は、出来高払制下にある労働者の実質賃金が客不足や資材の入手難など労働者の責に帰すべきでない理由によって著しく低下するのを防ぐためのものです。

労基法27条には、保障の額や率について規定がありませんが、規定の要求する保障給は、通常の実収賃金とあまり隔たらない程度の収入を保障するようその額を定めるべきものとされています。

使用者の責に帰すべき休業の場合、平均賃金の6割が最低保障となっていることからすれば、平均賃金の100分の60程度の保障が妥当と思われます。

また、自動車運転手については、「歩合給制度が採用されている場合には、労働時間に応じ、固定給与と併せて通常の賃金の6割以上の賃金が保障されるよう保障給を定めるものとする」という通達(平成1.3.1基発第93号)が出ています。

賃金が「固定給+出来高給」で構成されている場合は、その合計額で最低保障がされていればいいと考えられますが、出来高の割合があまりにも大きく、その減額によって月の賃金が6割を下回るようであれば、出来高にも保障給部分を設けるべきだと解されます。


直接払い


給料の受領は代理・委任できない

法定代理人や労働者の委任を受けた任意代理人への支払いや、賃金債権の譲受人への支払いは禁止されています(30万円以下の罰金)。

関連事項:主な罰則

代理で誰かが受け取るということがあったとしても、この直接払いの規定があることにより、賃金の受領については代理・委任等の法律行為は認められていません(昭和63.3.14 基発第150号)。

労働者本人が第三者に賃金の受領権限を与えようとしても、そうした代理、委任等の法律行為は無効となります。

退職金についても、裁判所は賃金同様に、直接払いの原則があると判示しています(最高裁 昭和43.3.12、最高裁 昭和43.5.28)。

このため、仮に代理人である者に賃金を支払ったとしても、その代理人が途中で賃金を着服したり紛失したりした場合には、会社は再度本人に賃金を支払わなければなりません。

この場合使用者は、代理受領者に不当利得の返還を請求することになります。


未成年者も直接受け取る権利がある

20歳未満の労働者、すなわち民法でいう未成年者も、独立して賃金を請求する権利が与えられていて、親権者や後見人の代理受領も禁じられていて、成人と何ら異なることはありません (労働基準法第59条)。


使者として受け取る場合

本人が病気などで動けないなどの場合、本人使者として賃金を受け取る場合もありえます。

この場合は、代理人と異なり、いわば本人の手足として動くわけですから、途中で紛失した場合、会社が再度給料を支払う必要はなくなります。

ただし、この使者と代理人との区別は難しく、使者だとすれば、通常は本人の家族といったところが常識的な範囲でしょうし、後日もめることを避けるためには、本人の作成した「賃金受領の使者として差し向ける」旨の書面 (使者差向書)を持参してもらうことがいいと思われます。


派遣労働者の場合

派遣中の労働者の賃金を、派遣元が派遣先を通じて払ってもらうことは、それを手渡してもらうだけであれば、直接払いの原則に違反しないと解されます(昭和61.6.6 基発第333号)。

※もっとも、派遣元は派遣労働者の賃金を派遣先に知られるのを嫌いますから、あまりこういうケースは生じないと思われます。


口座振込

賃金は直接払いが原則ですが、労働者の同意があれば、口座振込によって支払うこともできます。

労働基準法施行規則第7条の2第1項

使用者は、労働者の同意を得た場合には、賃金の支払について当該労働者が指定する銀行その他の金融機関に対する当該労働者の預金又は貯金への振込みによることができる。

この同意は、労働者の代表者の同意ではなく、賃金の支払いを受ける労働者個人個人の同意(口頭でもいい)という意味です。

同意しない労働者に対しては、現金で支払わなければなりません。

労働者が口座を指定した場合には、使用者からの強要その他特段の事情のない限り、同意があったものと考えられています。

振込む口座は、あくまでも本人名義のものでなければならず、本人以外の口座に振り込むことはできません。


全額払い


控除が認められる場合(いわゆる24条協定)

全額払いの原則は、控除分を使用者が手元に保留して労働者を足止めすることを封ずるとともに、賃金からの一方的控除が行われることで労働者の生活が不安定且つ困窮することを防ぐことを目的にしています。


賃金からの控除

ただし、法令に定めのあるとき、過半数組合または過半数代表者との書面による協定があるときは、例外的に賃金の一部を控除することが認められています(労働基準法第24条)。

なお、原則として賃金の4分の1以上を差し引くことはできません。

「労働者の過半数」とは、管理監督の地位にある者、病気欠勤、出張、休職期間中の者等も含めた「当該事業所のすべての労働者の過半数」です。(昭和46.1.18 基収6206号)。

※この過半数は協定成立後に過半数を切っても協定の効力には影響はありません(昭和36.1.6 基収6619号)。

法令では、所得税法、地方税法、健康保険法、厚生年金保険法、雇用保険法等があり、所得税、住民税、各種の社会保険料については、これによって控除が認められています。

労使協定により控除されるものとしては、購買代金、社宅・寮その他福利厚生施設の費用、労働組合費、貸付金の返済等があげられます。

使用者が労働者に当座の資金を貸し付けるような場合も、労使協定無しで賃金から控除した場合は、法律に触れます。

この協定は、所轄労働基準監督署長に届け出る必要はありません。

シーアンドディー事件 東京地裁 平成15.8.5

労働者に賃金を支払うとしながら他方で労働者から補償金を拠出させ、それを賃金から控除する取り扱いは、賃金の全額払いの原則を定めた労基法24条1項、前借金相殺禁止を定めた同法17条に反し、無効であるから、焼肉店を経営する被告は、店長として採用した原告から受領した合計180万円を不当利得金として返還しなければならない。


伊丹産業事件 大阪地裁 平成15.5.23

会社は原告ら傭車運転手との嘱託契約において、出来高数値から車両維持費を控除した額を本俸とする旨を合意したことは明らかであり、これは車両維持費を控除した後の額を賃金とする趣旨であって、賃金から車両維持費を違法に控除されたという賃金請求は理由がない。


端数処理


差引支給額に端数があるとき

1ヶ月の差引支給額に端数がある場合には、次のような方法で端数処理することができます。

(1) 支給額に100円未満の端数が生じた場合 50円未満を切り捨て、50円以上を100円に切上げる。
(2) 支給額に1,000円未満の端数が生じた場合 1,000円未満の端数を翌月の給料日に繰り越して支給する。

時間外計算の端数処理

(1) 1か月の時間外・休日・深夜労働で、それぞれの時間数の合計に1時間未満の端数がある場合 30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切上げる。
(2) 1時間あたりの賃金額および割増賃金額に円未満の端数が生じた場合 50銭未満の端数を切り捨て、それ以上を1円に切上げる。
(3) 1か月の時間外・休日・深夜労働で、それぞれの割増賃金の総額に円未満の端数が生じた場合 50銭未満の端数を切り捨て、それ以上を1円に切上げる。

賃金控除協定書


賃金控除協定書(例1)


賃金控除協定書(例1)

賃金控除協定書(例2)


賃金控除協定書(例2)

相殺・返還


前借金と賃金の相殺は禁止

労働基準法第17条により、前借金と賃金の相殺は禁止されています。書面協定があっても許されません。

労働基準法成立当時は、前借金が労働者の足留め策や強制労働の原因となることも多く、前借金そのものを禁止すべきだという意見もあったとのことです。結果、前借金制度自体は禁止しないが、前借金を賃金と相殺することは禁止、となった経過があります。

ただし、禁止されているのは「賃金との相殺」でありますから、使用者が労働者に対し、貸付金の返還を求めることはできます。

例えば、「1年勤務したら返還義務を免除する」という前提の支度金などの供与は、約束の期間を待たずに退職した従業員に対し別途請求(賃金から差し引くのはダメ)することはできます。

もっとも、金額がきわめて高額であったりして、この前借金契約そのものが強制労働を目的として設けられたと認められる場合は、前借金契約そのものが労働基準法第5条民法第90条(公序良俗)に違反するものとして「無効」とされる可能性があります。


損害賠償と相殺はできない

最も相談が多いのは、使用者が労働者に対して持つ債権(会社の品物を壊して損害を与えた場合の損害賠償債権等)と賃金との相殺です。

関連事項:賃金との相殺

相殺も一種の控除であり、賃金が労働者の生活を支える唯一の収入であって、書面協定なしに相殺することは許されないと考えられています。

使用者が労働者の業務怠慢を理由として労働者の賃金をカットすることや、労働者の不法行為(背任)を理由として、これを賃金と相殺することは、違法とされています(関西精機事件 最高裁 昭和31.11.2、日本勧業経済会事件 最高裁 昭和36.5.31)

日本勧業経済会事件 最高裁 昭和36.5.31

同条項は、労働者の賃金債権に対しては、使用者は、使用者が労働者に対して有する債権をもって相殺することも許されないとの趣旨を包含するものと解されるのが相当である。このことは、その債権が不法行為を原因としたものであっても変わりはない。

ですから、仮に使用者が労働者に対して損害賠償請求権などがあったとしても、使用者が労働者の同意なく一方的に賃金や退職金から差し引くことはできません。

関連事項:損害賠償


合意による相殺

労働者の方から主体的に申し出たことにより、相殺を行うことは差し支えないとされます(シンガー・ソーイング・メシーン・カンパニー事件 最高裁 昭和48.1.19)。

例えば、労働者が使用者から借金をし、その返済額を月々の賃金から差し引くということも、労使の書面による協定に定めをすれば可能です。

いずれにせよ、労働者自らの意思による相殺か、使用者からの一方的な強制なのかはあいまいな場合が多く、争いのもとになりますので、事実関係を明白にしておくことが望まれます。

これに対して、使用者が労働者の合意を得たうえで行う相殺についても、「同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき」は、労基法24条の規定に違反しないという判断が出されています(日新製鋼事件 最高裁 平成2.11.26)。


欠勤・遅刻の場合の賃金控除

欠勤の場合の賃金控除としては、主として次の方法が取られます。

日割相当分の控除

たとえば、所定労働日数が22日の月に2日欠勤した者に対しては、賃金の22分の2が差し引かれます。

控除の対象となる賃金については、

などの選択肢があります。

最も公平かつ説得的な手法なので、多くはこの方法が取られているようです。

遅刻・早退の場合は、時間単位にして控除することになります。

そのほか、「日割相当分を下回る控除」「一定欠勤日数までは控除しない方式」などもありますが、逆に、欠勤に対するペナルティとして控除額を積み増しする場合には、労働法に抵触していないかチェックする必要があります。

関連事項:懲戒


差押えの制限

民事上の債権譲渡と、労働基準法上の直接払いの関係において、判例は直接払いの原則を優先させています。

小倉電報電話局事件 最高裁 昭和43.3.12

労働基準法第24条第1項が、「賃金は直接労働者に支払わなければならない」旨を定めて、使用者たる賃金支払い義務者に対し罰則をもってその履行を強制している趣旨に徴すれば、労働者が賃金の支払いを受ける前に賃金債権を他に譲渡した場合においても、その支払いについてはなお同条が摘用され、使用者は直接労働者に対し、賃金を支払わなければならず、したがって、右賃金債権の譲受人は自ら使用者に対してその支払いを求めることは許されないものと解するのが相当である。

ただし、法律の手続にしたがって、債権者が労働者の賃金債権を差し押さえることは、直接払いの原則に反しないとされています(T賃金差押異議申立事件 東京高裁 昭和33.4.40)。

この場合も、民法510条、民事執行法第152条の適用を受け、最大限4分の1までしか控除できないことに留意する必要があります。

※差押禁止額が政令で定める額(平成28年現在、21万円)を超える場合は、この額が差押禁止額となります。

民法510条 差押禁止債権を受働債権とする相殺の禁止

債権が差押えを禁じたものであるときは、その債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。


民事執行法152条 差押禁止債権

1 次に掲げる債権については、その支払期に受けるべき給付の4分の3に相当する部分(その額が標準的な世帯の必要生計費を勘案して政令で定める額を超えるときは、政令で定める額に相当する部分)は、差し押さえてはならない。

  • 債務者が国及び地方公共団体以外の者から生計を維持するために支給を受ける継続的給付に係る債権
  • 給料、賃金、俸給、退職年金及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る債権

2 退職手当及びその性質を有する給与に係る債権については、その給付の4分の3に相当する部分は、差し押さえてはならない。

3 債権者が前条第1項各号に掲げる義務に係る金銭債権(金銭の支払を目的とする債権をいう。以下同じ。)を請求する場合における前2項の規定の適用については、前2項中「4分の3」とあるのは、「2分の1」とする。

サラ金などの債権者が労働者の賃金債権の差押を行ってきた場合、使用者としては支払いに代えて当該差押にかかる賃金額を法務局に供託することができます。

特に、2つ以上の差押が同時に行われて重複したり、当該債権執行手続において他の債権者から配当要求がなされたりした場合には、使用者として供託することが義務となっているので注意が必要です(民事執行法156条)。


不当利得の返還

正当な理由がなく利益を受け他人に損失を及ぼすことを不当利得といいます。

不当利得は受益者の善意・悪意を問いません。

自分に受け取る権利がないことを知らなくても、結果的には他人の財産から利益を得、他人に損失を及ぼしたことに変わりがありませんから、不当利得になります。

たとえば、子どもの年齢が18歳までを対象としている家族手当を、会社側のミスからその後も受給し続けてきた場合なども、これにあたります。

民法第703条

法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。

「利益の存する程度」とは、利得が残っている限度という意味ですが、物の場合はともかく、金銭の場合は、受領していた金額の全額が返還の対象となります。

仮に受領した金を全額使ってしまったとしても、そのおかげで自分のほかのお金を使わずに済んでいるわけですから、利得は全額につき残っていると見なされます。

もし、労働者が、悪意で(自分にはそのお金が支給されないことを知っているにもかかわらず、受け取っていた場合)手当の支給を受けていた場合は、受け取った金額の全額を返還するだけではなく、利息を付さなければなりませんし、このために会社が損害を受けたときには、その損害賠償もしなければなりません(民法704条)。

賃金の請求権は2年間、退職金は5年間で消滅しますが、不当利得の場合は、民法上の時効の消滅規定である10年が適用されます(民法第167条)。

したがって、返還請求権も10年間は行使できることになります。

ただし、労働者が故意に不当利得を得ていた場合(虚偽の申告で、家族手当を得ていた場合など)は、会社がその損害及び加害者を知ったときから3年間が消滅時効となります。知らないときは、不法行為から20年間が消滅時効です(民法724条)。

ただし、実際問題として、気づかずに手当等を支給していた会社側にも落ち度があるわけですから、返還方法・返還額等についても、話し合いで無理のない方法を取ることが望まれます。

なお、この額を賃金からの控除については、労働基準法第24条に規定する賃金の一部控除に関する協定が締結され、その協定にこのような場合の過払い分を控除する旨規定されていれば、原則として毎月の支払額の4分の1の限度で返還額に達するまで控除していくことができます。

しかし、そのような協定がない場合には、賃金からの差し引きはできず、別途労働者に返還を請求しなければなりません。


労働者が行方不明の場合

口座振込制の場合は問題ありませんが、それができず、まったくの音信不通の場合は、代わりに本人の妻などに支払うことはできません(法的にでは、です。実務的には別の方法を取らざるを得ない場合も少なくないでしょう)。

関連事項:従業員の失踪

トラブルが予想される場合は、民法494条(供託による免責)により法務局に供託する方法もあります。

民法494条(供託)

債権者が弁済の受領を拒み、又はこれを受領することができないときは、弁済をすることができる者(以下この目において「弁済者」という。)は、債権者のために弁済の目的物を供託してその債務を免れることができる。弁済者が過失なく債権者を確知することができないときも、同様とする。


調整的相殺


賃金が誤って過払いされたとき

過払い賃金の清算のための「調整的相殺」(ある賃金計算期間に生じた賃金の過払いを後の期間の賃金から控除すること)に関し、最高裁は一定の条件で認めています。

(1) 過払いの時期と賃金の清算時期とが密接した時期になされること
(2) 労働者に予告しておくこと
(3) 控除額が多額にわたらないこと

行政上も、払いすぎた分を翌月に差し引いて清算する程度は認めても労働者の生活を害するおそれはないと考えられることから、賃金計算上の取扱いとして、労使協定がなくても労働基準法違反としては取扱わないという立場がとられています(昭和23.9.14 基発第1357号)。

要するに、労働者の生活に支障の生じない程度の調整的相殺の場合に限り、全額払いの原則に違反しないとの判断ということになります。

なお、過払賃金の精算調整のための賃金控除は、法律上の使用者の一方的意思表示としての相殺ですから、民法510条、民事執行法第152条の適用を受け、最大限4分の1までしか控除できないことに留意する必要があります。

福島県教組事件 最高裁 昭和44.12.18

賃金計算における過誤、違算等により、賃金の過払が生ずることのあることは避け難いところであり、このような場合、これを清算ないし調整するため、後に支払われるべき賃金から控除できるとすることは、右のような賃金支払事務における実情に徴し合理的理由があるといいうるのみならず、労働者にとっても、そのような控除をしても、賃金と関係のない他の債権を自働債権とする相殺の場合とは趣を異にし、実質的にみれば、本来支払われるべき賃金は、その全額の支払を受けた結果となるのである。

このような事情と前記24条1項の法意とを併せ考えれば、適正な賃金の額を支払うための手段たる相殺は、同項但書によって除外される場合にあたらなくても、その行使の時期、方法、金額等からみて労働者の経済生活の安定との関係上不当と認められないものであれば、同項の禁止するところではないと解するのが相当である。

この見地からすれば、許されるべき相殺は、過払のあった時期と賃金の清算調整の実を失わない程度に合理的に接着した時期においてされ、また、あらかじめ労働者にそのことが予告されるとか、その額が多額にわたらないとか、要は労働者の経済生活の安定をおびやかすおそれのない場合でなければならないと解せられる。

いずれにせよ、後日紛争を回避するためには、事前から不測の事態に備え、過半数組合もしくは従業員の過半数代表者との間で、書面により「過払い賃金の精算」協定を締結しておき、法令上の問題をクリアさせておくことも考えられます。


定日払い


毎月1回以上、定日に

さて、賃金となった場合には、通貨で、直接労働者に、全額を毎月1回以上、日を定めて支払うべきであると規定されています(労基法第24条)。

「日を決めて」の原則は、賃金が労働者の生活の唯一の手段であるから、賃金支払期日の間隔が開きすぎて生活が困難になることを防ぎ、また支払日が一定しないことによる不便を防ぐためのものです。

月払いの場合は、「毎月25日」とか「毎月末日」といった決め方になります。週払いで「毎週金曜日」などと定めることは適法ですが、月払いで「毎月第4金曜日」といった決め方はできません。 「毎月15日から20日までの間」などもダメです。

この原則によれば、年俸制の場合でも、前払いでないかぎり、毎月分割して支払う必要があります。


適用除外

なお、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので、命令(労基則8条)で定める賃金については、定期日払の原則を適用しないとしています。

これには、私傷病手当、退職金、災害手当、結婚手当など臨時的・突発的な事由に基づき支払われる賃金が含まれます。

1ヶ月を超える期間の勤務成績などに基づいて支払われるものであれば、精勤手当・勤続手当・奨励加給・能率手当なども毎月払の原則が適用されません。ただし、単に毎月払いを回避するために、こうした取扱いをすることは許されません。


支払日が休日にあたるとき

日の場合の繰上・繰下払いは、賃金の一定期日支払の原則に違反しないとされています。

ただし、支払日が月末の場合、翌日支払とすると、その月は給料の支払いがないことになってしまいます。

したがって、月末が休日となった場合は、繰り下げて支払うことはできません。


振込み

振込を行うためには次の要件が必要です。


給与明細

給与といっしょに、その明細書が示されますが、この根拠は所得税法に明確に示されています。

所得税法

第231条(給与等、退職手当等又は公的年金等の支払明細書)

居住者に対し国内において給与等、退職手当等又は公的年金等の支払をする者は、財務省令で定めるところにより、その給与等、退職手当等又は公的年金等の金額その他必要な事項を記載した支払明細書を、その支払を受ける者に交付しなければならない。

第242条

次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処する。

・・・

7 第231条第1項(給与等、退職手当等又は公的年金等の支払明細書)に規定する支払明細書を同項に規定する支払を受ける者に同項の規定による交付をせず、若しくはこれに偽りの記載をして当該支払を受ける者に交付した者又は同条第2項の規定による電磁的方法により偽りの事項を提供した者


支給日在職要件

一時金(賞与)について、支給対象期間の全部または一部には勤務していながら支給日に在職しなくなった者に対しては支給しないというのが支給日在職要件です。

判例は、支給日在職要件の効力を肯定する傾向にあります(大和銀行事件 最高裁 昭和57.10.7)。

ただし、個別事案によっては、その適用が否定された場合もあります(ニプロ医工事事件 最高裁 昭和59.8.28)。


非常時払い


給料日前でも賃金支払が必要

労働者が出産、疾病、災害その他で非常の場合の費用に充てるため請求した場合、賃金の支払期日前であっても、それまで働いた分の賃金を支払わなければならないとされています(労働基準法第25条)。

この場合の非常時には、次の場合が含まれます。

(1) 労働者の収入によって生計を維持する者が出産し、疾病にかかり、または災害を受けた場合
(2) 労働者またはその収入によって生計を維持する者が結婚し、または死亡した場合
(3) 労働者またはその収入によって生計を維持する者がやむを得ない事由により1週間以上にわたって帰郷する場合

退職時の賃金の精算

使用者は、労働者の退職の場合に労働者から請求があった場合は、所定の支払日にかかわらず請求から7日以内に賃金を支払わなければなりません。

積立金・保証金・貯蓄その他、名称の如何を問わず労働者の権利に属する金品を返還しなければなりません(労働基準法第23条)。


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