日本的年俸制

能力主義賃金の登場とその背景

70年代に普及し、今日まで賃金制度の主流をなしている職能資格制度は、能力の発展段階に応じて資格等級を定めて格付けし、それに即した賃金(職能給)決定と処遇管理を行う制度です。

ここでは、労働者の「保有能力」が重視され、それを年功(年齢・勤続年数)と一致させる運用が行われたため、年功的な要素の払拭は困難でした。

また、実際上も、一定の資格在籍年数を進級要件とし、同期入社で極端な差がつかないように配慮するなど、年功的運用を色濃く残しています。

これに対して、近年導入されている年俸制を始めとする能力主義的賃金は、上のような保有能力(潜在的能力)ではなく、顕在化し、結果として現れた能力(=成果)を重視することに特色があります。

こうした能力主義的賃金導入の背景としては、国内外の競争の激化に伴う賃金・人件費引下げ圧力、従業員の高齢化による中高年齢層の年功的処遇の困難化、生産性・業績を考慮した人件費の変動費化の要請、若年労働者の意識の変化などが挙げられています。


契約社員などに適用

年俸制とは、個人の能力や仕事の成果を、1年間の総賃金(年俸)に反映させる賃金制度で、能力や成果のいかんによる年俸額の変動が前提とされます。

日本における年俸制はまだ歴史が浅く、明確な基準があるわけではありません。

その型や仕組みが定められているわけではなく、採用しようとする企業の考え方次第で様々なバリエーションがあるようですが、概ね次のような内容が考えられます。

いずれにせよ、能力の公正な評価と賃金決定を可能にする制度の整備が前提となります。


年俸制の特徴

(1) 業績や将来への期待その他を毎年総合評価して、「1年でいくら」と賃金額を決める。
(定期昇給は原則廃止。諸手当は一部のみ別支給の場合もある。)
(2) 賃金の支払いについては、賃金支払いの原則に従い、年俸額を分割して、月ごとに支払われる。
(3) 賃金体系としては、月給部分(毎月支給)と賞与部分(この部分が毎年増減)に分け、年俸更改時の様々なルール(評価基準やアップダウンの幅等)を設ける。
(4) 全社員を対象にするのではなく、管理職や特定職のみに導入するケースが多い。

これまで、年功制(年をとれば給料が上がる)や職能給(本人の能力に基づく)から、業務給・業績給(仕事の内容・成果に基づく)への転換が言われるようになり、その一形態の年俸制が管理職などに採用されてきました。

しかし最近では、契約社員など雇用形態の多様化を反映して、一般の従業員へも年俸制が普及しつつあります。

年俸制は通常、目標管理制度とリンクしており、年度当初に労働者と上司との話し合いで目標を設定し、年度末にその達成度を相互に評価し、合意の上で賃金額を決定するプロセスをたどります。

年俸賃金は、前年度の成果の評価を基準としつつも、当該年度の労働の対価を意味するのであるから、欠勤や中途退職は賃金請求権の発生に影響します。

労働者が成果を挙げられず、賃金を減額される場合でも、一定の下限額を保障することが必要と考えられます。


労基法には年俸制についての規定がない

ただし、年俸だから、労働基準法の規定を免れるということはないのです。

このため同法の関係する箇所について法違反がないよう注意を要します。

(1) 年俸額とその対象期間、所定労働時間、賃金計算方法と支払方法、賃金支払日と支払方法(言うまでもなく、最低賃金を下回る年俸額を定めることはできません)。
(2) 諸手当及び賞与の取扱いと支給基準等、欠勤・遅刻・早退時の計算方法、途中退職者等の取扱い方法等
(3) 退職金の取扱いと計算方法、時間外労働(割増賃金)の取扱いと時間外手当の計算方法
(4) 業績評価等に基づく年俸額減額時における不利益変更等との問題

関連事項:年俸制と時間外手当


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