年俸制と時間外手当

年俸制と時間外手当の原則

一般的には、年俸の場合でも時間外労働休日労働、深夜労働については、実際に働いた分に対して後払いという形をとっています。

(1) いわゆる残業手当、すなわち時間外労働や休日出勤した場合に支給される割増賃金については、労働基準法37条によって最低基準が規定されている。
(2) 時間外労働や休日労働があった時は、その分の割増賃金を月毎に支払わなくてはならない。
年俸制とは、単に賃金を年単位で決める制度ということで、年俸制だから時間外手当を支払わなくてもよいということにはならない。
会社によっては一定の時間外労働を見込んで、残業手当込みで年俸の金額を定めている場合もある。

これらの割増賃金が実際に働いた時間に応じて支払われる場合は問題はありませんが、あらかじめ一定の割増賃金分を含んだ総支給額としての年俸額であるならば、その内訳(年俸○○円、割増賃金分××円など)を明らかにしたうえで、実際にその額を超過して働いた場合には、割増賃金の不足分を追加して支払うことが必要となります。


「賞与」部分が時間外計算基礎に入る!?

こうした割増賃金の算定にあたり時間単価を計算する際には、原則として賃金(年俸額)を年間所定労働時間数で割り、1時間あたりの賃金を算出します。

ところで、年俸制の場合、「年俸の16分の1を月例給与として支給し、16分の4を二分割して6月と12月に賞与として支給する」といった取り決めをする場合が多いようです。

しかし、「賞与」とは、支給額が予め確定されていないものをいいますから、支給額が確定しているものは賞与と見なされません。(昭和22.9.13 基発17号)

したがって、年俸制で毎月払い部分と賞与部分を合計してあらかじめ支給額が確定している場合の「賞与相当部分」は、賞与にあたらないことになります。

同時に、「臨時に支払われた賃金」でもなければ、「1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金」のいずれにも該当しないことになります。(労働基準法施行規則21条4号、5号)

ということは、割増賃金の算定基礎から除外できないことになります。

除外できる「賞与」とするためには、その一部が業績査定等であらかじめ確定できない性格のものであることが必要です。

年俸制で毎月払い部分と賞与部分を合計して予め年俸額が確定している場合の賞与部分は「賞与」に該当しない。

したがって、賞与部分を含めて当該確定した年俸額を算定の基礎として割増賃金を支払う必要がある。

よって、決定された年俸額の12分の1を月における所定労働時間数(月によって異なる場合には、1年間における1ヶ月平均所定労働時間数)で除した金額を基礎額とした割増賃金の支払いを要し、就業規則で定めた計算方法による支払額では不足するときは、労働基準法第37条違反として取り扱うこととする。

(平成12.3.8 基収第78号)

また、年俸制の管理・監督者の場合、時間外や休日労働に対して割増賃金の支払いは必要とされませんが、深夜労働を行った場合については、割増賃金の支払いが必要となります。

年俸制でも時間外賃金/支払い命じた判決確定

年俸制を理由に時間外割増賃金を支給しなかったのは違法として、大阪府の男性が以前勤めていた府内の測量会社に未払い賃金の支払いを求めた訴訟で、最高裁第2小法廷(福田博裁判長)は5月30日、男性の上告棄却を決定。

「年俸制の採用で、ただちに時間外割増賃金を支払わなくていいことにはならない」として、会社に120万円余の支払いを命じた大阪高裁判決が確定した。

男性はほかに退職金の支払いなどを求めていたが退けられ、上告していた。

一、二審判決によると、男性は1997年に測量会社の正社員になった。会社は年俸制を採用していたが、男性は約3年後に公共事業担当になって時間外労働が多くなり、割増賃金の支払いを要求。

しかし、会社は「年俸制だから賃金に含まれている」と応じず、男性はその後退職した。

一審大阪地裁、二審大阪高裁ともに、ほぼ同じ判断を示して会社に時間外割増賃金の支払いを命じたが、二審は一審より支払額を数万円増額していた。

(JIL労働記事データベース 平成3.6.9)

関連事項:年俸制適用と平均賃金等の算定

ウィルネット事件 東京地裁 平成15.3.14

年俸制を理由に残業、休日手当等を支給しない旨の労働条件が労基法に違反することは明白であり、時間外賃金等の請求は認容された。

モルガン・スタンレー・ジャパン(超過勤務手当)事件 東京地裁 平成17.10.19

月額183万円の基本給を支払われていたプロフェッショナル社員が、時間外労働に対する賃金支払を求めた。

裁判所の判断

原告の給与は、労働時間数によってではなく、会社にどのような営業利益をもたらし、どのような役割を果たしたかによって決められている。そして、

(1)原告は、所定外労働をすれば超過勤務手当が発生することを知っていた。

(2)原告は、過去の勤務先においても超過勤務手当の支給を受けていないが、異議を申し立てていない。

(3)原告の入社時のオファーレターには、所定労働時間を超えて労働した場合に報酬が支払われる旨の記載がない。

(4)原告の給与は一般社員と比べると高額である。

(5)会社は、原告の勤務時間を管理していない。自分の判断で営業活動が可能である。

(6)こうしたことは、外資系インベストメントバンクにといては、一般的である。

こうしたことから、所定労働時間外に労働した対価は、会社が原告に示した基本給の中に含まれていると解するのが相当である。


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