勤怠考課と賞与

査定か制裁か

賞与の計算にあたり、使用者が労働者の欠勤・遅刻・早退といった勤怠を考課の対象とし、一定の条件で賞与の減額支給をすることがあります。

行政解釈では、賞与も労基法上の賃金であるため、制裁として賞与から減給することはできますが、この場合は、1回の事案について平均賃金の1日分の半額を超えてはいけないし、また、総額が賞与額の10分の1を超えてはならないとされています。(昭和63.3.14 基発150号)

とはいえ、毎月の給与と異なり、賞与の支給対象期間中の勤怠状況・勤務実績等によって考課のうえ支給額を決定するのが一般的ですから、「査定」による判断が加味され、それが合理的である限り、原則としては使用者の自由で決められるといえます。

したがって、賞与の支給にあたって、欠勤・遅刻・早退といった勤怠要素を支給額決定の上で考課の対象とすることは、労働基準法91条の制裁規定の制限を受けるものではないという見解も成り立ちます。

ただし、その勤怠考課が合理的な限界を超える場合には、使用者の裁量範囲を超えて一種の制裁を科すものとなり、違法と判断される可能性が生じます。

裁判例では、賞与支給対象期間中に出勤停止処分を受けた者は賞与を全額不支給とするとした協約状況について、「制裁として賃金を減額する定めであり、労基法91条の制限を超えるものであることは明白であるから無効である」としています。

このため、賞与に制裁としての減給を行うためには、その旨、就業規則に規定しておくことが必要です。

また、その減給額はひとつの事案について平均賃金の1/2日分を超えることはできませんし、賞与の算定期間(一般的には6ヶ月)に発生した複数の事案に対する減額総額は、賞与総額の10分の1を超えることはできません。

さらに、賞与から減給の制裁を行うこととするときは、賞与と月例賃金の両方から減額することができないことにも注意が必要です。

アール企画事件 東京地裁 平成15.3.28

美容師の顧客のカラーリングでの不始末に関する報告義務違反は、顧客から損害賠償を要求された際の保険適用を困難としたばかりか会社の信用失墜にもつながった。

一定期間中の勤続の功績を失わせる程度の背信性が著しいというべきであり、会社は本件特約に基づくボーナスの支払い義務を負わない。


懲戒を理由に全額カットできるか

賞与が考課により減額支給されることは自体は、違法ではありません。

ただし、賞与が生活給的なものとして支給される場合で、就業規則等で支給額が決められている場合は、減額処分が行きすぎだとされることもあります。

当該社員が曲がりなりにも何らかの成果を上げており、会社の業績賞与支給基準に照らし、その成果部分に対する業績賞与を支給すべきことが明白な場合は、その部分をも返還させる対象としてはなりません。

もっとも、その労働者の賞与査定期間中の貢献をすべて否定し、全額を不支給とすることが著しく均等を欠き、許されないと判断される可能性は否定できません。

坂崎彫刻工業事件 東京地裁 昭和60.4.17

民法50条の注意に照らせば、労働者に使用者に対する明白かつ重大な不法行為があって、労働者の経済生活の保護の必要を最大限に考慮しても、なお使用者に生じた損害の填補の必要を優越させるものでなければ権衡を失し、使用者にその不法行為債権による相殺を許さないで賃金全額の支払を命じることが社会通念上著しく不当であると認められるような特段の事情がある場合には、この相殺が許容されなければならない。


成績考課

同様に、業務成績によって一定の幅で賞与の支給額を定めることは使用者の裁量範囲とされていますが、賞与を全く支給しないなどの取り扱いは、裁量権を逸脱し、労基法91条に反するとされる可能性が大きいといえるでしょう。

なお、会社に対して損害を与えた場合に賞与が減額されることはあり得るところですが、あらかじめ損害額と賞与のカット率を定めておくことは、「損害賠償額の予定」として、労働基準法16条違反となる可能性があります。


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