能力主義賃金制度導入

能力評価の客観性がポイント

「資格の引下げとしての降格の新設」や「年俸制の導入」は、現在の判例法理によるかぎり、労働条件の不利益変更に該当すると考えられます。

最高裁は、第一ハイヤー事件判決において、タクシー運転手の歩合給の計算方法を不利益に変更したが現実の賃金額は変動しない可能性があるというケースで、この変更を不利益と扱っています。

すなわち、現在の判例法理は、賃金に対する実質的不利益の如何を問わず、その可能性がある場合を含めて、広く「就業規則による労働条件の不利益変更」として捉えているのです。

不利益変更の要件

労働条件の不利益変更に関する判例理論では、就業規則変更の合理性が要件とされていて、変更の必要性と労働者の不利益との比較衡量を中心とする総合判断の枠組みが示されています。

特に賃金のような重要な労働条件の変更は、「労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要に基づいた合理的な内容」を要求されるので、能力主義賃金制度の導入に関しても、この要件を認める考え方が生じます。

しかし、能力主義賃金制度の導入は、賃金減額を可能とする制度の導入であるので、実質的不利益を直接もたらす既存の変更のケースと同一視することは適切ではありません。

能力を公正に評価できるかが、判断を左右する

ここでは、既存の法理における「高度の必要性」や「代償措置・関連労働条件改善」の要件は不可欠の要件ではなく、能力の公正な評価と新規決定を可能にする制度の整備が必要不可欠であって、これが合理性判断を左右するファクターとなります。

特に年俸制の場合には、年俸額の下限設定や交渉ルールの明示も重要です。

これらに加えて、以下のような要素が整えば、変更の合理性を認めてよいと考えられるでしょう。

  1. 制度改革の一定の必要性があり、
  2. 労働組合・労働者との間で十分な協議を行い、
  3. 賃金支払いの原資総額を減少させない、

適用要件に本人の同意が必要か

年俸制のように、能力主義の性格が強い制度においては、賃金の相当部分が個人の働き方(能力・成果)によって決定されるので、それを受け入れるか否かは、個人の選択に委ねられるべきです。

こうした個人重視の制度の導入に際しては、就業規則の機能は制度設計機能にとどまり、それを適用するか否かは、個人の選択(自己決定)に委ねることが合意されていると考えるのが適当です。


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