外国人への労働法規の適用

日本で働く外国人には日本の労働法が適用される

労働関係のトラブル対応は、たとえ相手が外国人労働者であっても、原則として日本人と異なるところはありません。

日本国内の企業で働く場合には、オーバースティであるかどうかにかかわらず、日本の労働法が原則として適用されます。

労働基準法はもちろん最低賃金法、労働安全衛生法、労働組合法、労働者災害補償保険法、職業安定法、男女雇用機会均等法などの労働法規が適用されます。

また、日本の憲法14条は人種による差別を禁止しています。労働基準法3条も「使用者は労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について差別的取扱いをしてはならない」としています。

雇用保険法についても、日本国で就労する外国人の方については、外国公務員及び外国の失業補償制度の適用を受けていることが立証された者を除き、国籍のいかんを問わず被保険者として取り扱うこととしています。

また、外国人は出入国管理及び難民認定法(入管法)で認められた在留資格の範囲内の活動しか認められず、在留資格外の活動は資格外活動として制限されています。

日本政府は単純労働者の就労を厳しく制限しています。外国人が就労資格がなく働いた場合、不法就労者(資格外就労者)として退去強制の対象となります。

就労資格の内容は入管局の通達や指示で変更されることも多いので、そうした内容を熟知している外国人労働者の支援団体の支援が必要となることが多いようです。

なお、厚生労働省は、たとえ資格外就労者であっても、労働関係法令が適用されると見解を明らかにしています。

職業安定法、労働者派遣法、労働基準法等労働関係法令は、日本国内における労働であれば、日本人であると否とを問わず、適用されるものである

(昭和63年1月26日、基発50号、職発31号)


日本の法令を周知する

外国人労働者に対し、労働基準法等関係法令の内容について周知を行ってください。

その際、分かりやすい説明書を用いる等外国人労働者が理解しやすいように努めてください。なお、労働基準局では労働基準法等関係法令を解説したパンフレットを6ヵ国語(英語、ポルトガル語、スペイン語、中国語、ハングル、タガログ語)で作成していますので、最寄りの都道府県労働基準局又は労働基準監督署へお問い合わせください。


労働組合法・労働基準法・最低賃金法等、労働法令の適用

これらの法律には国籍要件がなく、外国人に対して在留資格の有無にかかわらず、適用されます。

ノースウエスト航空事件 東京高裁 昭和57.7.19

休業手当の請求権(労基法第26条)は、日本における強行的私法たる権利であって、もともとアメリカ法を適用すべき余地のない問題である、とされた。

外国人であるだけで技術、技能などに差がなく、同一労働を行う日本人と賃金に差をつけたり、根拠なく外国人だけを除外した就業規則や労働条件を定めることは、労働基準法3条に違反します。

日本人同様、会社側が採用時に見込んでいた、能力を有していない場合、採用時に確認を怠っていた能力や技術を問題として本採用拒否などの解雇は行えません。

しかしながら、不法在留者が労働基準法、労災保険法等の適用による救済を求めることは、退去強制の危険と無関係には考えられないのも事実です。

このため現在では、賃金未払の場合に使用者へ賃金を支払わせる交渉や裁判等の手続きに必要な間は、労働基準監督署もオーバースティの事実を入管に通報しない扱いとなっています。


労働契約の準拠法

労働契約など民事関係法の適用については以下の通りです。

  1. 契約を締結した当事者の意思によって、どの国の法律を適用すべきかを決める
  2. 当事者がはっきりさせていない時は、行為地の法律による

ドイッチェ・ルフトハンザ・アクチェンゲゼルシャフト事件 東京地裁 平成9.10.1

会社では、日本ベースの客室乗務員の生活費等がドイツのそれと差がでるため、この差額を補填する趣旨で付加手当として支給してきた。

しかし、ドイツにおける給与所得の課税方式が変更され、日本ベースの客室乗務員の手取額が増加したことを機会に、これを廃止しようとした。

裁判所は、雇用契約の締結地がドイツであること等を勘案し、準拠法はドイツ法であると推定、労働者側が敗訴した。

シンガー・ソーイング・メシーン・カムパニー事件 東京地裁 昭和44.5.14

アメリカ法人の日本支社のゼネラル・マネージャーとして雇用されたアメリカ人の解雇。

判決は、ニューヨークで、英語を用いて雇用契約が締結され、賃金の一部がドル建てで支払われていたこと等の事情から、アメリカ連邦法及びニューヨーク州法を雇用契約の準拠法とする暗黙の合意があったとした。

しかし、実際には契約で準拠法を指定したとされる場合は少なく、日本を労務供給地とする労働契約については、日本法が適用される場合がほとんどです。

行政解釈もこの立場に立っています。

ある労働契約が外国で成立し、当事者間でその準拠法が外国法であるとされた場合でも、日本の公序としての労働法の制約を受ける(法例33条)ことになります。

これに関連して、労働組合法7条違反(不当労働行為)の解雇の効力について、日本の労働法を適用して判断すべきであるとの裁判例があります。(東京地裁 昭和40.4.26)


賃金支払の原則は日本人同様

労働者名簿、賃金台帳を調製してください。その際、家族の住所その他の緊急時における連絡先を把握しておくよう努めてください。

賃金は、賃金支払いの原則として毎月1回以上、一定期日を定め、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければなりません。賃金の一部を控除して支払う場合には労使協定が必要です。

もちろん、外国人だからといって、最低賃金を下回る時給で雇用することは許されません。

外国人労働者が雇用関係を終了し帰国する場合には、帰国のための諸手続について相談に乗るなど、また、在留資格の変更や在留期間の更新を行おうとする場合には手続を行うために勤務時間を配慮するなど、必要な援助を行うように努めてください。


適正な労災保険給付と安全衛生の確保を

外国人労働者に対し、労災保険に関する法令の内容及び保険給付に係る請求手続などについて、雇入れ時に外国人労働者が理解できるよう説明を行うことなどにより周知を図ってください。

周知に当たって必要な資料は、最寄りの都道府県労働局又は労働基準監督署にお問い合わせください。

外国人労働者が業務上又は通勤による災害にあった場合には、確実に労災保険給付を受給できるよう援助に努めてください。

具体的な援助の方法としては、外国人労働者からの相談に応じることのほか、請求書に必要事項を記入し本人の確認を得た上で労働基準監督署に提出するなど請求手続を代行すること、保険給付を受けるための本人名義の金融機関口座を設けるための手助けをすることなどが考えられます。

労働災害を防止するためには、機械設備等の安全対策とともに、労働者に対する適切な安全衛生教育の実施が重要です。

外国人労働者に対する安全衛生教育は、外国人労働者が理解できる言語の使用、写真、イラスト等を用いた説明等、労働者がその内容を理解できる方法により行ってください。特に機械設備、安全装置又は保護具の使用方法等については、確実に理解されるよう留意してください。

事業場内における労働災害防止に関する標識、掲示等について、図解等の方法を用いる等、外国人労働者がその内容を理解できる方法により行うよう努めてください。

外国人労働者に対しては、労働災害防止のための基本的な指示、合図や緊急の指示を理解することができるように、「止まれ」、「入るな」等の必要な日本語や共同作業を行う場合の基本的な合図等を習得させるよう努めてください。

外国人労働者に対して健康診断を実施してください。その際、健康診断の目的・内容を外国人労働者が理解できる方法により説明するよう努めてください。また、健康診断の結果に基づく事後措置を実施するときは、健康診断の結果及び事後措置の必要性・内容を外国人労働者が理解できる方法により説明するよう努めてください。


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