外国人の解雇・賃金不払い

オーバーステイを理由とする解雇

解雇の是非については、原則として在留資格には関係なく、解雇権濫用の法理も適用されると考えられます。

ただし、違法就労である以上、「地位保全の仮処分」は難しく、通常は本訴訟前の和解で解決されることが多いようです。

不法就労者であることを知りながら就労させることは、会社としても法に抵触することになるので、解決金で退職させるという手段をとることになります。


在留資格の更新直前に解雇された

きちんとした就労資格で入国していれば、当初の企業を解雇された場合でも、同種の他企業に就職できれば、問題ありません。

しかし、更新間近だと、そのままでは不法滞在となります。

この場合は、入管に相談し、とりあえずは90日の短期滞在に資格変更してもらいます。

この場合、事情を説明し、できれば「今回限り」や「出国準備」の条件が付かないよう交渉します。

再就職が決まった時点で、元の在留資格に戻す手続きをします。


有期労働契約をめぐる問題

雇止めと在留期間

外国人労働者が労働契約を締結する場合、資格外労働者を除くほとんどの者が、1年未満の期間の定めのある労働契約となっています。

これ自体「国籍」による差別的取扱いの疑いが強いといわねばなりませんが、外国人労働者は日本での滞在が在留期間に限定されるため、権利行使が困難であるという問題があります。

使用者は、契約を何回も更新していた場合でも、契約更新拒否の意思表示(雇止め)により外国人労働者を解雇します。

この契約期間はほとんどの場合、在留期間にリンクしていますので、直ちに出国しないと超過滞在となってしまいます。

このため、雇止めの効力に争いがあったり、賃金不払い等労働法令違反があり、外国人労働者が権利を主張することは困難となります。

こうした効果を狙い、使用者が滞在期間(契約期間)切れ間近になって契約更新拒否の意思表示をすることが少なくありません。

この場合、弁護士に上申書を書いてもらい地方入管局に在留期間更新申請を行い、在留期間の更新をしてくると思われます。

在留期間更新許可を取得したのち、じっくりと団体交渉を行うこともあるようです。

また、雇用保険に加入していないことも多いので、雇用保険適用の確認を申請し、仮給付を得て交渉するケースも多いようです。

中途解約

期間の定めのある契約(有期雇用契約)については、「やむを得ない事由」がなければ契約の解除はできません。(民法第628条

しかし、そうした理由のあることは稀です。

損害賠償(残りの期間の賃金)請求ができる場合が、ほとんどだといえます。

契約の残余期間が少ない場合には、1の場合と同様に、在留期間更新許可申請を行ったり、雇用保険に加入していない場合には、雇用保険適用の確認を申請し、仮給付を得て交渉を継続されることになります。

期間の定めのない契約

期間の定めのない契約を締結しているのは、資格外就労者の場合がほとんどだと思われます。

この場合、日本人の通常の解雇と何ら変わる点はありません。

しかし、契約内容が不明確であったりする場合も多く、通訳を通じてきちんと聞き取りをすることが大切です。


年収の証明がない

在留資格の更新にあたっては、年間の収入及び納税額に関する証明書が必要です。

通常、源泉徴収票を使いますが、最初に入管に提出した申請書と実際の賃金額が違う場合など、使用者は源泉徴収票を出したがらない場合があります(違法)。

収入の証明と納税額の証明は、課税証明書でもできます。

※ただし、もともと資格をとったときの申請が虚偽であったのでは・・・、と入管が疑う可能性もあります。

本国で募集されたときの条件と、日本に来てからの実際の労働条件が異なっていて、やむを得ず承諾した場合などは、その旨上申書で説明し、理解を求めます。

また、地方税については、普通徴収(源泉徴収なし)になっていて、これを本人が知らずに支払っていない場合があります。

この場合、更新までに支払うことが必要です。

山口製糖事件 東京地裁 平成4.7.7

使用者が出入国管理当局に申告した賃金額と、労働者たちとの間で合意した賃金額が異なっていたが、当局に申告した額が雇用契約上の賃金額となるわけではない、と判断。


外国人従業員が犯罪を犯した

日本の刑法が適用されます。これは不法就労者であっても同様です。

ただし、同時に当該外国人の本国において本国の刑法が適用される場合もあります。犯罪行為の内容いかんによっては、属地主義による日本刑法が適用されるとともに、当該出身国において、属人主義などにより同国の刑法が適用されることがあるからです。

この場合、条約に基づいて身柄引き渡しが求められます。

外国人本人は、逮捕・拘留・起訴それ自体によって、在留資格を失うことはありません(犯罪によっては、退去強制の対象ともなり得ます)。

とはいえ、執行猶予付きの判決でも有罪には変わりなく、在留資格の次回更新は困難になります。

在留資格がない場合は、たとえその問題で起訴されていなくても、執行猶予判決の後、ただちに入管に収容され、退去手続が行われます。

事業主も、不正就労が発覚すれば、不法就労助長罪(入管法第73条の2)に問われる可能性があります。

入管法は本人出願を原則としていて、事業主が代理で申請することはできません。ただし、親族や行政書士による手続が可能な場合もあります。


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