パワーハラスメント
パワハラの定義
パワハラの名付け親である、クオレ・シー・キューブでは、パワハラを次のように定義しています。
パワーハラスメント
職権などのパワーを背景にして、本来業務の適切な範囲を超えて、継続的に、人格や尊厳を侵害する言動を行い、就労者の働く環境を悪化させ、あるいは雇用不安を与えること。
パワハラ被害を訴えるのは6対4で女性の方が多いのですが、男性の相談の中身は深刻で、子どもを持ち、家を手に入れるなど家庭責任が重くなっていき、そう簡単には会社を辞めるわけにはいかないといった男性従業員に対し、「オレの言うことが聞けないなら、辞めてもいいんだよ」という嫌がらせが多い、とのことです。
セクハラには、「相手が不快と感じればセクハラになる」という判断基準がありますが、パワハラにはそういうものはありません。
加害者は相手が弱いと感じると、ハラスメントをさらにエスカレートさせる傾向があります。
パワハラのヴァリエーション
職場でパワハラを行うパワーの源としては、主に3つのものがあります。
- 上司
- 組織内での職権上の権力を背景として、立場の弱い人に対するパワハラが行われます。
- 集団
- 集団的いじめ。部署全体でその人の存在を無視する、不当な言いがかりをつけ責任を押しつけるという種類のパワハラです。
職場全体が体育会系の雰囲気だと、そのテンションについていけない人は「ノリが悪い」「付き合いが悪い」と疎んじられます。
職場が融通のきかない堅い雰囲気だと、マイペースで仕事をこなす人や社交的な人が、排除の対象となります。 - スキル
- 中途採用で入った社員に対し、昔からいた社員が仕事を教えなかったり、異動してきた上司に必要な情報を渡さない。ITの苦手な者をバカにし、無能呼ばわりする、などもこれに当てはまります。
パワハラの範囲
一般的な答えはありませんが、領域を示すと次のようになります。
- 1回でもパワハラに該当するケース
- (1) 刑法に触れるもの
(2) 不法行為の強要
(3) 労働基準法に触れるもの
(4) 明らかに基本的人権を犯すもの - 頻度や内容によりパワハラに該当するケース
- (5) 人格を傷つける言動
(6) 軽微な違法(上記(1)~(3)以外)行為の強要
(7) マネジメントの問題
・不適切な業務指示
・行きすぎた教育指導
・好ましくない職場環境 - パワハラではないケース
- (8) 業務遂行上必要、かつ適切な指示
(9) 正当な教育指導
(10) 評価、待遇に対する根拠のない不満
(11) 具体的ハラスメント行動がない
加害者の性格による差
自分自身をコントロールできるか、という点を例にとって考えると、2つのタイプがあります。
- 自分の怒りの感情をコントロールできずに部下に当たり散らす
- ある意図のもとでしっかり自己をコントロールしながら、特定の部下に対して冷たい態度で攻撃を繰り返す
ネチネチ型のパワハラ
パワハラには相手をおおっぴらに攻撃するのではなく、一見それとわからないものもあります。
- 日常会話はおろか、あいさつすらしない
- その人を見ながらヒソヒソ話をする
- 今までの仕事を別の人に振り、新しい仕事を与えない。書類を渡さない。メールを出さない。受け取ったメールに返事をしない。会議に呼ばない。呼んでもその人の意見だけ取り上げない
- 居ないものとして扱い、日常的に無視する。周囲にも無視するようし向ける。
電話の受け答え、トイレに立つ回数など、そんな些細な事柄もネチネチ型の加害者には恰好の材料となります。
職場としての対応が必要かどうかの判断が重要
加害者が特定の人物で、その人だけが異常な言動を繰り返しているのか、職場自体がハラスメントの起きやすい風土になっているのかを識別しなければなりません。
後者なら、組織風土の改善が求められます。
パワハラが生じた場合、短期的・局地的には労働効率が上がるかも知れませんが、長期的には職場の志気は疲弊し、労働意欲の減退や生産性の低下となって現れます。
また、いったん裁判で損害賠償を求められた場合、その賠償額のみならず、訴えられることによる企業イメージの低下は、大きなダメージとなって波及することになります。
会社側がパワハラ問題に対処するためのポイント
- 人権問題としての視点
- 労働者の個人としての名誉や尊厳を傷つける問題であり、人間侵害であるとの視点でとらえる必要があります。
- 労務管理上の問題としての認識
- 個人的な問題ではなく、雇用上の差別であり、人事・労務管理上の問題として対応しなければなりません。
- 意識のズレの存在についての洞察
- 職場の上下関係や、男女の心理、意識の違いが問題の理解を困難にしていることに留意し、そのコミュニケーション・ギャップがどこから出てくるのかを理解する必要があります。
- 職場環境を悪化させる要因としての捉え方
- パワハラが存在するだけで、働きやすい職場環境にとっての大きな障害であるという認識をもつべきです。
両罰規定
労働基準法の使用者の概念は、「事業主のために行為をするすべての者」となっています。(労働基準法第10条)
さらに、罰則規定において「違反行為をした者が、・・・使用人その他の従業者である場合においては、事業主に対しても各本条の罰金刑を科する。」とあります。(労働基準法第121条)
このことにより、事業主が、従業員が会社のために行っている行為の違法性を知りながら、それを是正しようとしなかった場合には、会社に対しても罰則が科せられる可能性があるのです。
相談窓口を作っても利用する人がいない
理由の第一は、「相談窓口に相談することによって解決が図られるとは思われない」という不安です。
具体的には「相談員が人事担当課長では、苦情を理解してもらえない」「相談員のメンバーが問題」「相談員にとても解決能力があるとは思えない」などという受け止め方です。
第二に、「どの程度のことが取り上げてもらえるのか分からない」という戸惑いです。
実際に相談しても「その程度のことは・・・」と、あいまいに済まされてしまうのではないかという心配です。
第三に、「相談しても、プライバシーが守られるのかどうか」という危惧です。
訴えたことによって、自分の立場がいっそう悪くなってしまった、という2次被害が問題となることは、少なからずあります。これでは、「今の状態では会社には相談できない」という雰囲気になってしまいます。
逆に言えば、こうした心配点を解消してあげることが、相談窓口利用を進めるポイントといえます。