労働条件の一方的変更はできない


長期不況の悪循環の下で、企業のリストラの有力な手法の一つが労働条件の不利益変更です。

経営危機克服を理由とする賃金・退職金の削減や労働時間の延長などが、規制緩和の掛け声の下に行われているのが現状であるといってよいでしょう。

労働条件の変更は、下記の3種類の方法によるか、あるいは個々の労働者との個別の合意を得るかでしか、できないのが原則です。

制度的な労働条件の不利益変更は、以下の3つの方法によって行われます。

(1) 就業規則や労働協約によらない切下げ

労働者の同意がない
→拘束力なし

労働者の同意がある
→取消ができるかどうか

(2) 就業規則の変更による切下げ そのような変更に拘束されるかどうか
(3) 労働協約の変更による切下げ そのような労働協約の適用を受けるかどうか

合理性が鍵

労働契約も「契約」ですから、契約の中身である賃金などの労働条件を変更するには、原則として、使用者・労働者双方の同意が必要です。

したがって、労働者の同意のない一方的変更は無効です。 (労働基準法2条:労働条件の決定)

従来どおりの労働条件に基づく契約の履行を求められます。

特に賃金は、契約内容のなかでも、最も重要なものです。裁判所も、

「労働契約において賃金は最も重要な契約要素であることはいうまでもなく、これを従業員の同意を得ることなく、一方的に不利益に変更することはできない」 (チェースマンハッタン銀行事件-東京地裁 平成6.9.14)

としています。

また、この賃金の減額が整理解雇を避けるためになされたという主張に対して、実際には整理解雇がなされず減額措置を選択したのであるから、「この措置の有効性が問題になるのであって、整理解雇という措置を選択しなかったことをもって」本件措置を有効とすることはできないし、「整理解雇という措置がなされていないのに」これとの対比で本件措置が従業員にとって犠牲の少ない措置であるということもできないとしています。

また、労働者が労働条件の一方的不利益変更に同意していた場合でも、法令、労働協約、就業規則に違反しているときには、不利益変更の同意は無効ということになります。(労働基準法13条労働組合法16条労働基準法93条)

現実には、多くの会社では就業規則で労働条件を定めており、その場合は使用者が就業規則を変更することで、個々の労働者の同意を得ないで労働条件を変更することが可能です。

しかし、その場合でも労働者に不利益な就業規則の変更(労働条件の切下げ)は、それが合理的なものでない限り労働者を拘束しません。

逆にいえば、合理性があれば、同意しない者に対しても、変更後の労働条件を適用することができます。

従業員との話し合いが不十分のまま就業規則の変更が行われると、その後の裁判で無効・差し止めの判断が下されることもあります。

合理性とは

労働条件の変更などの際には、この「合理性」という言葉が盛んに出てきます。一見、響きのよい言葉ですが、具体的にはなかなか定義づけが難しい概念です。

合理性の判断は、次のような要素を総合して行われることになります。

(1) 労働者が被る不利益の程度
(2) 会社の必要性の内容・程度
(3) 変更内容自体の相当性
(4) 代償措置その他の労働条件の改善状況
(5) 労働組合などとの交渉の経緯
(6) 他の労働組合・他の従業員の対応
(7) 同種事項に関する社会一般の状況
(8) 特に大きな不利益を被る者への経過措置(激変緩和措置)

法令に反する変更は許されない

賃金等の労働条件は、法令・労働協約就業規則労働契約などで定められますが、その効力は、効力の強いほうから、

法令(強行法規)>労働協約就業規則労働契約

の順になります。

たとえば、就業規則や労働協約が最低限の基準を定めた労働基準法以下の内容なら、労基法の規定が優先適用されますし、労働協約に違反する就業規則や労働契約は、その部分が無効となります。

また、就業規則に違反する労働契約はその部分に限り無効となります。


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