労働協約締結による切下げ

労働協約の締結・改定による場合

労働協約の適用により、労働条件が不利益に変更されるという場合、次の2つのケースが考えられます。

協約の規範的効力

一つは、労働組合法16条の基準的効力との関係で、労働協約締結により「労働条件その他の労働者の待遇に関する基準」が不利益に変更された場合、それよりも有利だった労働契約は無効とされ、協約が定めた不利益な水準になってしまう場合です。

労働協約によって労働条件が変更された場合、その労組の組合員であれば、原則としてその協約が適用されます。

朝日火災海上(石堂)事件 最高裁 平成9.3.27

協約が締結されるに至った以上の経緯、当時の被上告会社の経営状態、同協定に定められた全体としての合理性に照らせば、同協約が特定の又は一部の組合員を殊更不利益に扱うことを目的として締結されたなど、労働組合の目的を逸脱して締結されたものとはいえず、その規範的効力を否定すべき理由はない。

労働組合は、原則として労働者に不利益な事項についても労働協約を締結しうるし、その協約は当該労働組合員を拘束すると考えられています。

というのは、労働組合の目的は労働条件の維持・改善ですが、長期的・総合的判断した結果、場合によっては特定の労働条件の引下げに同意しなければならないこともありますし、一定の労働条件の引下げが他の労働条件の改善と対応する場合も少なくないからです。

もちろん、協約の内容が法令違反や公序良俗に反するときは、協約の無効確認の訴えを起こす等の方法があります。

鞆鉄道事件 広島地裁福山支部 平成14.2.15

56歳以上の基本給等30%カット。

一部の者にのみ不利益変更することや変更の必要性からみて合理性が疑わしく、締結にあたっての手続的瑕疵があるとはいえないものの、組合内での十分な検討等の手続的正当性が不十分である。

賃金カットについては否定された。

協定の一般的拡張適用

もう一つは、労働組合法17条と労働協約の一般的拡張適用との関係で、4分の3以上の労働者を組織する多数組合が不利益な労働協約を締結した場合、非組合員や少数組合の組合員の労働契約も、多数組合が締結した協約が定めた不利益な水準となってしまう場合です。

また、組合員でない場合でも、協約を締結した組合の組織率が4分の3以上の場合には、適用になります(別の組合の組合員の場合、判例は分かれていますが、一般には、適用にならないと考えてよいようです)。

会社合併の場合

会社が合併する場合は、労働契約については消滅会社の従業員の労働契約も合併会社に承認されるというのが通説と言われています。

退職者への適用

港湾労働安定協会事件 神戸地裁 平成17.5.20

原告らは年額30万円の港湾労働者年金を受給してきたが、労使協定の締結により、年額5万円を減額して支給されることになった。

これを不満だとして提訴。

裁判所は、労使間の合意は、すでに退職して労働組合を脱退した受給権者には及ばないため、契約変更は認められないとした。


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