労働契約法

国の研究会報告による考え方

厚生労働省では、学識経験者の参集を求めて2004年4月から「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会」(座長:菅野和夫明治大学法科大学院教授)を開催し、労働者が納得・安心して働ける環境づくりや今後の良好な労使関係の形成に資するよう、労働契約に関するルールの整理・整備を行い、その明確化を図るための検討を行ってきました。

この報告書(2005年9月15日)は、以下のような内容となっています。

労使協議の場(労使委員会)の常設

労働者側が半数以上になるよう構成。

労働組合がなくても労働条件の変更などを円滑に行える。

例えば、就業規則の変更の際に、労働者の意見を適正に集約した上で労使委員会の委員の5分の4以上の多数により変更を認める決議がある場合に変更の合理性を推定することや、同委員会での事前協議や苦情処理などの対応を、配置転換、出向、解雇などの権利濫用の判断基準の一つとすることなど。

労働組合がある場合の労使委員会との調整など、複雑な問題も残っている。

関連事項:労使委員会

解雇の金銭解決

解雇が無効とされた場合でも、職場復帰せず金銭補償する道を開く。

解決金の額の基準については、個別企業において、労使間で集団的に解決金の額の基準の合意があらかじめなされた場合に限り申立てができることとし、その基準によって解決金の額を決定する方向で検討することが適当である。

有期労働契約の雇止めをルール化

有期労働契約に関して、使用者が契約期間を書面で明示しなかった場合の労働契約の法的性質について、これを期間の定めのない契約であるとみなす方向で検討する。

当事者間の合意があったとしても、書面による明示がなければ、期間の定めなしとされる。

その他、企業が労働者の適性や業務遂行を見極めてから本採用する、いわゆるトライアル雇用契約については、契約期間の満了後に引き続き期間の定めのない契約を締結する可能性を明示させ、試用目的の有期労働契約の位置づけを明確にする。

出向や転籍など

出向後も出向前の賃金水準を維持するよう出向元・出向先が保障。

転籍先の条件などを書面で示す。

労基法18条の2の労働契約法制への移行

解雇権濫用についての労働基準法条項(第18条の2)は、平成20年3月1日に労働契約法(第16条)に移行。

解雇は、労働者側に原因がある理由、企業の経営上の必要性、ユニオンショップなど労働協約の定めにあるもの、を明らかにすべきである。

整理解雇について、考慮事項(人員削減の必要性、解雇回避措置、解雇対象者の選定方法、解雇に至る手続など)を明らかにすべき。

就業規則の変更法理の明文化

秋北バス事件の最高裁判決(昭和43)以降の判例の蓄積により、就業規則による労働条件の変更が合理的なものであれば、それに同意しないことを理由として、労働者がそれを拒否することができないとの「就業規則の不利益変更法理」が確立している。

これを踏まえ、この判例法理の明確化を提起している。

その他

試用期間の上限の設定。

解雇の理由を文書で示す。

雇用主側から働きかけた退職を受け入れても、8日程度はクーリングオフが可能に。

なお、本法には罰則の盛り込みは考えられていない。

労働法制見直し始動 一定年収で残業代なくす制度も提案

働く人と会社の雇用契約のルールを明確にする新しい「労働契約法」と労働時間法制の見直しに向けて、厚生労働省は13日開かれた労働政策審議会の分科会で、素案を示した。長時間労働の是正のために賃金に上乗せされる残業代の割増率を引き上げる。

一方で、一定以上の収入の人は労働時間の規制から外して残業代をなくす仕組みなどを提案している。

会社員の働き方を大きく変える内容だ。

同省では7月に中間報告、今秋までに最終報告をまとめ、来年の通常国会に労働契約の新法や労働基準法改正案などの関連法案を提出したい考え。

素案は残業代の割増率の引き上げなど労働者を守るため規制が強化される部分と、残業代が必要ないなど企業にとって使いやすい人材を増やす側面の両面を含む。

労使双方から反発が出ており、どこまで一致点が見いだせるか議論の行方は不透明だ。

素案では、長時間労働を是正するために、

▽現在最低25%の残業代の割増率を、月30時間を超える場合に50%とする

▽長時間残業した人の休日取得を企業に義務づける

▽整理解雇の濫用を防ぐルールの明確化

などを盛り込んだ。

その一方で、

▽一定以上の年収の人を労働時間規制から外して残業代の適用対象外にする「自律的労働制度」の創設

▽就業規則など労働条件変更の際、過半数の社員でつくる組合の合意があれば個別の社員の合意と推定

▽裁判で解雇を争って無効になった場合でも解雇を金銭で解決できる仕組みの検討

――なども示した。

自律的労働制度の対象となる社員について、厚労省案では具体的な基準は示されていないが、日本経団連は昨年、年収が400万円以上の従業員を労働時間規制の対象外にするよう提案しており、基準の設け方によっては多くの正社員の残業代がなくなる可能性もある。

同日の分科会では、労働側が、労働時間規制の適用除外を広げる案や解雇の金銭解決などが盛り込まれていることに「これまでの議論が反映されていない」と強く反発。

労使の一致点が見つからなければとりまとめをしないよう求めた。

一方、使用者側も「雇用ルールを明確にするのに必ずしも法制化は必要ない」などとして、ルールの厳格化によって人事・労務管理などが規制されることに警戒感を示した。

(asahi.com 2006.6.13)

厚労省、労働契約法制定へ 常設労使委など盛る

厚生労働省は労使間で労働条件などを決める際の基本的なルールや手続きを定めた「労働契約法」(仮称)の制定をめざす方針を決めた。

就業形態が多様化し、労働の最低条件を一律に定めた労働基準法などでは対応しきれなくなったためだ。

労働組合との交渉などに代わる労使協議の場として常設の「労使委員会」を認めるほか、企業再編に伴う労働条件の変更ルールや、解雇トラブルを金銭で解決するなど紛争処理の新しい仕組みもつくる。

2007年にも法案を国会へ提出する。

新法制定は厚生労働省の研究会が8日にもまとめる最終報告に盛り込む。

具体案は労使代表などで構成する労働政策審議会で今後1年かけて検討、衆院選後に与党との調整も進める。

(NIKKEI-NET 2005.9.8)

労働契約法 制定へ

労働契約法(仮称)のポイント・主要論点

バブル崩壊後に終身雇用の慣行が崩れ、中途採用や裁量労働制が拡大、パートや派遣労働者なども増え、働き方が多様化している。

これに伴い労働契約の変更や解雇などをめぐる労使紛争が増えているが、労働契約の民事ルールがないため、裁判に解決を委ねているのが実情だ。

時間とコストがかかり、労使双方の負担になっている。

このため、厚労省は採用から退職まで労働契約のルールを明確にする新法の制定が必要と判断した。

労使委員会は時間外労働や就業規則の変更などをめぐる常設の労使協議の場となり、労働者が半数以上になるように構成する。

会社側はこうした問題で社員の過半数が加入する労組などと協議・調整することが労基法で義務づけられている。

しかし最近は労組の組織率が低下しているうえ、代替手続きも煩雑なため新たな労使組織を法制化、交渉を機動的に進められる道を開くことにした。

また、労働契約時に明示された内容と異なる労働条件が適用された場合、明示された条件の適用を労働者が請求できるよう明記したり、転籍時は条件や相手先企業の財務内容を書面で示すなども盛り込む。

解雇を巡る裁判では、解雇が有効か無効かの判決と一緒に、金銭解決の道を示せるようにする。

解決金額などを労使があらかじめ協議して決めておく案などが浮上している。ただ雇用主が解雇権を濫用しないよう国籍や性別などを理由とする解雇では金銭解決を認めないようにする。

現在は、解雇を巡る裁判は解雇が有効か無効かという二者択一の判断しかなく、雇用主(企業)は解雇無効の判決なら労働者を職場復帰させる必要がある。

実際には裁判で解雇が無効になっても職場復帰が難しく、新たな争いが生じる例も多い。

(解説)

一律規制に限界 -具体化では労使対立も-

厚生労働省が「労働契約法」の制定に動き出した。

職種や雇用形態の違いを考慮せず最低限の労働条件などをほぼ一律で規制しているのは労働基準法などの現行法制が就業構造や産業構造の多様化に追い付かず、労使間の「契約」で対応せざるをえなくなってきたことが背景にある。

ただ労働契約の新ルールづくりをめぐっては、労使間で意見が異なっている項目もあり、これから始まる労働政策審議会の議論は難航も予想される。

最終報告をまとめる厚労省の研究会は学者や弁護士で構成している。

このため労使代表が参加する労政審が、経済界や労働界を含めた本格的な調整の場となる。

課題の一つは解雇を金銭で解決する仕組みの導入問題だ。

労働側には、不当解雇をした使用者に金銭解決の申出を認めると、「金さえ払えば解雇できる」という風潮を広めるとの懸念がある。

一方、使用者側は、職場復帰が難しい以上、条件を付けず早期に解決する方が労使にとって利点が大きいとの立場だ。

このほか、必要以上にルールを明確にすると、これまで労使の自主的な話し合いで解決してきた事柄でも、逆に民事訴訟を起こす"武器"になるなど紛争を助長しかねないとの指摘もある。

労働力人口がすでに減り始めた日本で、労働者が生産性を上げ、企業も国際競争力を維持するための環境整備は急務だ。

有用な制度になるかどうか、活発な議論が求められる。

日経新聞(2005.9.8朝刊)


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