不正行為と懲戒解雇

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不正行為を理由とする懲戒解雇


不正行為=懲戒解雇というわけではない

たとえ不正行為を行ったからといって、懲戒解雇が正当化されるわけではありません。

懲戒解雇は、通常、失業給付(基本手当)の受給制限を受け、退職金の全部または一部の不支給を伴い、また再就職も困難になるなど労働者の生活に著しい不利益をもたらしますので、懲戒解雇が有効とされるためには厳しい要件が必要とされています。

したがって、不正行為があったからといって当然に懲戒解雇とされるわけではありません。

なお、懲戒解雇であっても、当然に解雇予告の手続きを踏まずに即時解雇できるわけではありません。

解雇予告を行わずに即時解雇するには、労働基準監督署の認定が必要になります(労働基準法20条3項)。

懲戒解雇は労働者の生活を困難とする最も重い処分なので、不正行為の内容が懲戒解雇に値するものであることが必要となります。

不正行為の内容が軽微なものであれば、より軽い懲戒処分しかできません。

また、就業規則があっても周知されていないときには、就業規則といってもそれは会社の内部文書にすぎず就業規則としての効力はありませんので、就業規則のない場合と同じになります。

(1) 正当な理由なく、無断欠勤14日以上に及び、出勤の督促に応じないとき
(2) しばしば遅刻、早退及び欠勤を繰り返し、そのため会社の業務運営に著しい支障を与え、上司が○回にわたって注意を与えても改善の見込みがないとき
(3) 会社内における窃盗、横領、傷害等刑法犯に該当する行為があったとき、又はこれらの行為が会社外で行われた場合であっても、それが著しく会社の名誉若しくは信用を傷つけたとき
(4) 故意又は重過失により、業務上の事故若しくは災害を発生させ、会社に重大な損害を与えたとき
(5) 正当な理由なく、しばしば業務上の指示・命令に従わなかったとき
(6) 会社内において刑法その他刑罰法規の各規定に違反する行為を行い、その犯罪事実が明らかになったとき(当該行為が軽微な違反に当たる場合を除く)
(7) 素行不良で著しく会社内秩序又は風紀を乱したとき
(8) 重大な経歴を偽り採用されたとき
(9) 数回にわたり懲戒を受けたにもかかわらず、なお、勤務態度に関し、改善の見込みがないと認められたとき
(10) 相手方の望まない性的言動により、円滑な職務遂行を妨げたり、職場の環境を悪化させ、又は、その性的言動に対する相手方の対応によって、一定の不利益を与えるような行為を行ったとき
(11) 許可なく職務以外の目的で会社の施設、物品等を使用したとき
(12) 職務上の地位を利用して私利を図り、又は取引先等により不当な金品を受け、若しくは求め、又は饗応を受けたとき
(13) 私生活上の非違行為や会社に対する誹謗中傷等によって会社の名誉信用を傷つけ、業務に重大な悪影響を及ぼすような行為があったとき
(14) 会社の業務上の秘密を外部に漏洩して会社に損害を与え、又は業務の正常な運営を阻害したとき
(15) その他前各号に準ずる程度の不適切な行為があったとき

懲戒解雇が有効とされた判例


久留米工業大学事件 福岡高裁 平成17.9.14 福岡地裁久留米支部 平成16.12.17

教師が、職場のパソコンを利用して、出会い系サイトに多量のメールを発信していた。受信記録は平成10年9月から5年間に1650通で、およそ6割が私用メールで、その半分程度が勤務時間内に発信されていた。出会い系サイトとの受送信分の数800件に達していた。相手からも「大丈夫なのか」と2度に渡って指摘されていた。

これを知った学校は原告に事情聴取したが、上司に対し謝罪や反省を述べることもなかった。

学校側は原告を懲戒解雇した。

一審の判断

諸事情を総合勘案すると、もっとも重い懲戒解雇をもって臨むのは苛酷に過ぎるとし、解雇を無効とした。

メールの内容は卑猥なものでなく、授業や就職関係の事務をおろそかにしたこともなく、実害もなかった。当時パソコンの使用規程もなかった。

二審の判断

一審判決を取消。仮執行宣言に基づき、学校が原告に支払った995万余円について、学校側に支払うよう命じた。

本件懲戒解雇はやむを得ないものであり、不当に苛酷なものでもない。解雇権の濫用でもない。


トヨタ車体事件 名古屋地裁 平成15.9.30

課長職にあった者が、別会社を設立し、所属会社の発注権限を濫用し下請け2社から多額にリベート(1800万円以上)を受領したことを理由とする懲戒解雇が、認められた。


中川印刷事件 大阪地裁 平成13.8.24

度重なる無断早退、上司への暴言、会社機器の私用等を理由とする懲戒解雇が有効だとされた。


大阪観光バス(懲戒解雇)事件 大阪地裁 平成12.4.28

取引先の女性添乗員、トラベルコンパニオンに性的関係を迫ったり、身体に触れるなどした観光バス運転手に対する懲戒解雇が有効とされた。


かどや製油事件 東京地裁 平成11.11.30

勤務時間中に、ほぼ一日中、上司に無届けで自席を離れて業務遂行をほとんど放棄していた不誠実な勤務態度が、就業規則の懲戒解雇事由に該当すると判断された。


バイエル薬品事件 大阪地裁 平成9.7.11

無断で機器を不正に購入したこと等に対して懲戒解雇が行われ、有効であると判断された。


池田高校事件 大阪地裁 平成2.8.10

教え子の卒業後の男女関係を理由とする妻子ある高校教諭に対する免職処分に関し、教員に要求される高度の倫理性に反し社会の期待と信頼を著しく裏切ったものとして、処分を有効とした。


日航機長解雇事件 東京地裁 昭和61.2.26

近隣の主婦と情交関係に陥った航空会社の機長が問題をこじらせ、機長としての適格性に欠けるとして解雇された。裁判所は、安全運行体制の特殊性を考慮し解雇有効と判示した。


長野電鉄事件仮処分申請事件 東京高裁 昭和41.7.30

バス運転手が若年の女子車掌と不倫関係を結び、妊娠中絶させたことが解雇理由の「著しく風紀・秩序を乱して会社の体面を汚し、損害を与えたとき」に当たるとし、裁判所は、この解雇を有効とした。


懲戒解雇が無効とされた判例


ピー・アンド・ジー明石工場事件 大阪高裁 平成16.3.30

市議会議場で市長や市議会議員に非礼行為を行い会社の信用を著しく毀損し、会社と市間の業務委託契約の継続を不可能とされるおそれを生じさせた。

ごみ収集問題について記者会見を開催して虚偽の事実を開示したとされた。

これによる懲戒解雇が、懲戒権の濫用に該当するとして無効とされた。


日新興業事件 東京地裁 平成15.10.31

約30年間勤務した課長の退職申し出に対し、同人の請求書未提出により約814万円が回収不能となったとし、懲戒事由の「職務怠慢な者」に当たるという理由で、懲戒解雇を迫られた。

ただし、

  1. 原告のこれまでの勤務状況
  2. 債権回収不能の事態が発生したのは原告だけの責任ではなく、上司の責任でもあるのに、上司は何らの処分もなくかえって昇進していること

等から、権利の濫用であり無効。退職金請求は認容。


リンクシードシステム事件 東京地裁八王子支部 平成15.9.19

勤務中にインターネットによる株取引等を行った行為は、著しい規律違反といえるが、会社に損害が生じたとも認めがたく、また、会社から注意を受けた後には問題とすべきアクセスがあったと認められないという事情を斟酌すると、懲戒解雇処分を選択することが許されるとまではいえない。


勝営運輸事件 大阪地裁 平成8.9.2

業務上のミス指示違反につき反省の意思がないとしてなされた懲戒解雇について、懲戒解雇という重大な事態については、解雇回避のために適切な指導、配置換え、反省のための熟慮期間の付与など、相当な手段が尽くされなければならないとされた。


豊橋総合自動車学校事件 名古屋地裁 昭和56.7.10

既婚従業員が女子教習生と情交関係をもち近隣の人々の噂となった。裁判所は、企業運営に具体的な影響を与えた否かが判断されなければならないとして、解雇を無効とした。


懲戒処分の公開・非公開

懲戒処分については、問題が社会的な広がりを持つ場合、公開することも必要な場合があります。

この際は、次のことに考慮することにしましょう。

(1) 公表する対象を、当該会社に関係する者に留めるか否か。
(2) 社内外を問わず、公表する必要がある範囲はどこまでか、検討する。
(3) 感情的なリアクションは極力押さえ、公表の必要がある範囲にとどめる。表現も必要最小限のものにとどめる。
(4) 相手の名誉や信用を可能な限り尊重した公表方法を用いるように注意する。
(5) あくまで事実をありのままに公表するよう注意する。

就業規則がない場合

就業規則がない場合でも、解雇できないわけではありません。

使用者は、就業規則上の解雇理由に該当しなくとも、客観的に合理的な理由と認められる限り、従業員としての適格性や信頼関係の喪失を理由として、労働契約関係を終了させることができると考えられます。

しかし、就業規則がない場合は、懲戒解雇はできず普通解雇しかできません。

したがって、「上司との口論」などが普通解雇事由にあたるか、その他の解雇理由があるかどうか確認します。

合理的で正当な解雇理由があれば、普通解雇を行うことは可能です。

ベルフォード事件 東京地裁 平成15.10.31

会社は就業規則を定めておらず、従業員に対し懲戒権を行使することはできないから、懲戒解雇の主張には理由なく、未払賃金請求が認容された。


社外の行為での懲戒処分

企業外での非行についての懲戒処分に当たっては、その行為の性質、情状、事業の種類、態様、企業規模、企業の経済界など占める地位、経営方針、従業員の職種、地位等を総合考慮して、企業の社会的評価に及ぼす影響が相当重大であるとか、企業秩序への影響が多大であるといったことを要すると言えるでしょう(日本鋼管事件 最高裁 昭和49.3.15)。

JR東日本事件 東京地裁 昭和63.12.9

下着窃盗を目的に住居侵入し、罰金刑に処された従業員について、罰金は軽微だが、下着窃盗目的での住居侵入であり、破廉恥・悪質であり、会社の社会的評価を毀損させるとして懲戒解雇を有効とした。


関西電力事件 最高裁 昭和58.9.8

職場外でされた職務遂行に関係のない労働者の行為であっても、企業の円滑な運営に支障を来す恐れがあるなど企業秩序に関係を有するものなどについては、使用者は、企業秩序の維持確保のために、そのような行為をも規制の対象とし、これを理由として労働者に懲戒を科することも許されるとした。


横浜ゴム事件 最高裁 昭和45.7.25

酩酊して他人の風呂場に侵入し住居侵入罪で罰金刑に処された工員について、労働者の地位は一工員であり、体面を著しく汚したと評価できないとして、懲戒解雇を無効とした。


懲戒解雇と解雇予告

解雇予告手当の除外認定と、懲戒解雇そのものの有効性とは、お互いに独立しているものです。

したがって、労基署が除外認定したからといって、「懲戒解雇」に該当する、しないと断言することはできません。


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