懲戒解雇から普通解雇への転換

懲戒解雇から普通解雇への転換には両論

一般的に懲戒解雇より普通解雇の方が労働者にとって有利です。

このため、転換しても差し支えないという主張があります。

これに対し、懲戒解雇と普通解雇とでは、その根拠を異にし、手続・内容・効果において差違がある上、安易に転換を認めれば懲戒解雇が乱発される危険があるとし、転換を否定する意見もあります。

裁判例には、肯定・否定いずれの立場もあります。

岡田運送事件 東京地裁 平成14.4.24

懲戒解雇には、普通解雇の要素が含まれると判断。

使用者が懲戒解雇の要件は満たさないとしても、当該労働者との雇用関係を解消したいとの意思を有しており、懲戒解雇に至る経過に照らして、使用者が懲戒解雇の意思表示に、予備的に普通解雇の意思表示をしたものと認定できる場合には、懲戒解雇の意思表示に予備的に普通解雇の意思表示が内報されていると認めている。

与野市社会福祉協議会事件 浦和地裁 平成10.10.2

懲戒解雇→普通解雇を否定

職場内での協調性等が問題とされた案件。

懲戒解雇が無効であるとしても普通解雇としては有効であるという主張が使用者からされたが、裁判所は、懲戒解雇と普通解雇では主旨が異なり、転換は許されないとした。

日本経済新聞社事件 東京地裁 昭和45.6.23

懲戒→普通解雇を支持

懲戒解雇と通常解雇の差違は、退職金債権が発生するかどうかの点にのみあると考えて差し支えない。・・・そうであるとすれば、・・・使用者が懲戒解雇事由にあたるとした事実を懲戒解雇事由にあたるとは評価し得ない場合、そこでただちに雇用関係消滅の効果が生じないと断定することなく、・・・右解雇権の行使により通常解雇としての効力すなわち雇用関係消滅の効果が生じないかどうかを検討する必要がある。

三井鉱山事件 福岡高裁 昭和47.3.30

懲戒解雇→普通解雇を否定

控訴人は、本件解雇が懲戒解雇としての効力を生じないとしても普通解雇として有効である旨主張する。

しかし、控訴人の本件解雇の意思表示が懲戒解雇の意思表示としてなされたことは、その主張自体から明らかであるが、右が無効とされる場合これを普通解雇の意思表示に転換することは許されないものと解する。けだし、一般に、解雇の意思表示のような単独行為については、いわゆる無効行為の転換を認めると、相手方の地位を著しく不安定なものにするから、転換は原則として許されないと解すべきである。・・・

実務上の見地から言っても、かかる転換が認められれば安易に懲戒解雇を行う傾向を招き、ひいては懲戒権の濫用を誘発するおそれが多分に存するからである。

なお、解雇通告書などに「貴殿を懲戒解雇処分とする。なお、併せて普通解雇としての意思表示も行う」などと記載されていれば、両方の意味を持つと認められることになると考えられます。


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