懲戒解雇と退職金

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懲戒解雇と退職金について


懲戒解雇での退職金の支給・不支給

懲戒解雇処分を受けた場合、企業は就業規則労働協約などで退職金不支給や減額の定めをしていることが多く、一般的に退職金は、全額または一部が支払われないことになります。

懲戒処分により退職金不支給とするためには、その旨の規定を就業規則に設けておく必要があります。

規程がなければ、懲戒処分であっても、会社は退職金の支払い義務を負うことになります。(東北ツアーズ協同組合事件 東京地裁 平成11.2.23)

ただし、条項があるだけでは不十分であり、退職金の没収・減額については、就業規則退職金没収・減額条項があり、かつ、労働者の永年の勤続の功を抹消してしまうほど著しく信義に反する行為があった場合にのみ有効とされます (中部日本広告社事件 名古屋高裁 平成2.8.31)。

退職金を不支給にできるかについて、裁判例も分かれています。

懲戒解雇の場合の退職金の減額・不支給について、懲戒解雇が有効であれば退職金請求権を否定できるとされた判例もあります(ソニー生命事件 東京地裁 平成11.3.26)。

いずれにせよ、退職が有効に成立したとしても懲戒解雇事由に該当する者には退職金を支給しないというのであれば、就業規則(退職金規程)に、「懲戒解雇事由に該当する行為があるときは、退職金は支給しない」とか、「懲戒解雇の場合には退職金は支給しない。懲戒解雇によらなくても懲戒解雇事由が存在するときも同様とする」といった趣旨の規定を置いておくべきでしょう。


懲戒解雇での退職金が認められなかった判例


小田急(退職金請求)事件 東京高裁 平成15.12.11

鉄道会社の社員が、電車内の痴漢行為の再犯で起訴され、懲役4ヶ月(執行猶予3年)の有罪判決を受け懲戒解雇となり、退職金を不支給とされた事案につき、退職金の不支給は「労働者の永年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為があることが必要であり」職務外の非違行為である場合は、強度の背信性が必要としたうえで、本件痴漢行為は「相当の不信行為」であるとし、退職金の30%を支給すべきとした。


東京貨物社(解雇・退職金)事件 東京地裁 平成15.5.6

在職中に競合行為を行い、懲戒解雇され退職金を不支給された事案について、退職金が賃金の後払い的性格を有する以上、退職金の不支給は「当該従業員の長年の功労を否定し尽くすだけの著しく重大なものであることを要する」とし、入社後21年5ヶ月の職務実績を検討して、45%減の退職金が認められた。


高蔵工業事件 名古屋地裁 昭和59.6.8

従業員の行為が、長年築いた功労を否定してしまうほどの場合は、退職金請求権を失うとした。

退職金規定に懲戒解雇者に対する退職金不支給の規定がある場合において、退職後に懲戒解雇相当事由の存在が判明した場合、当該退職者の退職金請求権の行使が権利の濫用に該当するか否かについて考えるに、期間の定めのない雇用契約において従業員が使用者に対し退職の申出(解約の申入れ)をしたときは、使用者の承認の有無に拘わらず民法627条所定の予告期間を経過することにより雇用契約は当然終了し、その後に使用者が当該退職者に対し懲戒解雇処分をすることは法的に不可能であること、従業員が在職中に永年の勤続の功を抹殺してしまう程の重大な背信行為(例えば、多額の横領)をしておきながら、これを秘して雇用契約解除の申入れをし、右契約終了後に自己都合による退職をしたとして退職金請求権を行使することを容認するとすれば、懲戒解雇者の場合と著しく均衡を失し、社会の正義感、公平感に反することを考えると、退職後に判明した在職中の懲戒解雇相当事由が永年の勤続の功を抹殺してしまう程の重大な背信行為である場合は、当該退職者の退職金請求権の行使は権利の濫用に該当し、許されないものと解するのが相当である。


懲戒解雇での退職金が認められた判例


N興業事件 東京地裁 平成15.10.29

顧客先への請求書未提出(2134万円余・回収不能813万円余)が存在するが、未提出の事実をもって、「再三注意したにもかかわらず業務に対する熱意誠意がなく怠慢な者」に当たると評価するのは困難であり、懲戒解雇権の濫用であるとして、退職金1,302万円余の支払いが命じられた。


上野製薬事件 大阪地裁 平成15.3.12

社員退職金規程が設けられ、退職時に一定の計算式に基づいた退職金を支給する旨が規定されていることからすると、退職金は賃金の後払い的な性格を有し、その支給は労働契約の内容となっているものといえるから、これを不支給とするには不支給事由をあらかじめ規程に明記する必要がある。

しかし、規程には懲戒解雇の場合に退職金を不支給にするとあるに過ぎない。

懲戒解雇処分がなくても懲戒解雇事由があれば支払いを拒絶し得るとする会社の主張は採用できない。原告の退職金請求を認容。


アイ・ケイ・ビー事件 東京地裁 平成6.6.21

懲戒解雇であるという明確な意思表示が退職前になかったため、退職金の支払いを拒むことはできないとした。

懲戒解雇にともなう退職金の全部又は一部の不支給は、これを退職金規程等に明記してはじめて労働契約の内容としうると解すべきところ、本件において、成立に争いのない(書証略)によれば、被告の退職金規程は・・・7条で「就業規則に定める懲戒基準に該当する反則が退職の原因となった者に対しては、その者の算定額から50パーセント以内に減額することができる」と定めているが、懲戒解雇に相当する事由がある者には退職金を支給しない旨の規定は存在しないことが認められる。

してみると、仮に被告が主張するような懲戒解雇相当の行為が原告にあったとしても、現に被告が原告を懲戒解雇したとの主張・立証がない(もっとも、原告、被告間の雇用契約が終了している以上、その後に被告が原告に対し懲戒解雇の意思表示をしたとしても、その効力はない)以上、右行為が存在することのみを理由として退職金の支払を拒むことはできないと解するのが相当である。


退職金の支給をもくろみ、退職を早く申請した

退職願の提出は労働者の権利ですから、会社はその受け取りを拒否することはできません。

ただし、この退職願に退職金支払いを確定させる効力はありません。

懲戒解雇が不確実なケースで、その確定前に退職届を出して自己都合退職してしまおう、という場合があります。

会社としては、懲戒解雇が確定した後に、あらためて退職金不支給という取り決めもできますが、事前にその内容を、本人に説明する必要もあるでしょう。

その上であらためて、懲戒事由の白黒がはっきりしてから退職金を支給するという決め方もできます。


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