変更解約告知の判例について

変更解約告知が認められた判例

日本ヒルトン事件 東京高裁 平成14.11.26

労働条件の変更に合理的理由の認められる限り、変更後の条件による会社の雇用契約更新の申込みは有効であり、労働者らの異議留保付承諾の回答は、申込みを拒絶したものといわざるを得ず、雇止めには社会通念上相当と認められる合理的な理由が認められるとした。

スカンジナビア航空事件 東京地裁 平成7.4.13

原告側労働者Xらは、航空会社である被告側使用者Yの日本支社で、地上職またはエアホステス(客室乗務員)として雇用されている従業員であり、雇用契約において業務内容及び勤務地が特定されていた。

Yは平成6年、業績不振による合理化策の一環として、早期退職募集と労働条件変更を伴う再雇用の募集を提案した。

その内容は、

  1. 日本支社の全従業員に対し、優遇条件を定めて早期退職を募集する。
  2. 早期退職した従業員の中から、新たに縮小した組織に必要な人員に限って再雇用する。
  3. 再雇用に当たっての労働条件は、従来の条件を変更し、新労働条件(賃金・退職金・労働時間制度等の変更、有期契約など)とする。

従業員140名のうち115名が早期退職募集に応じたが、Xら25名は従前どおりの条件での雇用継続を主張して早期退職募集に応じなかった。

Yは再度、早期退職とともに再雇用の可能性がある者(18名)に対してはその応募を促したが、9名のみがこれに応じた。

そこで、Yは、早期退職・再雇用に応じなかったXらを解雇した。

判決:労働者側敗訴

この解雇の意思表示は、雇用契約で特定された職種等の労働条件を変更するための解約、換言すれば新契約対決の申込みをともなった従来の雇用契約の解約であって、いわゆる変更解約告知といわれるものである。

裁判所は、以下の理由により変更解約告知を有効としている。

  1. 労働条件の変更が会社業務の運営にとって必要不可欠であり、
  2. その必要性が労働条件の変更によって労働者が受ける不利益を上回っていて、
  3. 労働条件の変更を伴う新契約締結の申込がそれに応じない場合の解雇を正当化するに足りるやむを得ないものと認められ、
  4. かつ、解雇を回避するための努力が十分に尽くされているときは、
  5. 新契約締結の申込に応じない労働者を解雇することができる。

なお、本件は高裁で和解した。

しかし、日本には立法的整備がなく、ドイツのような厳格な労働契約は稀であり、また変更解約告知が問題となる多くの場合は就業規則変更法理で対処できます。

※ドイツでは、変更の正当性を争うことを留保した上で承諾するという考え方(留保付承諾)があります。

解雇という圧力手段を用いながら契約内容である労働条件の変更を迫るということは、本来解雇権の濫用といえるでしょうし、労働条件対等決定の原則(労働基準法第2条1項)にも反することになりますので、この裁判例については多くの批判がなされています。

変更解約告知という独立の類型を設けることは相当ではないと判断した大阪労働衛生センター第一病院事件(大阪地裁 平成10.8.31)は、実質的には整理解雇にほかならないとして、整理解雇の要件を適用しています。


変更解約告知を認めなかった判例

日本オリーブ(解雇仮処分)事件 名古屋地裁 平成15.2.5

コース選択制導入により賃金が半額近くになるとして新賃金制度に同意しなかった従業員が解雇通告された。

この従業員は就業規則の変更に不同意であるとして本訴請求を行ったが、新たな就業規則に異議をとどめて通常業務に従事しておい、具体的問題が発生しているわけではないから、就業規則の「やむをえない業務上の都合」に相当する解雇事由があるとはいえないとされ、解雇無効の仮処分が出された。

鴻池運送事件 大阪地裁 平成6.4.19

労働者が賃金制度の改定に応じなかったことを主たる理由として解雇されたが、このことは直ちに解雇理由とはなりえない。

大阪労働衛生センター第一病院(心療内科)事件
大阪高裁 平成11.9.1 大阪地裁 平成10.8.31

変更解約告知について消極的な見解を示した。

一審判決

週3日勤務の病院職員に対して、常勤となるか、他のパート職員並の労働条件引き下げ(ベア・定昇ストップ・一時金半額)を提案し、これに応じないことを理由として解雇したことは、解雇権濫用にあたる。

講学上いわゆる変更解約告知といわれるものは、その実質は、新たな労働条件による再雇用の申出をともなった雇用契約解除の意思表示であり、労働条件変更のために行われる解雇であるが、労働条件変更については、就業規則の変更によってされるべきものであり、そのような方式が定着しているといってよい。

これとは別に、変更解約告知なるものを認めるとすれば、使用者は新たな労働条件変更の手段を得ることになるが、一方、労働者は、新しい労働条件に応じない限り、解雇を余儀なくされ、厳しい選択を迫られることになるのであって、しかも、再雇用の申出が伴うということで解雇の要件が緩やかに判断されることになれば、解雇という手段に相当性を必要とするとしても、労働者は非常に不利な立場に置かれることになる。

してみれば、ドイツ法と異なって明文のない我が国においては、労働条件の変更ないし解雇に変更解約告知という独立の類型を設けることは相当でないというべきである。

二審判決

我が国においては、労働条件の変更ないし解雇に変更解約告知という独自の類型を設けることは相当でなく、解雇の意思表示が使用者の経済的必要性を主とするものである以上、その実質は整理解雇にほかならないのであるから、整理解雇と同様の厳格な要件が必要であるとした。


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