解雇とは

解雇の概要

解雇とは、使用者による一方的な労働契約の解約をいいます。

民法上、期間の定めのない労働契約については、使用者が2週間の予告期間をおけば何時でも労働者を解雇できるという建前がとられています。

しかし、この建前を貫くと、労働者の地位は極めて不安定になることから、労基法は30日前の解雇予告もしくは30日分以上の解雇予告手当の支払いを義務づけています。(労働基準法第20条

また、判例で「解雇権濫用の法理」が確立され、解雇が制限されています。

期間の定めのある労働契約の場合は、使用者はその期間中、労働者を原則として解雇することはできず「やむを得ない事由」があるときに限り「直ちに契約の解除(即時解雇)をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う」。(民法第628条

→ 会社を守るための賠償責任保険についてはこちら

これに対して、期間の満了の後も労働関係が事実上継続されて黙示の更新(民法第629条)がなされた場合には、使用者は期間の途中でも、期間の定めがない場合と同様に解雇をすることができます。(民法第629条


解雇の就業規則による規制

労働基準法第89条3号は「退職に関する事項(解雇の事由を含む。)」を就業規則の絶対的記載事項としており、通常解雇事由は就業規則に列挙されています。

この規定が制限列挙とする考え方もありますが、ほとんどの就業規則において「その他前各号に掲げる事由に準ずる重大な事由のある場合」といった包括的条項があり、制限列挙とする実益に乏しいといわれています。

しかし、いずれにしても使用者は就業規則上の解雇事由に該当しなくとも、客観的に合理的な理由と認められる限りは、従業員としての適格性や信頼関係の喪失を理由として、契約関係を終了させることができると考えられます。


解雇の労働協約による規制

解雇の事前手続きの規制(解雇協議条項や同意条項)、解雇理由の規制(協約上解雇理由の制限列挙)解雇の事後手続(苦情処理手続)など


解雇権濫用法理による制限

法令上の解雇禁止に抵触さえしなければ、いつでも自由に労働者を解雇できるというわけではありません。

また、労働基準法第20条の解雇予告をしたり、解雇予告手当を支払えば、自由に労働者を解雇できるというわけでもありません。

法令に違反していない場合であっても、「使用者は常に解雇しうるものではなく当該具体的な事情のもとにおいて、解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができないときには、当該解雇の意思表示は解雇権の濫用として無効になる」(高知放送事件 最二小 昭和52.1.31)とされています。

解雇する場合の合理的理由としては、以下のようなものが挙げられます。

  1. 労働者の労務提供の不能や労働能力または適格性の欠如・喪失
  2. 労働者の規律違反の行為による場合
  3. 経営の必要性に基づく場合
  4. ユニオンショップ協定に基づく解雇

解雇予告義務違反の解雇の私法上の効果

労働基準法第20条違反の解雇予告義務違反の解雇の効力について、行政解釈(昭和24.5.13 基収1483号)や判例の「相対的無効説」をとると、解雇の意思表示を撤回することを認めたと同様の、使用者が30日間の賃金または予告手当を支払わなくて済むという結果になります。


相対的無効説

解雇予告除外事由がないのに30日前の予告又は30日以上の予告手当の支払いをしないでなされた解雇の効力を、行政解釈、最高裁判例は「予告期間をおかず、または予告手当の支払いをしないでした解雇の通知は、即時解雇としては効力を生じないが、使用者が即時解雇を固執する趣旨でない限り、通知後30日の期間を経過するか、または通知後に予告手当の支払いをしたときは、そのいずれのときから解雇の効力が生ずる」(細谷服装事件 最二小判 昭和35.3.11)としています。

これは、労働基準法第20条が解雇により失職する労働者に対して他に就職口を求めるのに必要な期間の生活を保障することにあるのだから、上記のように解したからといって何ら労働者の保護を薄からしめることはないというものです。


相対的無効説批判

相対的無効説に対しては、解雇の効力発生の有無の判定を専ら使用者の意思表示の内容にかからしめ、無効な即時解雇が30日間を経過すれば効力を生ずるとする解決方法は、使用者の便宜に傾きすぎるものであり、労基法20条の趣旨を実質的に没却するものである(宣広事件 札幌地判 昭和50.10.11)とする批判があります。

この説によれば、使用者が即時解雇に固執しない限り解雇は通知後30日間を経過すれば効力が生じ、労働者はこの30日間の賃金を受領する可能性が生じます。

しかし実際、労働者の多くは「明日から出てくるな」といわれれば、会社に行かないのが普通です。

労務提供をしなければ、賃金請求はできません。

労働者が労務提供を断念したのは、使用者が即時解雇と誤解されるような予告義務違反の解雇を行ったためであって、そうした使用者が30日間の賃金または予告手当を支払わなくてすむ(※)のは、どう考えてもおかしいといえるでしょう。

事実、このような結果を回避するため、「労働者選択説」をとる下級審判決が増えてきているといわれています。

※相対的無効説は、この場合、即時解雇の意思表示以後その効力が発生するまでの間は、使用者の責に帰すべき事由による休業として、休業手当の支払いをする必要が生ずるとしています。


労働者選択説

この説は、使用者が即時解雇事由がないのに、予告期間もおかず予告手当の支払いもせずに解雇の通知をしたときは、労働者は解雇の無効の主張か解雇有効を前提として予告手当の請求とのいずれかを選択できるとします。(セキレイ事件 東京地判 平成4.1.21)

この場合、労働者が相当の期間内に選択権を行使しない限り、解雇無効の主張はできなくなると解されます。


ページの先頭へ