二重就職による解雇について

労働時間以外に何をしても自由。だけれども・・・

(1) 二重就職を制限し若しくは禁止する就業規則などの規定がないかぎり、原則として、労働者が労働時間以外の時間を何に費やすかは全く自由である。
(2) 二重就職を制限ないしは禁止する就業規則の条項は、私生活の自由、職業選択の自由という最も基本的な自由を制約するものであることを考えれば、就業規則の条項はできるだけ制限することが望ましい。

二重就職とは

労働時間の短縮に伴って、あるいは1社では生活するに十分な賃金を確保することが困難になっているため、二重就職(ムーンライター、土日社員)し、これが問題を起こすことがあります。

二重就職を制限ないしは禁止する法律の規定(商法第41条1項など)、あるいは同趣旨の労働協約・就業規則・労働契約の条項がない場合、労働者が労働時間外の時間を何に費やすかは全く自由であり、したがってまた、二重就職をも自由になしうることについては職業選択の自由という観点からも争いはありません。

労働者は、ただ二重就職による過度の労働の結果、肉体的に損耗し契約の趣旨に沿った労務を提供することができなくなった場合に、契約上その責任を追及されることになるだけです。

就業規則の多くは、この二重就職について会社の許可事項とし、同時に無許可の二重就職を懲戒事由、通常懲戒解雇事由としています。

このため、一般的に退社後において就労することは好ましいとは思われていないので、許可を受ける努力をすることなく会社に知られないようにして働くことが多く、紛争が発生することが多くなっています。


二重就職の禁止違反で解雇を有効とした判例

東京メデカルサービス事件 東京地裁 平成3.4.8

経理部長が競合会社の代表取締役に就任して取引をなしたとしてなされた懲戒解雇を、重大な職務専念義務違反ないし忠実義務違反であるとして、懲戒解雇を有効だとした。

辰巳タクシー事件 仙台地裁 平成1.2.16

非番の日を利用して自ら風呂釜、湯沸器等ガス器具の修理販売等の営業行為を行っていたタクシー運転手に対する懲戒解雇を認めた事例。

乗客の生命、身体を預かるタクシー会社にとって事故を防止することは企業存続上の至上命題であり、社会的に要請されている使命でもあるから、従業員たる運転手が非番の日に十分休養を取り体調を万全なものとするように期待し、且つ、心労や悩みの原因となる事由をできるだけ排除し、もって安全運転を確保すると共に、従業員の会社に対する労務提供を十全なものたらしめようとすることは当然であり、このような趣旨から被告が従業員の副業を懲戒解雇事由として禁止していることには十分な合理性があるもと解すべきである。

しかるところ、前記認定によれば、原告が従事していた副業は、本業としていた程の営業であり、売上高や利益は原告自身が述べるとおり現在でも相当額に達し、単なるアルバイトからの臨時収入といえない程原告の生計にとって不可欠な規模に達しており、原告自身がその販売、配達、据付、修理等の労務に従事することにより、非番等の日における心身の休養時間が少なくなるのみならず、経営上の悩みや心労を伴うことが不可避であるといわなければならない。

・・・したがって、原告が右のとおり副業を行いながら被告会社の運転業務に携わることにより、事故防止というタクシー会社に課せられた使命の達成が危うくなると共に、従業員の会社に対する労務提供の確保という目的も達せられなくなることは明らかであるから、原告が右のとおり副業を行っていたことは懲戒解雇事由に該当する。

NHK事件 東京地裁 昭和56.12.24

放送番組制作に携わる従業員が、許可を受けることなく2ヶ月欠務して他社での映画制作に従事したケースでは、他の業務に携わることによって労務の提供自体ができなくなるという理由で解雇を有効としている。

小川建設事件 東京地判 昭和57.11.19

建設会社の事務員がキャバレーの事務員を兼職したことを理由に解雇した事件では「適度な休養をとることは誠実な労務提供の基礎的条件」で、兼業の内容によっては企業の経営秩序を侵害し、企業の対外的信用、体面を傷つける場合もありうるとして解雇を有効とした。


二重就職の禁止違反で解雇を無効とした判例

定森紙業事件 大阪地裁 平成1.6.28

二重就職が黙認されていたとして、懲戒解雇を無効だとした。

国際タクシー事件 福岡地裁 昭和56.9.1

禁止されている兼職とはみなされないことで、懲戒解雇を無効だとした。

都タクシー事件 広島地裁 昭和57.9.19

解雇前に十分な指導をしていないことで、懲戒解雇を無効だとした。

橋元運輸事件 名古屋地裁 昭和47.4.28

元来就業規則において二重就職が禁止されている趣旨は、従業員が二重就職することによって、会社の企業秩序をみだし、又はみだすおそれが大であり、あるいは従業員の会社に対する労務提供が不能若しくは困難になることを防止するにあると解され、従って右規則にいう二重就職とは、右に述べたような実質を有するものを言い、会社の秩序に影響せず、会社に対する労務の提供に格別の支障を生ぜしめない程度のものは含まれないと解するのが相当である。


就業規則による二重就職の禁止

判例は概して解雇を肯定する傾向にあるといえます。

しかし、二重就職を制限ないし禁止する就業規則の条項は、労働者の労働時間外における私生活の自由、職業選択の自由という最も基本的な自由を制約するものであることを考えれば、就業規則の条項はできるだけ制限することが望ましいと考えられます。

まず、当該条項が、公序良俗に反して無効となる場合があります。(広栄工業事件 鳥取地決 昭和43.7.27)

当該条項が無効とならない場合でも、条項を合理的に解釈し適用の範囲を制限していくことが必要です。

企業経営に対して支障を及ぼさない活動や趣味的な活動、たとえば内職、アルバイト、臨時的雇用、講演、文筆活動、ボランティアなどは、通常その範囲から除外されると考えるべきでしょう。

当該条項に違反すると考えられる場合でも、懲戒処分との均衡を図るために諸般の情状が斟酌されることが必要となります。

継続的・長期的な二重雇用であっても、労務提供が本来の業務と両立できる場合には、使用者の特段の事情のないかぎり、労働時間外の労働者の生活について支配や拘束を及ぼしえないものと考えられます。

また、使用者の責めのある行動の結果により二重就職を余儀なくされた場合には、懲戒解雇は許されないものと考えられます。


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