職務遂行能力の欠如を理由とする解雇

勤務態度不良による解雇のチェックポイント

勤務態度不良による解雇を行う場合、下記のチェックポイントを確認してください。

  • 就業規則などの解雇事由に該当しているか
  • 何度も繰り返し問題行動が行われているか
  • その行動により業務の遂行・企業秩序に具体的な支障・悪影響があったこと
  • 本人に問題を指摘して是正するよう注意・指導を行っているか
  • 本人に改善の意欲が認められないこと
  • 同様の行為をしている他の者を不問にしていないこと

就業規則などに「解雇」の根拠があるか

まずは就業規則などに、はっきりした解雇の根拠があるかどうか確認してみます。

多くの企業の就業規則では、解雇事由として「業務能力が著しく劣り、または勤務成績が著しく不良のとき」、「勤務成績もしくは作業能率が不良で就業に適しないと認められたとき」などといったものが掲げられています。

これらは、労働契約の本旨に従った債務の履行を行わないことをいい、無断欠勤、出勤不良、職務怠慢、勤務成績不良、遅刻過多、職場離脱、職務上の注意義務違反などが、これにあたるとされています。

ただし、一律に判断基準を設けることは困難です。

無断欠勤など善悪が明白なものを除けば、勤務態度がよいか悪いかの判断は立場が違えば異なるのは当然ですし、どこまでが許容される限度かも必ずしも明確ではありません。

使用者からみれば、労働者の職務の怠慢に我慢を重ねてきて、しびれを切らしてやり玉にあげ解雇を通告したということかもしれません。

しかし、労働者としては給料が安いから、或いは仕事の実績を上げているから多少のことは許される、等々と考えて働いている場合もあることでしょう。


勤務成績不良ないし職務能力不足の程度

勤務成績不良を理由とする解雇が有効とされるのは、不良の程度が著しい場合に限られると解されており、人事考課等が相対評価とされている場合、単に相対評価が低いというだけでは、解雇事由には該当しないと考えるべきでしょう。

裁判例では、居眠り、遅刻、職場離脱、無断早退など一個の非違行為があっただけで懲戒解雇を認めた例は少なく、使用者が個々の行為に対して注意ないし懲戒解雇以外の懲戒処分を行い反省を促しても、労働者の勤務態度・勤務成績に改善が認められず又は改悛の見込みのない 場合に、懲戒解雇事由の該当性を認める傾向にあります。

なお、担当患者に対する医療過誤(東京医科大学事件 東京地判 昭和53.3.15)など職務上の重大な注意義務違反により、会社に重大な信用失墜や損害を引き起こした場合には、1回の勤務懈怠でも懲戒解雇が有効とされています。

労働者は職務遂行の過程でさまざまな注意義務を負っていますが、その注意義務違反がすべて懲戒の対象となるわけではありません。

労働者が初歩的なミスを繰り返すのであれば、まずはその改善の余地がないのか、確認することが必要です。

そのうえで、解雇するとなれば、その解雇理由が何を基準としているのかも、明らかにしておく必要があります。


公平な評価かどうか

同じ会社の労働者であっても、同じ行為が、ある人は解雇され、ある人は懲戒処分にとどまるというのでは、基準自体の公平性が疑われかねなくなります。

特に業務成績に関する評価は、自己評価と他者からの評価が一致しないことが、ままありますから、日常の勤務状況に問題があれば、これを記録しておくことが望まれます。


企業の教育訓練が適正になされたかどうかが重要

また、職務能力の欠如を理由に解雇するためには、原則として使用者の側で労働者の努力・改善を促し必要な援助を行うことが必要とされます。

単に、「勤務成績不良」「職務能力不良」を基礎付ける事実が存在すれば足りるというわけではなく、使用者において注意、指導、教育の機会を与え、それらが向上するよう配慮したにもかかわらず、なお改善が認められなかったという状況に至って、初めて解雇の効力が肯定されるのです。

勤務態度が悪いことを注意しないということは、言ってみれば労務管理がずさんであり、そうした勤務を放置・黙認していたということに他なりません。

したがって、勤務態度がよくないことを理由に解雇するためには、原則としてまず使用者が勤務態度を改めるよう注意したことが要求されることになります。

その上で、解雇に値する行為であったかについては、以下のような事情が勘案され、解雇権の濫用にあたるかどうか判断することが必要です。

  1. 注意されてから本人が真摯に反省し、以後の勤務態度は改善されたか、
  2. そうした行為の回数や程度はどうだったのか、
  3. そうした行為が業務や職場規律に及ぼした影響は大きかったのかどうか、
  4. 本人の勤務成績は良かったのか悪かったのか、
  5. 他の従業員の同様のケースでは同処理されたのか、

いずれにせよ、不意打ちに解雇では、解雇権の濫用だと言われる可能性が高くなります。

また、注意のしっぱなし、あるいは、おざなりの指導・教育行為をして、その後のフォローもないまま解雇するというのも、解雇権濫用が疑われます。


職場の秩序を乱しているか

勤務成績不良が「懲戒」事由になるのは、そうした行為が就業に関する規律に違反したり職場の秩序に違反したりした場合に限られます。

裁判例は、職場離脱、無断外出など個々の非違行為が懲戒解雇事由に該当するか否かの判断にあたっては、それが会社に著しい損害を与え、または信用失墜をもたらし、その程度も当該従業員を「企業外に排除しなければ会社の経営秩序が保てないという程度に重大・深刻なもの」(理研精機事件 新潟地長岡支判 昭和54.10.30)であることを要するとしています。


改善の見込みはどうか

勤務成績不良が事実であったとしても、それだけでいきなり解雇とするのは、行きすぎです。

今後改善する予定があるかどうか、検討が必要でしょう。

いろいろやってみたが改善意欲がまったく見られず、今後の見込みがないという状況になってきて初めて、解雇の判断が信憑性を持ちます。

解雇の警告を行った後も、一定の観察期間を設け、その間の本人の取組姿勢を観察することも有効です。

仕切り直しのチャンスを与えることも、時として必要だといえるでしょう。


解雇以外の手段の検討

職務遂行能力の欠如があったにしても、いきなり「解雇」するのではなく、他に講ずる措置があるかどうかも、検討しておく必要があります。

配転の余地

現在担当している職務との関係では、成績不良ないし能力不足であることは明らかであるが、解雇処分は被解雇者を企業から放逐するものである以上、企業内に他に担当させる職務がないかどうかという点についても、一応検討する必要があるでしょう。

例えば、その労働者の勤務成績不良の原因は、上司との折り合いの悪さが原因となっているケースでは、配置転換によって改善される可能性が高いといえます。

また、本人適性から、担当職務自体がまったく合っていないのかも知れません。


被解雇者の職務上の地位による違い

管理職や専門職など、特別の知識、経験などに着目して、その地位に相応の職務遂行が求められる者については、成績や能力は一般社員よりも厳しく判定されることになります。

裁判例では、職務・地位に照らして基本的な注意義務に違反する場合に限定する傾向にあります。(ブラザー陸運事件 名古屋地判 昭和60.11.19)


不注意による損害と解雇

社有車を壊した、パソコンに水をこぼした、不注意で契約違約金を生じさせた、といったミスにより労働者が損害を与えるケースは、生じうることです。

こうした場合、会社が労働者を解雇できるかどうかの判断要素としては、次のようなものがあります。

(1) 損害の程度
(2) 労働者の過失の程度
(3) 会社の管理体制
(4) 会社の負担軽減のための措置の程度

例えば、大口の販売契約を締結する際、まったく商談をしたことのない新入社員にすべてを任せ、そのミスにより違約金が発生し、会社に損害が出た場合などについては、会社の管理体制に問題がありますから、これを理由に解雇することは到底できないと、考えられます。

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また、会社のトラックを交通事故により廃車にしてしまった場合でも、例えば、トラックにまったく保険を掛けていなかったとすれば、会社がそのような損害に対する負担軽減の措置をとっていないことから、労働者を解雇することは難しいといえます。

関連事項:損害賠償


解雇有効とされた判例

日本ヒューレット・パッカード事件 東京高裁 平成25.3.21

Y社は、平成21年6月30日、Xの勤務態度が著しく不良で改善の見込みがないとして就業規則の解雇規定に基づき普通解雇した。

Xは、「勤務態度が著しく不良」に該当する事実はないし、仮に勤務態度に問題があったとしても本件解雇は社会的相当性を欠き無効であるとして、労働契約上の地位の確認と、解雇後の未払賃金等を請求したが、一審(東京地判平成24年7月18日 労経速2154号2頁)は、解雇を有効としたため、控訴した。

Y社が主張する解雇の根拠となる具体的事実を概ね認め、Xは就業規則が定める解雇事由である「勤務態度が著しく不良で、改善の見込みがないと認められるとき」に該当するとした。また、Xが主張する事情については、Xが労務軽減等の配慮を必要とするほどの精神的不調を抱えていたとは認めることはできないし、Y社がXを排除する意図で不当な対応を繰り返していたと認めることもできないとして、Xに対する普通解雇は有効として、控訴を棄却した。

クレディ・スイス・ファースト・ボストン・セキュリティーズ・ジャパン・リミテッド事件 東京地裁 平成15.10.31

ヴァイスプレジデントとして採用した原告に、当初期待された勤務成績が見られず、今後の勤務態度の改善も見込まれないとして、試用期間満了後にした解約留保権の行使は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当として是認でき、解雇は有効である。

ヒロセ電機事件 東京地裁 平成14.10.22

英語・日本語の語学力、品質管理能力を備えた品質管理主事として中途採用された者について、(1)期待した英語能力に大きな問題があり、日本語能力も極めて低かったこと、(2)品質管理に関する専門的な知識が不足していたことから、解雇が認められた。

原告は、実はN社でさしたる勤務経験を有さず品質管理に関する知識や能力が不足していた。

また、前記原告の作成した英文の報告書にはいずれも自社や相手先の名称、クレーム内容、業界用語など到底許し難い重大な誤記・誤訳や「カバーケース」を「hippo-case」と誤訳した点のように、英語の読解力があれば一見して明かであるものも含め、多数の誤記・誤訳があり、期待した英語能力にも大きな問題があり、日本語能力についても、原告が日本語で被告に提出する文書を妻に作成させながら、自己の日本語能力が不十分であることを申し出ず、かえって、その点の指摘に反論するなど、客観的には被告に日本語能力を過大に評価させていたことから、当初、履歴書等で想定されたのとは全く異なり極めて低いものであった。

さらには、英文報告書は上司の点検を経て海外事業部に提出せよとの業務命令に違反し、上司の指導に反抗するなど勤務態度も不良であった。

東京海上火災保険事件 平成12.7.28

原告は、平成4年11月以降、四度の長期欠勤を含め傷病欠勤が非常に多く、その総日数は本件解雇までの約5年5ヶ月のうちの約2年4ヶ月に及び、長期欠勤明けの出勤にも消極的な姿勢を示したこと、出勤しても遅刻が非常に多く、離席も多かったこと、出勤時の勤務実績も劣悪で、担当業務を指示どおりに遂行することができず、他の従業員が肩代わりをしたり、ときには後始末のために少なからぬ時間を割かなければならず、被告の業務に支障を与えたことが認められる。

原告の上司らが指導を続けてきたことは前認定のとおりであり、それにもかかわらず、原告の勤務実績、勤務態度は変わらなかったものであるし、本件解雇時まで継続していた本件欠勤[10]では、出勤して労務提供を提供する意欲が原告に見られなかったのであるから、被告が原告を解雇せざるをえないと判断したことには客観的に合理的な理由があるのであって、本件解雇が解雇権の濫用に当たるとはいえない。

ゴールドマン・サックス・ジャパン・リミテッド事件 東京地裁 平成10.12.25

人事部職員が秘密情報の不適切な取扱い、指示・依頼に対する不適切な対応、職務上のミスの多さ、対人関係のトラブル等を理由に解雇された。

裁判所は、勤務状況を認めたうえで、上司がたびたび指摘・注意したのにもかかわらず改善しないことから、会社は書面で警告したうえで観察期間を設けて改善の機会を与え、それでも改善されないことから任意の退職を促し、その後に解雇しており、このような経緯から、解雇もやむを得ないと判断した。

住友不動産ホーム事件 東京地裁 平成9.5.19

解雇までの約1年11ヶ月間まったく売り上げがなく、無断欠勤や報告もせず外出するなど勤務成績・勤務態度も不良であり、注意する上司に反抗的な態度を取り続け、他部署への配転も拒否した営業職員のケース。

解雇は有効と判断された。

三井リース事件 東京地裁 平成6.11.10

すでに何度か配置転換を行っており、これ以上の配転により他の業務に就かせることはできないとして、解雇を有効とした。

債権者は、配置転換することにより活用の余地が十分にあるのであるから、これをせずに債務者が債権者を解雇したのは許されないと主張するけれども、前記のとおり、債務者は、債権者と雇用契約を締結して以降、国際営業部、海外プロジェクト部及び国際審査部に順次配置転換し、担当業務に関する債権者の能力・適性を調査するため、約3ヶ月間、日常業務を免除し、法務実務に関する研修等の機会までも与えたものの、その結果は法務担当者としての能力、適性に欠けるばかりでなく、業務遂行に対する基本的姿勢に問題があると評価されたことから、債権者をさらに他の部署に配置転換して業務に従事させることはもはやできない、との債務者の判断もやむを得ないものと認められる。

ユーマート事件 東京地裁 平成5.11.26

店舗の責任者としてその運営にあたる店長には商品及び従業員の管理能力、接客態度の資質が第一次的に要求されるところ、原告は、これらの能力及び資質に欠け、その程度が被告の経営に影響を及ぼす程度にまで達していたうえ、店長以外への配置転換も困難であったと認められるから、本件解雇は、合理的理由があるものとして、解雇権濫用には当たらないと解するのが相当である。

持田製薬事件 東京高裁 昭和63.2.22

マーケティング部長としてその能力を期待されて雇用された者が、その能力がないとして解雇されたケース。

解雇が有効とされた。

大隈鉄工所事件 名古屋地裁 昭和62.7.27

労働者の居眠りにより製作機械に損害を与えたことに対し、使用者は出勤停止10日間の懲戒処分を与えたが、労働者はこれを重すぎる処分だとして、取り消しを求めた。

使用者は「改心の見込みがない」と判断し普通解雇した。

さらに損害賠償を提訴し、労働者側は解雇の違法性について反訴した。

判決:労働者側敗訴。

裁判所は、労働者の重大な過失があると判断、使用者と労働者との信頼関係が消滅しており、職場の秩序維持、安全管理体制の保持の見地から解雇もやむを得ないとした。

日本テレビ放送網事件 東京地裁 昭和62.7.31

原告は、資料室勤務を命ぜられて以降、

  1. 所属長に無断で欠勤・早退・遅刻・離席を繰り返し、特に資料室では当初の一時期を除き、昭和46年9月以降の約一年間ほとんど勤務しなかったこと
  2. 出勤表は本来の設置場所である資料室で毎日記載すること、また、欠勤等の際は直属の上司である専門部長に直接連絡することなどの常時の指示・命令に従わなかったこと
  3. 上司により命ぜられた業務をほとんど履行しなかったこと
  4. この間再三にわたり注意・警告を受けても反省するどころか一切無視して改めず、かえって反抗し、悪態を尽くしたうえ、業務命令書を交付した上司の面前でこれを八つ裂きにして上司の頭上に振りかけるに及んだこと
  5. 以上のような言動は、時が経過するに従い一層顕著となっていったのであり、その間被告が原告の反省とこれによる勤務態度の改善を期待して行った出勤停止処分の内示・発令、業務指示者の変更、調査課勤務へ変更の示唆などの配慮にも全く応えなかったこと

以上が認められた。

これらの事実は前記就業規則43条3号(「勤務成績が著しく悪く改悛の見込みがないとき」)に該当するということができる。

雅叙園事件 東京地裁 昭和60.11.20

総務経験者として採用したが、(1)タイムカードのチェックなどの簡単な作業でも2日かかり、人事労務関係の書類の作成にもミスが多かった、(2)試用期間を延長した後も、給与計算や報告書のミスが何度注意されても直らず、仕事に対する注意力にも欠けていた、などを理由とした本採用拒否について、有効とされた。

アド建築設計事務所事件 東京高裁 昭和59.3.30

技術部長として採用されたが、構造設計全般、工事管理、積算全体について堪能であるといいながら、構造設計上の意見に応えられないなど採用時に期待された技術部長にふさわしい能力を欠くとして解雇が有効とされた。

フォード自動車事件 東京高裁 昭和59.3.30

上級管理職として中途採用された労働者の解雇事案。

解雇の有効性はその地位、待遇に要求される業務遂行がなされたか否かの観点からなされるべきとして、解雇を有効とされた。

住友化学工業事件 名古屋地裁 昭和58.10.21

佐藤首相訪米阻止・国際反戦デーの闘争において逮捕・勾留され、307日間欠勤した労働者に対する事故欠勤を理由とする普通解雇。

当時、同被告は、原告が約300日間に及ぶ欠勤をし、執行猶予付とはいえ懲役刑の有罪判決を受けた事実を重要視し、これを根拠として原告を普通解雇にしたものであり、かつ、事前に、前記認定のとおり、懲戒委員会の審議に付しているのであるから、それは懲戒解雇の場合の手続を免れる目的でなされたわけではなく、右のような事情がある場合には普通解雇とすることは一般的に相当といわざるを得ない。

リオ・ティント・ジンク事件 東京地裁 昭和58.12.14

仕事上のミスがおびただしく、これに対する上司の度重なる改善の指示に従わないばかりか、改善の熱意に欠けており、勤務成績、能率が不良で、職場内での協調性に欠け、他の同僚と融和協力して業務を遂行する意思を有せず、上司の人格攻撃をしばしば行う社員の解雇につき、会社が再三の注意をし、専務の直属下において努力する機会を与えるなどの配慮をしているにもかかわらず、自己の事務処理の誤りにつきこれを率直に反省し改善しようとする態度がうかがわれないこと等につき、就業規則の「勤務成績又は能率が不良で就業に適しないと認められた場合」等を適用し解雇したことはやむを得ない。

日本エヌ・シー・アール事件 東京地裁 昭和49.11.26

無断欠勤、上司の指示に対する違反、職場の同僚に対する悪影響を及ぼす発言および常軌を逸した行為が度々あり「誓約書」としての念書を入れた後も何ら改善されないでさらに繰り返したケースについて「勤務成績が著しく悪く、向上の見込みがないと会社が認めたとき」に該当し、普通解雇が有効。

ゼネラル事務機事件 東京地裁 昭和49.7.2

セールスマンの販売成績が著しく劣悪(最低でも責任額の32%なのに同人は同一期につき4.9%にすぎない)で、販売活動の面においても活動予定表記載の予定訪問先がしばしば異なっており販売活動に計画性がなく、上司がしばしば注意を与えたが改善の跡がみられなかったケースについて就業規則の「業務能力が著しく劣り、その向上の見込みなし」に該当し普通解雇は有効。

日放事件 東京地裁 昭和49.6.25

派遣先において遅刻、欠勤が多く協調性を欠き派遣会社に対する信用、営業成績に重大な影響があり、得意先から勤務態度不良を理由として引取方を求められており、上司の再三の注意も聞かず、また、配転についても引き受ける職場が他にないケースにつき就業規則の「勤務成績または能力が不良で就業に適しないと認められるとき」に該当し、解雇は有効。

静岡宇部コンクリート事件 昭和48.3.23

コンクリートミキサー車運転手がミキサー内のコンクリートが固まらないようにするための注意を著しく欠いたことを理由とする解雇事件について、解雇が有効だとされた。

三協工業事件 東京地裁 昭和43.8.10

遅刻が著しく多く(入社以来の遅刻回数の合計は、昭和37.3.17~同年11.15に48回701分、・・・昭和40.10.10~昭和41.1.10に22回903分)、そのうえ職務怠慢であって上司の注意に対しても反省の色がないことは、懲戒処分として諭旨解雇の事由である「勤務成績著しく不良にして改悛の見込みがないとき」の条項に該当し、本件解雇は有効。


解雇無効とされた判例

プライスウオーターハウスクーパーズ・フィナンシャル・アドバイザリー・サービス事件 東京地裁 平成15.9.25

配属先部門の閉鎖に伴う整理解雇につき、人員整理の必要性は認められるものの、原告の解雇を正当化するような能力不足は認められず、また、配置転換による対応も不可能とはいえなかったことから、解雇回避の努力義務および被解雇者選定の合理性のいずれの点においても十分な努力および合理性が認められない。

また、被告は外資系コンサルタント会社の人事システムの特殊性を主張するが、社員が賃金により生計を立てている以上、解雇には客観的で合理的な理由が必要であることは他の業界と異ならず、原告の解雇は無効である。

森下仁丹事件 大阪地裁 平成14.3.22

営業職がリストラ対象となり、コンピュータを使って一人で伝票整理をやる仕事に配置転換となった。

裁判所は、他に原告がミスなく行う業務があり、降格等の措置もできたことから、この従業員について解雇に値するほどの「技能発達の見込みがない」とまではいえない、とした。

エース損保事件 東京地裁 平成13.8.10

長期雇用者に対する勤務成績不良を理由とする解雇は、単なる成績不良では足りず、企業から排除しなければならない程度に至っていること等を要するとし、53歳、50歳の労働者に対する解雇を無効とした。

セガ・エンタープライゼズ事件 東京地裁 平成11.10.15

平成2年採用の大学院卒男性労働者が入社以降配属された部署で的確な業務遂行ができず、高い評価を得られなかったこと、解雇直前の平成10年度の3回の人事考課がいずれも下位10%未満であり、同人の業務遂行が平均的な水準に達していなかった事例。

判例は、就業規則の「労働能率が劣り、向上の見込みがないと認めるとき」との規定は、平均的な水準に達していないというだけで解雇を許容する趣旨ではなく、著しく労働能力が劣り、しかも向上の見込みがない場合に限って解雇を認める趣旨であるとした。

また、人事考課の点についても、考課が絶対評価でなく相対評価であることから、前記人事評価から直ちに当該労働者の労働能力が著しく劣り、向上の見込みがないとはいえず、さらに体系的な教育、指導を実施することで当該労働者の労働能力の向上を図る余地があるとして、解雇を無効とした。

神田法人会事件 東京地裁 平成8.8.20

多数回の遅刻(5年間に680日以上など。大部分は15分以内)をし、役員らの指示に素直に従わず、勤務ぶりに積極性を欠いていたケース。

勤務成績・勤務態度は非常に悪く、解雇の事由になり得るとしながらも、他の職員で同様の回数の遅刻をした者は解雇されていないことなどから、解雇は信義則に反し、権利の濫用として無効とされた。

松筒自動車学校事件 大阪地裁 平成7.4.28

被告主張の原告ミスのうち、原告のミスとして明らかなものは前記認定の少数のものに限られるところ、これらのミスは、大量の事務処理が要求される業務の中で起きた一部の単純なミスであって大量に事務処理がなされるうちには一部に過誤が起きたとしてもやむを得ないというべきであり、また、右のミスの内容・原因についても判明しており、被告会社の業務遂行に支障をきたす程の重大なものではなく、現に右支障を発生させていないこと、・・・これらの事情と総合勘案すると、原告の右行為をもって、被告の就業規則12条所定の解雇事由である、「技能、能率、態度が著しく不良で、将来改善の見込みがないと認めたとき」及び「その他前号に準ずることがあったとき」に当たるということができない。

梅壇学園事件 仙台地裁 平成2.9.21

正当な理由のない1ヶ月の無断欠勤を理由とする懲戒解雇について、業務に大きな支障がなかったこと、それまで使用者が特に注意をしなかったことから、解雇無効とされた。

大タク事件 大阪地裁 平成1.6.15

会社社屋内における勤務時間後の仮眠時間帯の暴行を理由とするタクシー運転手の解雇が無効となった。

本件暴行は、飲酒の上での偶発的な非行であるうえ、・・・Aは本件暴行の10日後には平常通りのタクシー乗務に就いており、また徳島県に戻ってからは頸椎捻挫の病名でのみ継続していることを徴すると、本件暴行によるAの主要な傷害は長くとも10日間で治癒するに至ったものと推認することができ、結果もさほど重大であるとはいえないこと・・・、本件暴行は、職場内であるとはいえ、勤務時間外の職務遂行とは無関係の行為であって、直ちに職場秩序あるいは職場規律を害する性質のものではなく、従業員同士の私的な動機に基づくささいな紛争であって、被申請人の対外的信用を直接毀損する類のものでもないこと、本件暴行後申請人は素直に事実を認め、Aに対し賠償義務を負担する意思のあることを表明しており、・・・とりわけ、申請人には、被申請人に雇用されてから本件解雇までの5年余りの間、職務上の非違行為があったわけではなく、勤務成績や勤務態度が不良であったわけでもないうえ、本件暴行により現に被申請人の業務が阻害されたと認めるに足りる的確な疎明資料も何ら存しないこと、を肯定することができ、以上の諸事情を考慮すると本件解雇は、申請人の非行の実質と比較していささか酷に過ぎ、合理的な理由を欠き、解雇権の濫用に該当して無効であるといわざるを得ない。

東京コンドルタクシー事件 東京地裁 昭和63.4.25

運賃収入が最低であることを理由としたタクシー運転手の解雇。

1勤務当たりの運賃収入で成績を比較するのは残業を強いることになるため、運転1時間当たりの運賃収入で比較すべきだとされた。

そうすると最低ではないことから、解雇は無効である。

(同趣旨、ホクシン交通事件 札幌地裁 昭和60.7.19)

リマークチョーギン事件 東京地裁 昭和60.9.30

一時期代表取締役であったが、営業成績が上がらなかったことから、代表取締役を辞任し、商号変更した会社の企画室長及び販売課長として勤務していた労働者の解雇について、利益が上がらなかったことは、当該労働者のみの責任であるとはいえない、として解雇を無効とした。

ジャパン・エクスポート・プロモーション事件 東京地裁 昭和61.7.16

入社後14ヶ月間に新規契約を2件しかとれず、うち7ヶ月は最低の成績だった者について、解雇1ヶ月前からは営業成績が向上していることから、解雇事由となるほどの能力不足に当たらないとして、解雇を無効とした。

裕記溶接事件 大阪地裁 昭和59.2.27

能力不足の理由が何回かの些細なミスだったケース。

解雇は無効とされた。

大阪貯蓄信用組合事件 大阪地判 昭和56.8.1

欠勤の理由は、会社が労働者に対して解雇を強要し出勤しても業務につかせない点にあるとして、欠勤の責を労働者に帰することができないとした。

紫苑タクシー事件 福岡高判 昭和50.5.12

欠勤の端緒は会社代表者による暴行という会社の責に帰すべき事由によることから、当該無断欠勤は懲戒事由に該当しないとした。

麹町学園事件 東京地裁 昭和46.7.19

良妻賢母教育を伝統的校風と自称する私立女子中学校に1年間の試用期間を付して採用された教諭に対し、礼儀の常識をわきまえず、規律指導能力に欠ける、言語表現、対人態度が粗野である、生徒会規定の無視、ネクタイを着用しない乱れた服装をし、また、散髪を怠り不潔であることなどを理由としてなされた解雇につき、同人が新規採用で試用期間であることからすれば、少しでも非難すべき行為があれば、校長や先輩教師が指導すべきが当然であるのに、一度もそのような注意・指導を与えたことがなく、突如として本件解雇の挙に出たことは教諭としての地位を剥奪し同人を困惑させる以外の何ものでもなく、本件解雇は権利の濫用として無効である。


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