雇用契約の更新条件の判断基準

客観的な基準を設けることが必要

雇用契約の更新条件には、客観的な基準を設けることが必要です。以下の表を参考にしてください。

項目 更新条件 更新拒否条件
職務遂行能力 効率よく的確に、かつ、注意深く職務を遂行できること等。 他の従業員と比較して職務の遂行能力・能率が低いと見られるとき。 職務の遂行に際し、他の従業員と比較してもミスが多く、向上の見込みがないと認められたとき等。
職場適応能力 常に上司の指示をよく守り、他の従業員と協調して職務を遂行できる等。 他の従業員との協調性に欠けていると認められるとき。
しばしば上司の指示を守らず、または上司の命令に服さないことがあったとき等。
勤怠 契約期間中の遅刻、早退が○回であって、かつ、正当な理由があると会社が認めたものを除き欠勤がなかったこと。
契約期間中の出勤率が○%以上であったこと。
就業規則第○条に定める懲戒解雇事由に該当する行為がなかったこと等。
契約期間中の遅刻、早退が○回を超えているとき、または("かつ"とすることも可能)正当な理由なく欠勤したとき。
契約期間中の出勤率が○%に満たないとき。
就業規則第○条に定める懲戒解雇事由に該当する行為があったとき等。
健康状態 心身ともに健康であって当該契約期間内に、労働契約の本旨に沿った労務の提供ができると見込まれること等。 心身の負傷、傷病、障害により、契約期間中の相当期間("○ヶ月以上"等期間を定めた方が良い)について、労働契約の本旨に沿った労務の提供ができないと見込まれるとき等。
経営状態 経営上の必要または天災事変その他これに準ずる事情により、所属事業場・所属部署の移転、縮小、廃止などの事情がないこと等。 経営上の必要または天災事変その他これに準ずる事情により、所属事業場・所属部署の移転、縮小、廃止などの事情が生じたとき等。
その他 経営上の必要または天災事変その他これに準ずる事情により、剰員を生じていないこと。
所属事業場・所属部署の移転、縮小、廃止などの事情が生じていないこと。
担当業務の遂行状況及び進捗状況またはその必要性などから判断して契約更新の必要があること等。
担当業務の遂行状況及び進捗状況またはその必要性などから判断して契約更新の必要がないとき。
契約満了時の業務量が契約当初の業務量と比較して○%以上減少した、あるいは減少することが見込まれるとき等。

雇用契約の更新判断基準(例)

雇用契約の更新判断基準の作成例は以下の通りです。

雇用契約の更新は次の4項目の基準すべてにつき判断して行う。

  1. 契約満了の時点の業務の有無または業務量により判断する。
  2. 本人の職務能力、就労成績、健康状態、解雇の規定に定める事由により判断する。
  3. 事業所の経営内容、経営悪化や大量の業務消滅など、経営状態により判断する。
  4. 期間満了の1ヶ月前までに更新の手続きを完了する。

なお、就業規則の解雇の事由に該当するようなことがあった場合には、更新とは別に解雇することがある。


雇用契約の更新のポイント

雇用契約を更新する際は、下記のポイントに注意しましょう。

(1) 本当に「有期」の契約かどうか。実際には期間の定めのない契約になっていないか。
(2) 更新の期待が認められる余地はないのか。
(3) 期間の定めのない契約と同じと考えられるとき、解雇が認められる正当理由と手続きが備わっているか。

更新を度々繰り返し、特に問題がなければ更新しているときは、実質的に期間の定めのないものと同視できるとして、解雇理由が正当と認められる場合と同じ事情がないと更新すべきものと判断された例もあります。

また、文書による更新手続きは行っているが、労働者にとって契約更新が相当程度期待できる状況があった場合などは注意が必要です。

例えば、形の上で有期契約となっているが、更新の際、特別な再審査などせず、ほとんどの人が無条件に更新されているとき、あるいは、期間満了後しばらくたってから、ただ、文書だけ整えることが行われるだけのときは、実質的には期間の定めのない雇用と考えられるでしょう。

箕面自動車教習所事件 大阪地裁 平成16.12.17

期間の定めのある雇用契約により契約社員として雇用された労働者が、雇止めは解雇権の濫用の法理により無効であるとして、雇用契約上の権利を有する地位の確認等を求めた。

裁判所は、契約社員については再雇用であることを意識した厳格な更新手続がとられていたことなどを総合考慮すると、本件契約が実質的に期間の定めのない労働契約と異ならない状態で存在していたとまではいえないが、ある程度の継続が期待されていたものというべきであり、現に9回にわたって更新が繰り返されてきたのであるから、雇止めにするに当たっては、解雇に関する法理が類推適用されるところ、本件雇止めは、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められない、とした。

龍神タクシー事件 大阪高裁 平成3.1.16

最初の更新時にタクシーの運転手が雇止めされたケース。

これまで更新拒絶の前例がなく、実質的に期間の定めのない契約に類似し、雇用の継続が期待できるものであるとして、期間満了をもって1回目の更新を拒絶することは信義則に照らし許されないとされた。


試用期間か有期契約か

試用期間の代わりに、「とりあえず有期雇用で・・・」といって従業員を試そうという会社もあろうかと思います。

こうしたケースについては次の判例があります。

愛徳姉妹会(本採用拒否)事件 大阪地裁 平成15.4.25

施設長からの指示で賃金の最初に支給日に、有期雇用の契約書を締結した。

しかし、この期間は試用期間であるとされ、期間満了以外に「解約権留保付労働契約」の留保解約権を行使したとは認められないとの理由で、労働契約上の権利を有する地位確認がされた。


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