複数組合での不当労働行為

使用者の中立保持義務

複数の組合が同一企業に併存した場合、団体交渉における使用者の態度如何によっては、種々の問題を生ずることがあります。

(1) 少数組合所属の組合員に対する賃金・処遇などの労働条件差別
(2) 少数組合に対する便宜供与の差別
(3) 妥結組合に所属する組合員には賃上げ(一時金支払)をし、他方には支払わない

複数の労働組合が存在する場合に、複数の労働協約が締結され、その間にたまたま内容的差違があったとしても、それが団体交渉の結果であるならば、特段問題はありません。

しかし、使用者は中立的な立場でこれに接する義務があります。

合理的な理由なしに、両組合に対して異なる条件を提示したり、一方の組合に対しては、自己の一次回答に固執し、他方とはその要求を容れてより高額で妥結するなどは、ある特定の組合ないしその組合員について不利益な取り扱いをすることになって、不当労働行為に該当すると判断される可能性があります。

併存組合の一方にだけビラ張りを禁止したり、それを理由に処分したりすることも許されません。

最高裁の立場を要約すれば、「各組合に同一条件の内容を提示し、しかもその内容が合理的であり、対応が合目的的なものであれば、取引事由の観点から見て、原則として、不当労働行為の問題は生じないが、例外的に、使用者の反組合的な意図が決定的動機となっているような特段の事情があるときは、団体交渉の結果としてとらえられている行為についても、支配介入の不当労働行為が成立する」ということになります。

日産自動車事件 最高裁 昭和62.5.8

同一企業内に複数の労働組合が併存している場合には、使用者としては、すべての場面で各組合に対し中立的な態度を保持し、その団結権を平等に承認、尊重すべきであり、各組合の性格・傾向や従来の運動路線等の如何によって、一方の組合をより好ましいものとしてその組織の強化を助けたり、他方の組合の弱体化を図るような行為をしたりすることは許されない。

ただし、多数の組合員を有する組合と、少数組合が併存した場合、使用者が多数組合との交渉結果に重点を置くことは、自然であり不当とはいえません。

これに対し少数組合が自己の提示する条件に固執し、その結果、少数組合内部の動揺や団結権の低下を招いたとしても、使用者に不当労働行為の意思があったと判断することはできません。(日産自動車事件 最高裁 昭和60.4.23)

日本チバガイギー事件 最高裁 平成1.1.19

併存組合双方に同一の組合掲示板の貸与条件を示し、受諾しない組合に掲示板を貸与しなかったことは不当労働行為ではない。

高知県観光事件 最高裁 平成7.4.14

併存する企業内組合の一つが使用者の提案する賃金計算方法の変更を承認しないことを理由に使用者が右組合との間で労基法36条所定の協定を締結することを拒否し時間外労働を禁止する行為は不当労働行為にあたらないとされた。

逆にいえば、使用者がはじめから一方の組合の弱体化を狙って行った行為だとすれば、例外的に不当労働行為とされる余地があることになります。

このケースとして以下の例があります。

使用者の組合弱体化意図を認めた判例

日本メールオーダー事件 最高裁 昭和59.5.29、東京高裁 昭和50.5.28、
東京地裁 昭和49.3.12

会社には少数派組合と多数派組合があった。

会社は、年末一時金の支給に際して、「生産性向上に協力する」条項を前提条件とした。

多数派組合はこれに合意し、一時金は支給されたが、少数派組合は受入を拒否し、会社も一時金を支給しないという態度を貫いた。

東京地労委は、会社に対し、同一基準による年末一時金の支払いを命じた。

会社は、その取消を求める行政訴訟を提起した。

一審の判断

東京地労委の判断を支持

二審の判断

少数組合の自由意思によって妥協できなかったとして、地労委命令の取消を求めた。

最高裁の判断

一審の判断を支持し、会社側の控訴を棄却

本件の前提条件が抽象的で、当時の状況では疑義が生じやすく、会社の説明も十分にされておらず、合理性があるとはいえない。

少数派組合としては、好んで協約成立を拒んだのではなく、会社側が合理性のない前提条件を提示しこれに固執しているため、やむなくかかる選択になったものである。

全体としてみれば、組合の弱体化を意図したものであるとされた。

日野車体工業事件 最高裁 昭和61.9.16

賃上交渉において妥結月実施条項を併存組合に提示し、受諾しない組合に賃上差額の支払を拒絶する行為が、組合組織弱体化を図るものであるとされた。

日産自動車事件 最高裁 昭和60.4.23

少数組合が交代制・計画残業の導入に反対していることを理由に、少数組合員には一切残業を命じない措置をとったことは、会社の団交の不誠実な対応等から少数組合の組織の動揺ないし弱体化を図った不当労働行為であるとした。


査定による差別

裁判所の代表的見解は労組法7条1号と3号を分けて査定差別を判断しています。(北辰電機製作所事件 東京地裁 昭和56.10.22)

労働組合法第7条3号(支配介入)の場合は、いわゆる「大量観察方式」の適用が可能で、以下を立証できれば、使用者がこれを反証しない限り、不当労働行為が成立するとされています。

  1. 申立組合員の査定が全体として他組合に比べて低い事実、
  2. 申立組合員と他組合員の提供した労働の質・量に全体的にみて隔たりのないこと、
  3. 使用者が申立組合を嫌悪していること、

これに対し、労組法第7条1号(組合加入脱退による差別)の場合、個々の組合員についての不利益取扱が判断されなければならないと考えられています。


昇格による差別

労働委員会は、同期入社者との比較という手法で不当労働行為を認定して救済命令を発する傾向にありますが、裁判所がこれを取り消すというような事態が続いています。


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