使用者の対応手段


正当な範囲内での組合活動は、刑事・民事上の免責が認められていますが、この範囲を逸脱していると判断された場合、使用者は様々な対抗手段を講じることができます。

したがって、「正当」か否かの判断が極めて重要となるわけです。

関連事項:労働組合対策相談室


不当なビラ貼付

ビラが乱雑に貼られ、原状回復が容易でない場合は、企業施設を「損壊」するものとして、建造物損壊罪(刑法第260条)ないし器物損壊罪(刑法第261条)となり得ます。

使用者としては、現場の録画・撮影を行っておくことが必要です。

また、損壊に至らない程度であっても、軽犯罪法第1条33号の「みだりに他人の家屋その他工作物にはり札をし」た行為として処罰される可能性があります。

ビラ貼り目的で行われた施設内への立入行為を施設管理権者が容認していないと判断される場合は、建造物侵入罪(刑法第130条)が成立しうることになります。

ビラの撤去費用・施設の修復費用がかかった場合は、組合に対し損害賠償請求を行うことができます。

正当性を欠くビラ貼りを行った従業員に対しては懲戒処分を行うことも考えられます。

ただし、いきなり解雇では権利濫用とされる可能性が高く、重くとも出勤停止処分が限度ではないかと考えられています。

また、その行為者への勤務査定に反映させることが可能です。

ビラ撤去要求に応じない場合

使用者は自力で撤去することも可能です。

ただし、刑事告訴を行っている場合には、取り外しの前に警察の実況見分を行ってもらうべきです。

撤去したビラは、組合旗などとは異なり、基本的には財産的価値を有しないので、廃棄処分としてかまいませんが、刑事告訴を行っている場合は重要な証拠物でもあります。

ビラ貼りが何度も行われると危惧される場合

組合および組合員に対し、会社の許諾する場所以外にビラを貼付しまたは貼付させてはならない旨の仮処分申し立てができます。


不当な集会

施設管理面からは、集会の解散および退去通告、警告、懲戒処分、勤務査定への反映といった対応となります。

また、勤務時間内の集会については、これに加えて、就労命令、賃金カットという対応も取り得ます。

ただし、集会が正当なものと判断されると、これら使用者の対抗行為は「不当労働行為」とされる可能性もあります。

集会が将来も繰り返されるおそれがあれば、仮処分申請を行うこともできます。

解雇された元従業員らの街宣活動を禁止・東京地裁

旭ダイヤモンド工業と元同社社長が解雇した元従業員とその所属組合による街頭宣伝活動の差し止めなどを求めた訴訟の判決が29日、東京地裁であった。

難波孝一裁判長は「名誉を棄損し、平穏に生活、営業する権利を侵害する違法な行為で、今後も続ける見込みがある」として、同社や元社長の自宅を訪ねての面会の強要や、半径150メートルの範囲内で拡声器を使った演説やビラの配布などを禁じた。

また「ビラは虚偽の内容を含み、街宣活動に公益を図る目的も認められない」として、慰謝料など計200万円の支払いも命じた。

元従業員側は解雇を不当として争った訴訟の敗訴が最高裁で確定した2002年6月以降も街宣活動を続け、「労組の正当な活動」と主張。しかし難波裁判長は「法的な紛争解決に納得できずにいる状態を、憲法・労働組合法のもとで労使関係が続いているとするのは困難」と退けた。

(NIKKEI ON LINE 2004.11.29)


名誉毀損となるビラ配布

正当性を欠くビラ配布に対しては、中止を求めるとともに規律違反であるとの警告を行います。

ただし、組合敵視や組合弱体化を目的として行われた警告については、不当労働行為となる可能性があるので、注意が必要です。

ビラの内容が使用者あるいは職制など特定の個人の名誉を毀損したり、他人を侮辱するものである場合には、名誉毀損罪(刑法第230条)・侮辱罪(刑法第231条)、また内容が虚偽であれば信用毀損罪・業務妨害罪(刑法第233条)が成立する可能性があります。

ビラの内容が特定個人の名誉・信用やプライバシー等を侵害するものである場合は、労働組合に対し、不法行為に基づく損害賠償の請求あるいは陳謝文の要求(民法第709条)ができます。

その他、懲戒処分・勤務査定への反映などが考えられますが、ビラ配布で懲戒解雇とすることは、解雇権濫用として是認されない可能性が高いといえます。


リボン戦術等

職務専念義務違反・服装規定違反として、取り外しの命令を行うことになります。

また、リボン等の着用期間中、利用者の目に触れない業務に一時的に配置換えを行うことも可能と考えられます(ただし、従来と全く別業務だと、問題発生の余地があります)。

なお、就労している以上、賃金カットは許されません。

関連事項:労働組合対策相談室


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