一般的拘束力

4分の3以上の労働者で適用される

労働協約は、原則としてそれを締結した労働組合の組合員にのみ適用されます。

しかし、労働者がすべて組合員であるとは限りません。何かの事情で組合に加入していない場合もあります。

それらの労働者が組合員より低い労働条件で雇用されていると、労働協約で比較的高い条件を取り決めても足を引っ張られることが考えられます。

そのようなことから労働組合法第17条では、組合が一定の要件を満たした場合、その組合が締結した労働協約は、当該組合の組合員以外のものにも自動的に拡張適用されるとしています。

この効力を労働協約の一般的拘束力と呼んでいます。

労組法第17条(一般的拘束力)

一の工場事業所に常時使用される同種の労働者の四分の三以上の数の労働者が一の労働協約の適用を受けるに至ったときは、当該工場事業所に使用される他の同種の労働者に関しても、当該労働協約が適用されるものとする。


「一の工場事業所」とは、個々の工場事業所を指し、一の企業が数個の工場事業場を有する場合は、その企業内の個々の工場事業場の各々がここでいう「一の工場事業場」である。

(労発第111号等 昭和29.4.7)

一定の要件とは、「一の工場事業場に常時適用される同種の労働者の4分の3以上の労働者が、一の労働協約の適用を受けるに至ったとき」をいいます。

普通、企業内組合でしたら、一の工場事業場ごとに一般の労働者の中で組合員が4分の3以上いるかどうか計算してみることになります。

拡張適用は、名目上の臨時工などにももちろん及びます。

「常時使用される」とは、労働契約が形式上一定期間続いているように結ばれていることが必ずしも要件ではなく、常時使用されていることが客観得的に判断し得る状態をいい、例えば、日雇労働の形式を採っていても、実際上そのような状態にあるときは「常時使用」の中に入る。

(労収第2829号 昭和24.5.28)


明らかに同種の労働者として労働協約の拡張適用を受けるべき労働者については、労働協約によって、その者を同種の労働者でないと規定したり、その者については労働協約の拡張適用をしないと規定し、労働協約の拡張適用を限定しても、本条の規定によって、労働協約は、その者に対しても当然拡張適用される。

(労発第153号 昭和25.5.8、労収第341号 昭和25.2.22)

なお、拡張適用されるのは労働協約の「規範的部分」と呼ばれる労働者の待遇に関する部分(賃金や労働時間などの取り決め等)で、組合と使用者の関係(労働争議の手順などの取り決め等)の「債務的部分」については効力が及びません。

組合員が4分の3を占めなかった場合、労働協約の適用は、組合員に限られることになります。

(一般的拘束力が生じなかった場合)労働協約の適用を受けるのは、原則として、締結当事者たる労働組合の組合員でる従業員に限られ、組合員以外の従業員には及ばない。

(労働省労働法規課長通達 昭和32.10.8)


一の労働協約の適用を受ける労働者が同種の労働者の4分の3未満となったときは、当該拡張適用はされなくなるものと解される。

(労収第2829号 昭和24.5.28)

ネスレ日本(行訴)事件 東京地裁 平成12.12.20

2つの組合が存在する場合の労働協約に関する労働委員会の判断に対し会社側が起こした裁判。

案件は賞与の取り扱いについてであり、

(1)賞与の支給月数については0.2か月増やしたものの、支給の欠勤控除は強化した

(2)少数組合は、全組合員の3/4以下である、

という条件下で、多数組合と取り決めた賞与の支給条件を少数組合の同意を得ずに少数組合員にも均一に適用した。

これを不当労働行為と判断した労働委員会に対し、企業側が提訴した。

裁判所は、4分の1未満の別組合を従業員が結成していた場合、労働協約の拘束力は、当該少数組合には及ばないと解し、労働委員会の判断を認めた。


地域的な一般的拘束力

ある地域の大多数の労働者が同じ労働協約の下で雇用されるようになった場合には、労働委員会の決議により、その地域全体の労働者に当該労働協約を拡張適用することができます。


非組合員の場合(いずれの組合にも属しないとき)

原則として労働協約の適用はなく、より有利な労働契約は維持されます。

4分の3以上の労働者を組織する多数組合が不利益な労働協約を締結した場合、判例は、原則的には適用されますが、非組合員は労働組合の意思決定に参加する立場にないので、拡張「適用することが著しく不合理であると認められる特段の事情のあるときは」拡張適用されないとしています。

特段の事情の有無は「労働協約によって特定の未組織労働者にもたらされる不利益の程度・内容、労働協約が締結されるに至った経緯、当該労働者が労働組合の組合員資格を認められているかどうかに照らし」判断するとしています。(朝日火災海上保険事件 最高裁 平成8.3.26)

協約締結権を超えた場合、強行法規に違反する場合や公序良俗に違反する場合は、締結した労働協約の効力は協約より有利な労働契約に及ばず、影響を受けません。


労働協約と労使協定

項目 労働協約 労基法上の労使協定
締結の単位 産業、会社、事業場 等 事業場のみ
労働者側の当事者 労働組合(過半数要件なし) 事業場の過半数を組織する組合または過半数代表者
適用範囲 協約締結組合の組合員
(例外:労組法17条の一般的拘束力の要件を充たす場合)
当該事業場の全労働者
効力 規範的効力、債務的効力 免罰的効力のみ

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