ストライキと賃金

ノーワーク・ノーペイの原則

ストが実施された場合、実際の労働の対価にあたる賃金については、賃金請求権は発生しないのが原則です。

ストライキに参加した組合員は、労務の提供をしていないのですから、実際の労働の対価である賃金を支払う義務は使用者にないわけです。

むしろ、争議行為のために労務を提供しなかった時間に対して賃金を支給することは、労働組合に対する経費援助になるため、不当労働行為であると解されます。(労収3548号 昭和27.8.29)

これが「ノーワーク・ノーペイの原則」といわれるものです。

通常の欠勤の際、カットしていなくても、あるいは低率のカットしかしていなくても、ストライキの場合には、労働の提供のなかった時間に対応する賃金をカットすることができます。

日揮化学事件 東京地裁 昭和52.12.21

賃金は「法令、雇用契約、労働協約、就業規則、慣行等において特段の根拠のない限り、所定の就業時間中現実に就労した時間に対応して具体的請求権が発生するのであり、通常の欠勤にせよ争議行為としての不就労にせよ、現実に就労しなかった時間に対応する賃金請求権は発生しないのが原則である。

・・・給与規定17条において、欠勤の場合は1日につき右基本金額の100分の1、遅刻、早退の場合は1回につき、300分の1を控除する旨の規定があるが、欠勤、遅刻、早退の用語は一般に、従業員が雇用契約上就労義務を負っているにかかわらず就労しない場合に用いるものであって、従業員の争議権の行使としてストライキが行われ、このため雇用契約上の就労義務が一時的に免除され使用者の労務指揮権も排除されるに至る場合の不就労は、右概念にあてはまらないと見るべきである。

・・・欠勤の場合に本来なら1日につき月額の25分の1の削減をすることができるのにこれをわずか100分の1の控除にとどめ・・・ることとしたのは、欠勤は従業員のそれなりの一身上の都合がある場合が一般であることを考慮した恩恵的な措置であるとともに、他面かかる不就労に対してはただ賃金を削減するだけでなく勤怠上の考課の対象となしうるという意味もあるからと考えられる。

・・・右のとおりであるから、ストライキによる不就労につき右給与規定の定めを適用ないし準用すべき根拠は・・・これを認めえず、被告が選定者らの本件各ストライキによる前示の不就労時間に対応して、その割合により賃金を削減したのはそれなりの理由がある。

しかし、この原則は、契約解釈上の原則ですから、別段の定めを設けることが否定されることにはなりません。

例えば、純粋な月給制であれば当然にカットされるというわけではないのです。

また逆に、賃金カットできる範囲が賃金の性質から当然に決まるというわけでもありません。

1日のストライキがあった場合は、月額から1日分の賃金を差し引くことは当然認められていますが、どのような賃金項目(家族手当や住宅手当など)についてカットできるかは、見解が分かれています(欠勤の場合は、当事者に定めに委ねられています)。

生命保険会社の外務職員に対して、一律定額を支給されてきた勤務手当および交通費補助について、最高裁は、労働協約等に別段定めがなければ、当然には削減しうるものではないとの見解を示しました。(明治生命事件 最高裁 昭和40.2.5)

しかしその後の判例では、賃金カットできる範囲は、労働協約などの定めや労働慣行の主旨に照らして判断されるとして、ストライキの場合に家族手当を就業規則の規定に基づき約20年間カットしてきたことを認めています。(三菱重工業 長崎造船所事件 最高裁 昭和56.9.18)

三菱重工業長崎造船所事件 最高裁 昭和56.9.18 福岡高裁 昭和51.9.13 長崎地裁 昭和50.9.18

ストライキの実施により、家族手当をカットされた。

一審・二審の判断

家族手当のカットを違法とした。

最高裁の判断

家族手当のカットを認めた。

被上告人らは、本件家族手当は賃金中生活保障的部分に該当し、労働の対価としての交換的部分には該当しないのでストライキ期間中といえども賃金削減の対象とすることができない部分である、と主張する。

しかし、ストライキ期間中の賃金削減の対象となる部分の存否及びその部分と賃金削減の対象とならない部部の区別は、当該労働協約等の定め又は労働慣行の趣旨に照らし個別的に判断するのを相当とし、上告会社の長崎造船所においては、昭和44年11月以降も本件家族手当の削減が労働慣行として成立していると判断できることは前述したとおりであるから、いわゆる抽象的一般的賃金二分論(※賃金には労働に連動するものと、家族手当等労働には結びつかないものがある)を前提とする被上告人らの主張は、その前提を欠き、失当である。

いずれにせよ、賃金カットをする場合に、どの範囲までとするかについて、労働協約等に明記しておくことが必要だといえます。

こうした立場に立つならば、就業規則や労働協約等に、一時金の算定にあたってスト参加日数等を欠勤日数とする趣旨の定めがあるなど、それが是認されていれば、一時金からも賃金カットが可能ということになります。

なお、行政解釈は、従来から賃金二分論とは反対の立場をとっています。

一般の賃金と同じく家族手当についても、その支給条件の如何にかかわらず争議行為の結果契約の本旨に従った労働の提供のなかった限度において支払わなくても法第24条の違反とはならない。

(基発第898号 昭和24.8.18)


サボタージュ(怠業)による賃金カット

怠業は労務提供の不完全履行ですから、理論的には不完全な割合に応じて賃金をカットできることになります。

ただし、これを算出するのは容易ではありません。

判例では、応量カット方式を是認したものもあります。

タクシー運転手の怠業事案について、怠業に参加しなかった従業員の最低運賃収入者よりさらに20%減額した額を基準として、怠業者の賃金カット率を算出する方法が是認されています。(帯広地裁帯広支部 昭和57.11.29)

また、新幹線の運転士らが安全目的の減速闘争を予告したことに対し、会社が労務提供を拒否し、その乗務時間分の賃金をカットした事案では、当該賃金カットの正当性が肯定されています。(東京地裁 平成10.2.26)


部分スト・一部ストと賃金カット

ピケッティングなどにより、スト参加者以外の従業員が業務に就けなかった場合、賃金請求権が問題となります。

賃金カットは、個々の労働者について検討する必要があります。

一部労働者の争議行為があったとしても、当該争議行為により全然影響を受けない作業に従事する労働者の賃金を一律に差し引くことは、本条違反になる。

(昭和24.5.10 基発第523号)

学説では、賃金請求権は失われず、使用者が支払義務を免れるのは、適法なロックアウトの手段が講じられた場合だけであるというものが大勢となっています。

しかし、裁判では、この就労不能を民法536条1項の「債務ヲ履行スルコト能ハサルニ至リシトキ」だとし、使用者にとっていかんともしがたい事態であるから、労働者は賃金を受ける権利を持たないという解釈に立っています。(最高裁 昭和62.7.17)

また、労働基準法第26条による休業手当の請求に対しても、「使用者の責に帰すべき事由による休業」ではないため、請求できないというのが最高裁の判断です。


ストライキから現状復帰するまでの作業停止時間

ストライキ解決後、操業を再開する場合において、作業工程が長工程の流れ作業であるため通常経営者としてなし得る最善の措置を講じてもなお労働者を一斉に就業させることが困難であり、作業工程に応じて就業に時間的な差を生ずることが客観的にやむを得ないと認められるものについては、そのやむを得ない限度において、一部労働者を休業させることは労働基準法第26条の使用者の責に帰すべき事由による休業には該当しないものとされています。(基収第3427号 昭和28.10.13)


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