精神性疾患の場合

精神性疾患と解雇

労働者は労務提供義務があり、健康状態の悪化で、正常な労務の提供ができなくなれば労働契約の解除(=解雇)といった措置をうけることになります。

本来、正常な労務の提供をしないことは労働者側の債務不履行であって、不完全な労務の提供を受ける義務は、使用者にはなく、労務提供を拒否することが可能です。

現に正常な勤務状態とは認められないにもかかわらず、受診の勧告にも従わずに労働者が就労を続ける場合、解雇条項を適用できないわけではありません。

解雇を有効とした事例

鳥取県・米子市(中学校教諭)事件 鳥取地裁 平成16.3.30

うつ病を持つ教諭を分教室に配転したところ、症状が悪化した。これに対し、市及び県に慰謝料各100万円、弁護士費用各10万円の計110万円×2が請求された。

校長は分校の方が勤務軽減できると説明したが、本人にとってはむしろ負担が大きかった。裁判所は、こうした勤務の軽重は個人的に差があるので、単純に比較することが困難であるという前提に立ち、配転がこうした配慮を欠いたままされた結果、甘受すべき程度を著しく超えるものとなり、病状を悪化させたとした。

このことから、過失責任があるとして、33万円(慰謝料30万円、弁護士費用3万円)×2の各支払い義務が市及び県にあるとされた。

東芝事件 東京地裁 昭和58.12.26

神経症ないし神経衰弱状態となった労働者を欠勤期間終了後、勤務制限付きで出社させた後に解雇した。

(1)上司の再三の督励や追求を受けても、全く仕事を進行させることなく、何ら成果も上げなかったこと、

(2)仕事の話し合いでも大声を上げて怒鳴るため、本人の仕事に関する話し合いもできないばかりでなく、周囲の者の業務遂行を妨げたこと、

(3)グループによる会議もその労働者を交えて行うことができなかったこと、

などから、出社後の勤務成績不良を理由とする解雇については、有効とされた。

西武病院事件 東京地検 昭和50.4.24

「精神または身体の故障・・・・・疾病等により業務に耐えられない」という理由の解雇。

解雇を正当とした。

東京都交通局長・目黒自動車営業所・事件 東京地裁 平成12.3.13

使用者が職員としての適格性の欠如を理由として免職しても適法だとした。

芦屋郵便局事件 大阪高裁 平成12.3.22

免職に対し、職員が障害者雇用促進法違反を主張したケース。

判例は、同法はその想定する障害の程度を超える重い障害のために、職務遂行能力に著しく欠ける職員の雇用継続義務を事業主に課するものではないとした。

マール社事件 東京地裁 昭和57.3.16

異常な言動をする社員を本人らの了解をえて精神病院に入院させたのは不法行為にあたらず、右の者が、病気が治癒しないのに退院したため休職処分に付され、休職期間満了時において原告に復職を命ずるような状況になかったため、その期間満了とともになされた解雇は有効である。

日本大学事件 東京地裁 昭和56.4.28

精神分裂病に罹患した大学助教授に対し、就業規則の規定により欠勤1年の後に休職を命じ、その後、原告の右病気が治癒せず、休職事由が消滅しなかったため、被告大学において原告に対する復職を命じないまま休職期間満了とともに退職扱いしたことは瑕疵なく有効である。

解雇を無効とした事例

K社事件 東京地裁 平成17.2.18

躁鬱病であった労働者が、休職を経て復職してからも状態が良くならず、配転されても欠勤が目立つようになったため、会社が解雇した。労働者側は無効を主張した。

裁判所は、解雇に先だって医師の助言を求めた形跡がないこと、治療による回復の可能性がなかったとは言えないこと、他にも通常勤務できない2名の労働者の雇用を継続していたことから、当事者のみを解雇することは平等取扱に違反し、解雇権を濫用したものであるとした。

場合によっては成績不良で解雇もありえる

抑うつ状態などには、病気かどうかが明確でなく、使用者が休職を命ずることができない場合があります。

この場合、労働者が欠勤や居眠りを繰り返し、能率低下のまま就労することになるでしょう。

使用者は、ある程度の期間は十分に業務指導や監督を行わなくてはなりませんが、それにもかかわらず成績不良が改まらない場合には、使用者が任意退職を勧奨した上で、それに応じない労働者を解雇しても解雇権濫用とはなりません。(越前屋多崎事件 東京地裁 平成12.6.6)

どの程度の心身の故障があるかを判断するために、医学的な資料(診断書の提出、主治医の意見、治療の有無、通院状況、病気休暇・病気欠勤の取得状況等)を揃えた上で、解雇の正当性を判断することになります。


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