労災の請求手続き・時効

被災労働者が申請する

労災が発生した場合は、被災労働者本人またはその遺族が請求を行います。

労災申請を怠っているときは、早急に申請することが必要です。

労災申請は事業主が行わなければならないと誤解している方もいます。

事業主が手続きを行うことが少なくありませんが、これは手続きの代行に過ぎないのです。


労災保険の請求手続き

労災保険の請求手続きは、労働者本人またはその遺族が請求します。

使用者は、被災者の労災申請に協力する事が望まれますが、請求手続きをするかどうかは、労働者本人またはその遺族が決めることです。

療養補償給付については、労働基準監督署の手続書類には「事業主の証明を受けること」とされています。

この「事業主の証明」というのは、災害発生の原因や状況等の事実に相違がない旨の証明であって、災害が業務上か否かの証明ではありません。

業務上かどうかは、労働基準監督署長が判断します。


会社(事業主)の証明義務、助力義務

実際には労働災害であるにもかかわらず、会社が労働者に、健康保険で治療を求めるケースがあります。

これには、以下のようなことが理由として考えられます。

  1. 労災事故を起こすと、保険料が上げられることがある
  2. 労働基準監督署の調査が入る
  3. 手続が煩わしい、わからない

前述の通り、労災保険の請求手続きは、労働者本人またはその遺族が行います。

ただし、「会社(事業主)はこの手続きに当たって、何も行わなくてよいか」というと、そうではありません。

労災保険の請求を行う場合には、事業主の証明が求められます。

負傷または発病の年月日や災害の原因および発生状況のほか、休業補償給付などの場合には、平均賃金や休業期間などについても証明が必要です。

労災申請は本人や遺族だけでできるとはいえ、やはり会社内で発生した災害ですから、事業主の援助がなければ、その認定はスムーズに行われないのも事実です。

事業主が労災申請に二の足を踏んでいることに腹を立てて、被災者側が対抗姿勢を示すことも少なくありません。

しかし、事態が深刻であればあるほど、双方の協力関係が必要になります。

会社(事業主)は、労働者本人またはその遺族から労災保険の請求手続きに必要な証明を求められたときには、速やかに必要な証明をしなければならないのです。

労働者災害補償保険法施行規則

第23条(事業主の助力等)

保険給付を受けるべき者が、事故のため、みずから保険給付の請求その他の手続を行うことが困難である場合には、事業主は、その手続を行うことができるように助力しなければならない。

2 事業主は、保険給付を受けるべき者から保険給付を受けるために必要な証明を求められたときは、すみやかに証明をしなければならない。

労働者自身がケガなどのため、自ら手続きできない場合、会社(事業主)は、労災保険の請求手続きを手助けしなればなりません。

つまり、会社(事業主)は、労働者またはその遺族が、労災保険の請求をしようという意思をもって会社(事業主)に協力を求めたときは協力しなければならないのです。

必要な証明をしたり、会社の担当者が必要なところなどを記入するなどして、請求手続きに助力しなければならないわけです。


事業主証明

労災の各種給付の請求書には事業主証明欄があり、事業主は、被災事実や賃金関係の証明をします。

なお、事業主が証明を拒否しても、労働者は、証明を拒否された旨の上申書を添付して申請することができます。

明らかに労災であるにもかかわらず労基署に災害の発生を報告しなかったり、虚偽の報告をすることを「労災隠し」といいます。

労働基準監督署も、労働安全に関する労働基準法違反はかなり厳格に対応しています。

悪質な「労災隠し」を行った事業主は、労働安全衛生法第100条違反として、同法第120条の規定により処罰されることがあります。

労働安全衛生法

第100条(報告等)

厚生労働大臣、都道府県労働局長又は労働基準監督署長は、この法律を施行するために必要があると認めるときは、厚生労働省令で定めるところにより、事業者、労働者、機械等貸与者、建築物貸与者又はコンサルタントに対し、必要な事項を報告させ、又は出頭を命ずることができる。

2 (略)

3 労働基準監督官は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、事業者又は労働者に対し、必要な事項を報告させ、又は出頭を命ずることができる。


第120条

次の各号のいずれかに該当する者は、50万円以下の罰金に処する。

1・・・第101条第1項又は第103条第1項の規定に違反した者

5・・・第100条第1項又は第3項の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は出頭しなかった者


労働者死傷病報告の提出期限

まず企業の側は、労働者が労働災害その他就業中または事業場内で死亡・休業した場合は、労働基準監督署へ「労働者死傷病報告」を提出する義務を負っています。

死亡または休業4日以上の場合・・・遅滞なく

休業3日以内の場合
1月から3月までの労働災害・・・4月30日までに提出
4月から6月までの労働災害・・・7月31日までに提出
7月から9月までの労働災害・・・10月31日までに提出
10月から12月までの労働災害・・・1月31日までに提出

労働安全衛生規則

第97条(労働者死傷病報告)

事業者は、労働者が労働災害その他就業中又は事業場内若しくはその附属建設物内における負傷、窒息又は急性中毒により死亡し、又は休業したときは、遅滞なく、様式第23号による報告書を所轄労働基準監督署長に提出しなければならない。

2 前項の場合において、休業の日数が4日に満たないときは、事業者は、同項の規定にかかわらず、1月から3月まで、4月から6月まで、7月から9月まで及び10月から12月までの期間における当該事実について、様式第24号による報告書をそれぞれの期間における最後の月の翌月末日までに、所轄労働基準監督署長に提出しなければならない。


労働基準監督署の調査

「請求人が、その災害が業務上であることを証明しなければ、労災認定されない」といわれることがあります。

しかし、労災保険の請求を受けた労働基準監督署は、請求人の提出した資料や申し出だけで判断するわけではありません。

実際は、被災労働者やその家族を救済するという立場で、プライバシーの保護に十分配慮し、会社、同僚、上司、家族、主治医、その他の関係者から、仕事の状況や本人の健康状態などについて、様々な調査をし、必要な場合には専門の医師の意見も聴いて、業務上かどうかを認定しているのです。


複数要因が考えられる場合

業務上以外の諸要因が競合している場合には、その諸要因の中で、業務が相対的に有力と認められる場合には、労災と認定されます。

その業務がなければ発症しなかったであろうというだけでは足りず、業務が諸要因の中で相対的に有力でなければ認定されないと考えられています。


手続関係の書類

療養 療養補償給付たる療養の給付請求書(5号)→病院・薬局経由
療養給付たる療養の給付請求書(16号の3)→病院・薬局経由
療養補償給付たる療養の費用請求書(7号)
療養給付たる療養の費用請求書(16号の5)
休業 休業補償給付支給請求書(8号)
休業給付支給請求書(16号の6)
障害 障害補償給付支給請求書(10号)
障害給付支給請求書(16号の7)
遺族 遺族補償年金支給請求書(12号)
遺族年金支給請求書(16号の8)
遺族補償一時金支給請求書(15号)
遺族一時金支給請求書(16号の9)
葬祭 葬祭料請求書(16号)
葬祭給付請求書(16号の10)
介護 介護補償給付・介護給付支給請求書(16号2の2)

療養補償給付たる療養の給付請求書(5号様式、病院→労基署)

病院での治療費用に関する部分

療養補償給付たる療養の費用請求書(7号様式)

指定病院等で治療し、費用を本人が支払った場合
医師の証明、領収書・請求書などの証明書類が必要

休業補償給付支給請求書(8号様式)

上記、休業補償に係わる部分の請求

障害補償給付支給請求書(10号様式)

ケガが治った(=安定し、これ以上の治療が見込めない)が、障害が残ったとき


救急車で運ばれた病院が労災指定外だったら

療養補償給付は療養の現物給付が原則です。

ただし、近くに労災病院(労災指定病院等)がないなど、相当と認められる理由がある場合には、労災保険から療養の給付に代えて療養の費用が支給されます。

具体的な流れは次の通りです。

  1. 被災後、被災労働者が治療費を全額(立て替えて)支払う。
  2. 「療養補償給付たる療養の費用請求書(様式第7号(1))」に所定事項を記入し、これに診察を担当した医師と事業主の証明書、費用を証明する領収書等を添えて、事業所を管轄する労働基準監督署に提出する。

労災が認められれば、原則として、療養に掛かった費用の全額が支給されます。


保険給付の請求の時効

労災保険の保険給付は、所定の期間が経過した後に請求すると、時効により給付を受けられなくなりますので、十分注意してください。

給付の種類 時効期間 時効の起算日
療養補償給付のうち療養の費用の支給 2年 療養に要する費用を支払った日又は費用の支出が具体的に確定した日ごとにその翌日
休業補償給付 療養のため労働することができないために賃金を受けない日ごとにその翌日
介護補償給付 介護補償給付の対象となる月の翌月の1日
葬祭料 労働者が死亡した日の翌日
障害補償給付 5年 傷病が治った日の翌日
遺族補償給付 労働者が死亡した日の翌日

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