カウンセラーでない者が相談に乗る場合の心得

日頃の生活の場の情報を得る

誰でも話せる日常生活の状況から、会話の糸口を見つけるようにします。

たとえば、「家を出るのは何時」、「仕事に何時に行って、何時に終わるのか」、「毎日、仕事をきちんとこなしているのか」。

そんなことの中から、問題点を探り出します。

プロでない者が診断を下すのは困難ですし、危険といえます。むしろ、ありきたりの事象から、順次、聞いていき、相手の心を開かせる態度が必要です。


リスナーになろう

相手を何かの結論に導こうとするのではなく、途中で話を遮らずに、とにかく相手の話を聞き、相手の考えを写す鏡に徹します。

いわゆる「聞き上手」の役割を担うわけです。

「話を聞くだけで、何の解決にも繋がらない」という疑問を感じるかもしれませんが、当事者にしてみれば、人に話をするだけで気分が軽くなるということはよくあります。

また、そうすることで、相談者自身が、自分の抱えている問題を整理でき、時には解決策に気づくこともあるのです。


キーパーソンを探そう

サポートしてくれる人=キーパーソンを探します。

相談者との会話のやり取りの中から、相談者が誰の言うことを一番よく聞こうとしているのか探り出します。

「苦しいところを抜け出すには誰かに相談したらどうか」と助言します。

家族、上司、友人、その他、誰でもいいです。

キーパーソンがわかったら、そういった人をメンバーに加えて対処します。


事例性を確認

その人の職場の他の人の状況を聞き、職場全体に異常な状況(たとえば、慢性的な長時間労働など)がないかどうか、確認しましょう。

一定労働時間内で業務を終了している事業場の中で、ある特定の課の職員の残業時間が毎日のように3~4時間であるというような場合は、平均からの偏りが大きいので異常だといえます。

このような職場の勤務態勢には「事例性」が認められます。

事例性とは、平均的なものからの偏りに着目して、個人や集団を把握する場合に使われる言葉です。

心の不健康状態の人には、すべて平均からの逸脱がみられます。

その根底に「病気」が存在していることも少なくありませんが、その有無の判断は医師の仕事です。

職場の管理者は、職場に起こった問題に事例性があるかどうかを判断すべきで、この判断力が、管理者の資質として要求されているといっていいでしょう。


保健所と連携を図る

現住所の管轄する、地域の保健所の精神保険課のサポートを求めるのがよいでしょう。

状況がかなり悪い場合は、保健所の専門家とタイアップして対応しなければ打開できません。

精神保険福祉法の規定によって、2名以上の専門医の診断書があれば、病気の治療費については公費負担になります(入院に要する治療費は自己負担がない)。

また、暴力的な行動をとる場合は、強制入院させることもできます。


家族だけでも、専門医と相談してみる

本人が受診したがらない場合は、家族だけでも専門の精神科に相談という形で受診してみてはどうでしょう。

家族だけで受診するというのは、精神科ではよくあるケースです。

また、家族はできるだけ平静を保ち、浮き足立たないことが望まれます。家族が不安を示せば、その不安は本人にも伝染します。

質問:

病院退院後一人でアパート生活を始めた知人からの電話で、「昔の友だちに殺されそうで怖い。何かあったら助けてくれるか」といったことをいわれています。こういうときどう対応したらいいのでしょうか。

回答:

アパートのひとり暮らしでは、ときとして私たちが思う以上の不安やストレスを強く感じている人もいます。

「殺されそうだ、守ってくれるか」という訴えについて具体的に考えてみます。

(1)殺されるということはない、どうしても心配ならば警察に電話してみては
(2)殺されるという電話を何回もしてきていても実際にあなたは生きているのだから心配はいらない
(3)またいつもの電話? 妄想なのだからちゃんと薬を飲んでいるの?
(4)誰に殺されそうなの?
(5)どうしたの? 心配しなくても大丈夫、何かあったら助けてあげる
といった対応が考えられます。

(1)(2)の対応は「殺される」という言葉の表面的な意味をとらえての対応となり、「殺される」という行為を否定しています。

(3)では「殺される」という言葉を妄想としてとらえての対応となっています。

(4)は誰に殺されそうなの?といって、直接「殺される」という言葉には対応せずに、ワンクッションおいた対応です。

(5)も「殺される」という言葉に託された本人の不安を軽減しています。

このように、一つの言葉に対しても、いくとおりもの対応が考えられます。

次に、なぜ彼がいう「殺されそうで怖い、何かあったら助けてくれるか」について考えてみましょう。

この場合は、実際に殺されるといった事実がないことから、「妄想」が活性化したと考えがちです。

確かに事実ではなく、彼の頭の中での考えですから、「妄想」といえなくもありません。

しかし、ここで彼が訴えているのを、一人で生活することへの不安感があることと考えれば、「殺されそう」にではなく「怖い」ということに重点があると考えられます。

そうであれば、安心感を与えてあげることが先決でしょう。

そして必要に応じて、何が不安なのか具体的に聞き、解決方法を見つけることがいいと思います。

「妄想」の場合であっても、怖いということは、その「妄想」をとおして実際に彼が感じている事実でもあるのです。

ある意味では怖い話を聞いたときに、それがつくり話であっても、誰もいないところで一人でいると、その話を思い出して何となく怖くなるといったことと似ているといえるでしょう。

ですから本人は「妄想」とわかっていても怖さは実感としてあるのです。

また、電話が頻繁にあるときは、どんなときにかかってくるかを検討することが必要です。

そして、家族が来たときであれば、例えば「心配してくれているので、監視に来ているのではないから大丈夫」とか、仕事を休んだときであれば「疲れたときは仕事場で休んでもいいから心配しなくていい」とか、その状況に合った対応を考えてみてください。

しかし「妄想」であることがはっきりとしている場合もあります。

このときは、主治医に現在の病状を確認し、現実的な対応としては、「妄想」ということにはふれずに聞き流したらいいのか、あるいは本人に「妄想」だということを伝え、そうした「妄想」についての電話は受けないとはっきりいうか、など一緒に考えていくことが大切です。

コメディカルスタッフのための精神障害Q&A(藤本豊氏)より


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