精神疾患の種類

PTSD

PTSD(Posttraumatic Stress Disorder 外傷後ストレス障害)は、事件後に症状が発生する精神的傷害で、性暴力傷害や虐待に遭遇した被害者が苦しめられる心理的・精神的症状をいいます。

そもそも、戦争や大規模災害に遭遇した人の精神的後遺症を指すものでした。

その診断基準は、以下のとおりです。

PTSDの診断基準(DSM-Ⅳ)

A 患者は、以下の2つが共に認められる外傷的な出来事の経験がある。

(1) 実際にまたは危うく死ぬまたは重傷を負うような出来事を、一度または数度、または自分または他人の身体の保全に迫る危険を、患者が体験し、目撃し、または直面した。

(2) 患者の反応は強い恐怖、無力感または戦慄に関するものである。

注) 子供の場合はむしろ、まとまりのないまたは興奮した行動によって表現されることがある。

B 外傷的な出来事が以下の1つ(またはそれ以上)の形で再体験され続けている。

(1)  出来事の反復的で侵入的で苦痛な想起で、それは心像、思考、または知覚を含む。

注) 小さい子供の場合、外傷的な出来事の主題または側面を表現する遊びを繰り返すことがある。

(2) 出来事についての反復的で苦痛な夢。

注) 子供の場合は、はっきりとした内容のない恐ろしい夢であることがある。

(3) 外傷的な出来事となった出来事が再び起こっているかのように行動したり、感じたりする(その体験を再体験する感覚、錯覚、幻覚、解離性フラッシュバックのエピソードを含む、また、覚醒時または中毒時に起こるものを含む)。

注) 小さい子供の場合、外傷的な出来事に特異的な再演が行われることがある。

(4) 外傷的な出来事の1つの側面を象徴し、または類似している内的または外的きっかけに曝露された場合に生じる、強い心理的苦痛。

(5) 外傷的出来事の1つの側面を象徴し、または類似している内的または外的きっかけに曝露された場合の生理学的反応性。

C 以下の3つ(またはそれ以上)によって示された(外傷的出来事以前には存在していなかった)外傷的出来事と関連した刺激の持続的回避と、全般的反応性の麻痺。

  1. 外傷的出来事と関連した思考、感情、会話を回避しようとする努力。
  2. 外傷的出来事を想起させる活動、場所、人物を避けようとする努力。
  3. 外傷的出来事の重要な側面の想起不能。
  4. 重要な活動への関心または参加の著しい減退。
  5. 他の人から孤立している、または疎遠になっているという感覚。
  6. 感情の範囲の縮小(例:愛の感情を持つことができない)。
  7. 未来が短縮した感覚(例:仕事、結婚、子供、正常な一生を期待しない)。

D (外傷的出来事以前には存在していなかった)持続的な覚醒亢進症状で、以下の2つ(またはそれ以上)によって示される。

  1. 入眠または睡眠維持の困難。
  2. 易刺激性または怒りの爆発。
  3. 集中困難。
  4. 過度の警戒心。
  5. 過剰な驚愕反応。

E 障害(基準B、C、およびDの症状)の持続期間が1ヶ月以上。

F 障害は、臨床的に著しい苦痛または、社会的・職業的・その他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。

アメリカ精神医学会の診断基準より

セクハラによる被害者のPTSD訴えの例

(1) 事件の夢を見たり、突然事件のことが頭に浮かんできて怖くなる
(2) 嫌な気持ちや苦痛が再現される
(3) 夜眠れない
(4) イライラして神経過敏になる
(5) 食欲が低下し、体重が激減する
(6) 吐き気がする、頭痛がする
(7) すぐ涙がでる、話をしようとすると涙が止まらない
(8) 相手に対する怒りがこみ上げてきて、殺してやりたいという気持ちになる
(9) 恥ずかしさと汚らわしさがこみ上げてくる
(10) 自責の念にかられる、自分は生きていてもしかたがない人間だと思えてくる
(11) 自殺を念慮する
(12) 誰かに話しをしたいと思うが、わかってもらえないと思うと話をしても仕方がないと思う
(13) 頭が空白になったような感じで当時の記憶をどうしても再現できない
(14) 集中力がなくなる、何事にも意欲がなくなる
(15) 抑うつ状態になる
(16) 自分の感情を表現できなくなる
(17) 恋人や夫との性関係がうまくいかなくなる

PTSDの調査、中間説明を修正 日本精神神経学会

日本精神神経学会はこのほど、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の診断について、精神科医に実施したアンケートの最終報告書をまとめた。

「ショックから1ヶ月以内に発症していたケースが、臨床例では47%、法的書類では52%を占めた」という。日本産業精神保健学会と共同で、両学会所属の9,000人余を対象に02年に実施し、1,151人から回答を得た(回収率12%)。

同調査をめぐっては、04年春の中間まとめ段階で「まだPTSDとは診断できないはずの、ショックから1ヶ月以内に診断していたケースが、臨床例では47%、法的書類では52%を占めた」と説明され、朝日新聞など複数のメディアが「PTSDと診断された事例のうち、診断時期など国際的診断基準を満たさないものがほぼ半数にのぼる」などと報じた。

日本精神神経学会は、修正の理由について「アンケートは『発症時期』について質問しているが、『診断時期』については尋ねていないため、診断できないはずの早期にPTSD診断がなされていたかどうかをこの調査で明らかにすることはできなかった。ただ、外傷体験や精神症状のとらえ方などにおいて、国際的診断基準が順守されているかという問題は依然残る」としている。

国際的な診断基準では、特徴ある症状が1ヶ月以上続くなどした場合にPTSDと診断することになっている。従ってショックから1ヶ月以内にPTSDと診断されることはないはずだが、1ヶ月以内に発症し、いったん急性ストレス障害など他の診断を受けた患者がその後、PTSDに移行することはある。

(asahi.com 2006.1.26)


統合失調症(旧名称「精神分裂症」)

統合失調症は、考えや気持ちがまとまらなくなる状態が続く精神疾患で、その原因は脳の機能にあると考えられています。

約100人に1人がかかるといわれており、決して特殊な病気ではありません。

思春期から40歳位までに発症しやすく、薬や精神科リハビリテーションなどによる治療によって回復することができます。

統合失調症の症状は多彩です。その特徴から大きく「陽性症状」と「陰性症状」の2つのカテゴリーに分けることができます。

陽性症状は、「誰かが自分を監視している」「誰かに操られている」などの妄想、「聞こえないはずの声が聴こえる」「誰かが命令する」といった幻聴があげられます。

対照的に自閉(社会的引きこもり)や感情の平板化などの目立たない症状を陰性症状といいます。

<陽性症状> 急性期に多く、回復期~慢性期に残存することもある

幻覚 その場にいないはずの人の声による悪口、噂話、命令などの「幻聴」が最も多い。他に「体感幻覚」と呼ばれる内臓などの奇妙な感覚や、「幻視」が出ることもある。
妄想 事実に反することを病的に確信する症状。周囲の人たちが意地悪やあてつけをする、自分を陥れるための陰謀がめぐらされている、盗聴、監視、尾行されているなどと思い込む「被害妄想」や、周囲の出来事を自分に関係づけする「関係妄想」が多い。
自我障害 自分と他人との心理的な境界があいまいになる症状。自分の行動や思考、感情が外部から操られる(操られ体験)、考える内容が外部にもれ伝わるなどの奇妙な体験をする。
思考障害 思考の意味脈絡がなくなり、会話していても何を言っているのか判りにくくなる。
興奮状態 本来であれば気にしないような些細な刺激に対して興奮したり、怒ったり、大声をあげたりする。

<陰性症状> 回復期~慢性期に多い

意欲低下 物事を始めたり続けようとする気力がわかない。朝も起きづらくなり、日中も何もせずに過ごしてしまうようになる。
感情の平板化
(感情鈍麻)
喜怒哀楽の感情がわかない。その場にふさわしい気持ちが感じられない。
自閉 人と付き合ったり会話したりするのを避け、自分の世界に閉じこもるようになる。
思考の貧困 会話をしていても、比喩などの抽象的な言い回しが使えなかったり、理解できない。そのため、会話に使われる語彙が減ったり、無口になる。

「精神分裂病」改め「統合失調症」学会が正式決定

「統合失調症」学会が正式決定 日本精神神経学会(佐藤光源理事長)は26日、横浜市内で総会を開き、「精神分裂病」という病名を、「統合失調症」に変更することを正式に決めた。「精神分裂」という言葉が、病気に対する偏見を助長する恐れがあることなどが理由で、同学会は、名称変更をきっかけに、一層の啓もうに努めていきたいとしている。

(asahi.com 2002.8.26)


パラノイア(妄想症)

統合失調症とは異なりますが、似た症状を呈します。

客観的には誤りと思えることを当人は強く確信し、訂正できないものをいいます。

偏執病、妄想症ともいわれ、頑固な妄想のみをもち続けている状態で、その際に妄想の点を除いた考え方や行動は首尾一貫しているものです。

統合失調症より発病年齢が一般に高く、中年期によく発病します。病気の進行は緩慢で、慢性の経過をとります。

さまざまな妄想の観念が複雑化、整理統合され、患者にとっては矛盾のない論理体系となったものを妄想体系と呼び、これを持つことを主な症状とする精神障害がパラノイアです。

妄想体系は秩序立ち、論理的構成が施されていて、他人による説得は困難です。

人格変化は目立たず、妄想以外の病的症状(幻覚など)は認められません。

知性は正常で、一見精神障害とは思えない知的活動、職業的・社会的活動を示します。


うつ病

うつ病は回復可能な感情の病気です。

躁うつ病、うつ病、そう病を総称して気分障害と呼ぶこともあります。

うつ病は、無気力・意欲減退、劣等感、後悔、愚痴っぽい、心配性、取り越し苦労、イライラ感、人に会いたくない、集中力希薄、決断ができない、自殺念慮、妄想概念などの症状があります。

一時的に気持ちが落ち込んでいるのとは異なり、「心のエンジンがかからない状況」と解釈するとわかりやすいでしょう。

アメリカでは、男性の10人に1人、女性の5人に1人が、一生に一度はうつ病にかかったことがあるというデータがあり、日本でも人口の約5%はうつ病の患者さんであるといわれています。この数年間で確実に患者数は増えており、「仮面うつ病」でからだの不調の理由をみつけ出せずにいる人も含めれば、さらに増加していると予想されます。

うつ症状の持つ行動パターン

(1) 自分の欲求(~したい)よりも他者の期待や自分の考え(~すべき)に、完璧に応える。そのために努力をし、自分が疲れていても「もっとがんばれ」と、途中で休憩が取れない
(2) がんばり続けるため、心身は無自覚に緊張が継続
(3) 緊張が強いため、視野は狭くなり、臨機応変に柔軟な対応をすることができない状態

ごく軽いうつ病なら「心の風邪」のように、かなりの人がかかるものです。しかし、専門医への受診が遅れれば遅れるほど、回復に時間がかかります。

うつ病かなと疑われる場合は、できるだけ早い機会に医師と相談してみる必要がある。

身体的症状としては、疲れやすい、頭痛、肩こり、不眠(早期覚醒)、食欲不振、体重減少、性欲減退、便秘などがあります。

不定愁訴にはじまり、そのうち極端な能率低下に陥ったり、沈んでボーッとしていることが目立つようになります。

「職場を変わりたい」「退職したい」「降格してほしい」ともらすようになり、そして「どこか、誰も知らないところへ生きたくなる」「時々、消えたい、死にたいと思う」といったことを口にするようになります。

性格的にはきちょうめんで、生真面目で、秩序にしばられる人、他人の評価を気にしすぎて、あまり自己主張しない人がなりやすく、エネルギーが枯渇しているので、励ましてはなりません。

電気けいれん療法

電気けいれん療法とは、うつ病や統合失調症などの患者さんに全身麻酔をかけて、その後電極を頭部に当て、電流を流し、筋肉を数秒間痙攣させる治療法をいいます。

妄想性うつ病や難治性うつ病、体質的に服薬ができない場合などは、安全でしかも非常に効果の高い治療法として電気けいれん療法が行われています。

電気けいれん療法の手順は以下のとおりです

  1. 治療前に、心電図やX線で、心臓・肺、場合によっては脊椎に異常がないことを確認する
  2. 患者をベッド上にあおむけに寝させる
  3. 麻酔をかける
  4. 左右のこめかみに電極をあて、約100ボルトで数秒間通電する
  5. 治療は週に2、3回で、合計10回程度行う

躁うつ病(双極性障害)

躁うつ病は、躁状態(病的に愉快・爽快な状態)とうつ状態(病的に憂うつ・抑うつの状態)からなります。ひどく落ち込み憂鬱な状態と極端に楽しくなりはしゃぐ状態を繰り返したりします。20歳代、30歳代、40~50歳に多くみられ、躁病とうつ病比は1:6~10で、うつ病が圧倒的に多くなります。

躁うつ病は、100人に1人位がかかる病気で、誰でもなりうる「うつ病」とはだいぶ違います。いったん治っても、放っておくとほとんどの人が数年以内に再発するので、生涯にわたる予防療法が必要になります。

躁状態になると、男性では、飲酒、散財、性的逸脱行為が、女性では、頻回の外出、手紙、訪問、電話、散財、性的逸脱行為などが見られます。

うつ状態だけ出現することは多いのですが、躁状態だけの例は少ないです。

出社と欠勤を繰り返す

会社へ来るとちゃんと仕事をしますが、期待していると急に休んでしまいます。普段は明るく、何が原因かわかりません。

可能性があるのは、短期的に躁とうつを繰り返すラッピッドサイクラーという躁うつ病です。

バーンアウト・タイプ

バリバリ仕事をやり過ぎてしまい、自分でコントロールできないような方です。裁量労働にはふさわしくないタイプです。

アルコールや薬物依存症

自分の意思だけではやめられず、やめようとするとかえって辛くなる症状をいいます。


神経症(不安障害)

心に何らかの原因があって、心身にいろいろな障害が認められ、不安、強迫、恐怖、抑うつ、離人、心気症などの特有の症状を示している状態のことです。

自律神経が過敏で、わがままで、未熟で、自信がない、過度に几帳面であったり、完璧主義で自己顕示欲が強く、依存的、攻撃的などの偏りがある人がなりがちです。

一口でいうと、小心で些細なことに神経を使いすぎ、くよくよしすぎる、心配性といえます。

具体的には、ドアの鍵やガス栓を何度も確かめないと気が済まないとか、不合理な考えが繰り返し浮かぶので苦しむ強迫神経症、特定の物や場所が怖い恐怖症、磨りガラスを隔てて社会に接しているようで現実感がもてない離人症、身体のあちこちが次々と悪いと思われる心気症、不安が根底にある不安神経症、というように種々あります。

自分が「おかしいな」という自覚症状がある点で、統合失調症とは異なります。

神経症の人は、自分で思っているほどには社会適応が悪くありません。

環境を調整するとよくなる場合もあります。

考え方を変えるか、自分に合った訓練療法をマスターして、自分の弱点と共存していこうと決心すると、しだいによくなることが多いです。

パニック障害

神経症の一種で、突然不可解な「不安発作(パニック発作)に襲われるものです。

その主な症状は、突然、心拍数が上がり、汗をかき出します。そして息苦しくなり、身震いが起こります。胸が痛くなったり、吐き気をもよおしたり、時には、今いるその場所が現実とは思えなくなることもあります。そして自分が死んでしまう、もしくは自制心を失ったり、気が狂ってしまうという恐怖に陥ることもあります。

こうした状況が数分間続く。

特定な場所や状況とは無関係に発作が現れるので、発作を予期できません。

発作が反復的に起こるので、再び発作が起きるのではないかという恐怖感から、一度発作が起きた場所へは行けなくなり、場面恐怖になることがあります。


心身症

心身症とは「身体疾患の中で、その発症や経過に心理・社会的因子が密接に関与し、器質的ないし機能的障害が認められる病態」のことです。

この定義の中で特に大切なのは「身体疾患の中で」という部分です。

つまり心身症とは、一般的に考えられているような「こころの病気」ではなく、「からだの病気」であると考えなくてはならないわけです。

それは、内臓の構造の(器質的)異常や働きの(機能的)異常を伴っており、「神経症やうつ病など、他の精神障害にともなう身体症状は除外する」とされています。

しかし、その発症や経過に心理・社会的因子が密接に関与するするため、身体の病気なのですが、心理的あるいは社会的な(対人関係に関わる)要因が大きく関わって、症状が発現したり悪化したりする場合に、心身症と呼ばれます。

代表的な例

気管支喘息、本態性高血圧、狭心症、心筋梗塞、不整脈、過敏性腸症候群、胃・十二指腸潰瘍、糖尿病、甲状腺機能亢進症、緊張型頭痛、片頭痛、痙性斜頸、書痙、アトピー性皮膚炎、慢性じんま疹、円形脱毛症、頸肩腕症候群、腰痛症、慢性関節リウマチ、月経異常  など


心身症になりやすい人には、不安や緊張の強い人、あまり感情を表に出さず、自分のことを表現するのが苦手な人(アレキシサイミア:失感情症)が多いようです。

心身症はストレス過剰の警告と受け止め、少し休養をとるとか、気分転換やストレスの発散を心がけることが必要です。

心身症を繰り返す者は、心と身体の因果関係について、自ら洞察するようにすることが、効果的といわれています。


境界性人格障害

人格障害とは

人格障害がある人は、認知、反応、外界との関係のパターンに柔軟性がなく、社会にうまく適応できないという特徴があります。

人格障害の人は融通が利かず、問題に対して適切に対処できない傾向があり、しばしば家族、友人、職場の同僚との関係の悪化を招きます。

こういった不適応は多くの場合、青年期から成人期初期にかけて始まり、時を経ても変わることはありません。

人格障害の人は、自分の思考や行動のパターンに問題があることに気づいていません。

このため自分から治療や助力を求めることはあまりありませんが、その行動がほかの人に迷惑をかけているなどの理由で、友人や家族、あるいは社会的機関によって医療機関に連れて来られることがあります。

自主的に来院するのは主につらい症状(不安、抑うつ、薬物乱用など)がある場合で、自分の問題はだれかのせいであるとか、自分の力ではどうしようもない状況が原因だと思いこんでいる傾向があります。

境界性人格障害(境界例)

境界性人格障害と診断される若者が増えています。

境界性人格は女性に多く、自己のイメージ、気分、行動、対人関係が不安定です。思考過程に乱れがみられ、その攻撃的な感情はしばしば自分自身に対して向けられます。

怒りっぽく、衝動的で、自分のアイデンティティ(自己同一性)に混乱がみられます。自分のとった衝動的な行動を悔やんで落ち込み、うつ病になることもあります。

境界性人格障害は成人期初期にはっきりと現れてきますが、年齢とともに罹患率は低下します。

他人に見捨てられることを異常に恐れ、相手が約束の時間に数分遅れただけで激怒したりします。

他罰的

また、一度会っただけの人を理想化したりしますが、相手が自分を受け入れないと知ったとたんに相手を非難、攻撃します。 この点で、自責的なうつ病とは異なります。

自我が不安定で、卒業間近の大学を中退するなど、行動や目的突然激変させます。

さらに過食や浪費、薬物濫用や安全でない性行為など、自分を傷つける衝動性を示し、自傷行為(身体を傷つけたりやけどを負ったりする)や自殺企図を繰り返したりします。

患者は若い人に多く、学力には必ずしも影響しないため(学生時代には「良い子」である場合も多い)、高い学歴の新人の中にも見受けられます。

女性に多く(患者の約75%)、幼少期の母子関係不全が人格障害の形成に影響するとされます。

治療に長期間かかる

青年期から成人期早期には慢性的な不安定さが続き(治療期間は年単位)、自殺の危険性も高いが、加齢とともに安定するのが一般的です。

概ね40歳を過ぎると安定するようです。

職場になじめないことが多く、転職を繰り返す人も少なくありません。

境界性人格障害の診断基準(アメリカのDSM-Ⅳによる)

以下の項目のうち、5つ以上を満たすと境界性人格障害と判断されます。

(1) 現実に、または想像の中で見捨てられることを避けようとする気も狂わんばかりの努力(注:(5)の自殺行為または自傷行為は含めないこと)
(2) 理想化と脱価値化との両極端を揺れ動くことによって特徴づけられる不安定で激しい対人関係様式
(3) 同一性障害:著名で持続的な不安定な自己像や自己観
(4) 自己を傷つける可能性のある衝動性で、少なくとも2つの領域にわたるもの(例:浪費、性行為、物質濫用、無謀な運転、むちゃ食い)
(5) 自殺の行為、そぶり、脅し、または自傷行為のくり返し
(6) 顕著な気分反応性による感情不安定性(例:通常は2~3時間持続し、2~3日以上持続することはまれな強い気分変調、いらいら、または不安)
(7) 慢性的な空虚感
(8) 不適切で激しい怒り、または怒りの制御の困難(例:しばしばかんしゃくを起こす、いつも怒っている、取っ組み合いのけんかをくり返す)
(9) 一過性のストレス関連性の妄想様観念、または重篤な解離性症状

ケース:依存性が強く、自分の意見が受け容れられないと攻撃的となる社員

A課長の職場に中途採用のBさん(26歳)が入りました。

やや怒りっぽい面があるものの、仕事の勘所をつかむのが早く、種々のマニュアルを率先して作るなど課内の機構改革に貢献していました。

A課長はBさんに期待し、意識して励ましの言葉をかけていました。

ところが4ヶ月ほどすると、Bさんは同僚や直属上司のC係長の批判をするようになり、「こんなやり方では会社はダメになる」などと公言するほどでした。

ある日、Bさんは単純なミスをしました。C係長はBさんの怒りっぽい点を配慮し、他人のいないところで穏やかに注意したのですが、Bさんは声を荒げて反論し、ついには大声をあげて殴りかかり、通りかかった同僚たちに押さえられました。

A課長が面談すると、「被害者はこっちです!C係長たちが無能だから、仕事の負担が全部自分に回ってきて夜も眠れない!」というのです。

A課長は、それはわかったが暴力はいけないよ、と諭したところ、「課長、あなただけは僕を理解してくれていると思っていたのに、裏切られました!」と言い放ち、部屋を出たきり職場には戻らず、3日間の無断欠勤の後、「抑うつ状態で1ヶ月の休業を要す」という診断書が郵送されてきました。

(労災・通災・メンタルヘルスハンドブック(別冊労働判例 産労総合研究所)

ケース:職場をかき乱す社員

30歳女性。ある部署に異動後2ヶ月たった時に、あるミスに対し上司からちょっとした叱責があった。

その直後、無断で早退して無断欠勤となり、2日後、自ら「職場不適応」の診断書を提出してきた・・・もちろん上司は受診など勧めていなかった。

担当者のところに来て話を聴いてほしいという。「上司のパワハラのせいで心に傷を受けた・・・裁判に訴えたいくらいです!」と言う。

担当者は彼女の激しい口調に驚きつつも、病気によるものとして対応していた。しかし、毎日のようにやってきて、1時間以上話し込む。

職場の同僚にも同じ内容のメールを出し、返事をくれた相手には付きまとうように話し掛ける。

2週間後、担当者は思い余って、「気持ちは分かるが、仕事中なので・・・」と問題を指摘すると、「ひどい!話を聴いてくれるはずと思っていたのに・・・あなたも裏切るなんて!」と大声で泣き始めた。

周囲は怖がって腫れ物に触るように扱うようになり、我慢を重ね続けた結果、ストレスがたまり不眠症になる社員も出てきた。

(労政時報 第3652号 05.4.22)

心の問題で、いまいちばん大変な境界性障害といわれる人たちは、自他の境界があいまいで、本来ならば母子一体感の時期に獲得しておくべき、基本的安定感(人間信頼の基礎)が確立されておらず、人間不信が底にありながら、誰かれに対しても、母子一体感的な甘えを求めます。

これらの人びとの特徴は、極度のわがままと相手の立場からものごとを見る視座に欠けていることです。

ケジメと社会常識の作法に欠けるのです。そして、それにいちばん苦しむのも彼ら自身です。

近代文明のかたよりが生んだ犠牲者といえるのかもしれません。

(プロカウンセラーの聞く技術 創元社 東山紘久著)

境界性障害に陥っている人のいちばん目立つ行動としては、破壊的な行動傷害でしょう。

ちょっとしたきかっけで、手首を切ったり、薬を大量にのんだり、すぐに死のうとしたり、また器物を破壊したり、家族に暴力をふるったり、過食や拒食、見境なしのセックスといった行動を取りがちです。

家族はこれらにまずびっくりさせられ、それが頻繁になるにしたがって、苦悩に追い詰められていきます。もちろん、本人も辛いのですが。

また、これと関係するのですが、境界性障害の人はちょっとしてことでひどく傷つきやすく、自分の衝動や欲求をコントロールすることが苦手です。

この傷つきやすさの裏返しで、家族や治療者といった他者を、自分の思いどおりに動いてくれる自分の完全な味方だと理想化する傾向がとても強いのです。

こうした理想化や期待しすぎは、当然、幻想ですから、相手が自分の理想どおりに動かないという現実に出会うと、もろくも崩れてしまいます。

そうなると今度は、その現実を受け入れられず、相手を逆にものすごく非難し攻撃するのです。

したがって、対人関係はひじょうに不安定なものとなり、賞賛し頼っていた相手を、逆に「冷たい」「意地悪だ」「無能だ」と言ってけなしたり、攻撃したりします。

こうした不安定さは、家族や治療者をはじめまわりの人びとをひどく困惑させます。

困ったことに、いったん攻撃がはじまり怒りの感情をぶつけだすと、自己コントロールが難しいため止まらなくなります。

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主体性が弱っていて、自分を頼りにして動くことがなかなかできない・・・「助けてもらいたいと思って来ているのに、自分で解決しろとはなにごとだ」と言ってきます。この場合は、真の解決とは何かということを話し合い、最終目標は自分で自分を助けることだと伝えて、合意を得なければなりません。

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「辛いですね」「たいへんですね」発言の危険性。・・・境界性障害傾向の強い人は、悩みや苦はすべて治療者に移しかえられてしまうので、下手に受容・共感すると、果てしない悪性の依存が生ずるのです。「辛いですね」と不用意に共感したようなことを言うと、その辛さを治療者が全部とってくれるのでは、と考えてしまいやすいんですね。

この理想化は、「相手を神様のように仕立て、奴隷のようにこきつかい、要求を受け入れてくれないと悪魔のように非難する」といった、アラジンの魔法のランプの願望を思い起こさせます。

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ある重症境界性障害の方が電話で「今、手首を切って、ガス栓をひねった」と言ってきました。ガス栓を閉じて、救急車で病院に行くよう勧めたのですが、言うことを聞かないので、「私のほうから119番に電話して行ってもらうようにする」と言ったところ、栓を閉じ、次の面接まで待つという話になりました。

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「あなたは勘が良すぎて、人の感じないところまで感じてしまう。それで平均的な人より、よけい苦しむかもしれませんが、実はそれはかなり素晴らしい能力のひとつですよ」と伝えるのも自己肯定につながる場合があります。

(境界例の治療ポイント 創元社 平井孝男著)

人間関係というものは、極めて煩わしい面をもっている。誰しもその煩わしさから逃れたい気持ちをもっている。近代になればなるほど、人間はそのような煩わしさから逃れる方法として、金による解決法を考え出してきた。

交通事故の際の交渉も弁護士という専門家にまかせて、その費用を負担する。あるいは、団地の清掃を・・・全員が分担金を払って清掃会社に委託するというわけである。

人間関係の煩わしさを避け、能率をあげること、このため近代人は大いに努力してきた。この方法を極端に押し進めてゆくと、人間関係が希薄になってくるという問題が生じてきた。

人間は自分を他と異なる唯一の存在として認め、ただ一人で自分の道を進む姿勢と、他の人々とともに仲間としてともに進む姿勢と、矛盾する両者を調和させて生きてゆかねばならない。

このことをどう行うかは、人間の一生の課題となるともいえるのだが、それを達成してゆくためには、生まれたときから、この両方を少しずつ体験し、その体験を通じて自らのなかに調和の感覚をつくりあげてゆくことになるだろう。

ところが・・・現代においては、他人とともに生きる、融合の体験をすることが少なすぎる人が出てきやすくなっているのではなかろうか。

親が子どものことを考えて一所懸命になるとしても、前述のように子どもを操作しようとする態度が強くなると、子どもは成長に必要な融合体験をすることが少なすぎる。そのために、彼は常に「棄て子」になる恐怖におののいていなくてはならない。

(境界例 日本評論社 河合隼雄・成田善弘 編)


発達障害


発達障害者支援法による定義

上記法律は、発達障害について次のように定めています。

第2条(定義)
この法律において「発達障害」とは、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいう。

広汎性発達障害(自閉症)

生後3年以内に次の兆候が同時にある場合、自閉症と診断されます。自閉症の主たる兆候は幼児期に顕著にでます。

社会性の障害 他者とのやりとりが苦手。他者の意図や感情が読み取りにくい。
コミュニケーションの障害 ことばの発達が遅れる。オウム返し。会話が一方的で自分の興味関心事だけ話す。
こだわり行動 興味の偏りと決まりきったパターンへの固執

高機能広汎性発達障害(アスペルガー症候群・高機能自閉症)

知的には標準またはそれ以上で、不器用もしくは手先がとても器用です。

自閉症と同じ幼児期兆候を持ちますが、発達するにつれて症状が目立たなくなります。しかし、中核症状である社会性の障害は軽くはなく、社会的自立においては大きな問題をもちます。

特に、コミュニケーションの障害はあっても、ことばの発達が遅れなかった場合、アスベルガー症候群と呼ばれます。

学習障害(LD)

知的発達には遅れはないものの、読字、書字、計算などの学習に特異的困難がある障害です。

注意集中力や落ち着きがない場合もり、また、不器用な場合もあります。


注意欠陥多動性障害(ADHD)

多動性・衝動性、不注意・集中困難等により、社会的活動や学業に支障をきたす障害です。

多動は思春期以降減少しますが、不注意はその後も続く傾向があります。衝動性は加齢により減少する場合も、増加する場合もあります。

薬物依存、行為障害、反社会的行動などに発展する場合もあります。


認知症

日付、場所がわからなくなったり、日中うとうとして過ごし、夜中に外出しようとしたり、大声を出したりします。


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