看護師のお礼奉公

看護師の養成とお礼奉公

看護師の養成制度として、病院等に看護学生として勤務しながら看護師資格を取得する制度があり、看護師資格取得後、当該病院等で何年間か勤務を約束させることを、「お礼奉公」と言っています。

(脇田滋『労働者の権利と看護師確保法』(労旬1313))

「お礼奉公」の特徴

問題となる「お礼奉公」の特徴としては、次のような点が挙げられます。

  1. 看護師見習(中学や高校卒業後、病院で見習い勤務をしながら准看護師養成所で2年間学んで准看護師を目指す学生)や准看護師(看護師養成学校に通って看護師の資格を得ようとする者)またはそうであった者が「お礼奉公」を強要されていること。
  2. 病院が上の看護師見習や准看護師等に「奨学金」を貸与の形式で支給します。
    実質的には奨学金を含めた額が給与であるのに、奨学金分を差し引いて給与額を低くしているのではないかと疑わせること。
  3. 准看護師や看護師資格を取得した後、その病院で数年間(2~4年)働くことを義務づけること。
  4. もし上の期間内に途中退職などを申し出た場合には、奨学金の即時返還を求めるかそれに加えて多額の違約金を支払うことを契約させ、実際に請求すること。

「お礼奉公」の法的問題点

「お礼奉公」については、次のような問題が考えられます。

  1. 憲法第22条(職業選択の自由)違反
    お礼奉公は、特定の病院での就業を強制する点で、職業選択の自由に違反します。悪質な場合には、労働基準法第5条(強制労働の禁止)に違反することも考えられます。
  2. 労働基準法第16条(賠償予定等の禁止)違反
    お礼奉公の多くは、
    a.違約金が定められていること、
    b.純然たる貸与金契約でなく、就労と結びついていること、
    c.返済金額が100~200万円を超え、若年の看護労働者にとっては
    「返済金額からして事実上退職が容易になし」得ないことなどから、
    明らかに労働基準法16条に違反しています。
  3. 労働基準法第15条(労働条件の明示)違反
    求人票や採用時の契約に、賃金額や奨学金返済などの具体的な内容を明示しない例も見られますが、これは労働条件の明示、特に賃金について書面による明示を求める労働基準法第15条、同施行規則5条に違反します。
  4. 労働基準法第24条(賃金の全額払い)違反
    本来、賃金を低額に抑えて、その一部を奨励金として「貸与」する例も少なくありませんが、これは労働の対償として賃金を全額支払うことを求める労働基準法第24条に違反していると考えられます。
  5. 民法第90条(公序良俗)違反
    労働基準法第16条に違反した契約は無効です。また、労働基準法違反といえないにしても、憲法第22条の趣旨に違反しているときは、民法第90条を媒介にしてその契約は無効となります。

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