採用内定の取り消し事由

会社側の事由によるもの

採用内定の取消しは、内定取消しの事由が採用内定当時知ることができずまた知ることが期待できないような合理的事由であると認められ、かつ社会通念上相当とされるものであれば可能とされています。

企業側から内定を取り消す場合は、新規採用を不可能とするような予測不能な経営事情が発生したことが前提です。

次のような事実があれば、内定取消もやむを得ないと判断されることになります。

(1) 予定通り内定者を雇い入れると人件費が経営を圧迫して行き詰まることが明らかであり、すでに雇用している社員の解雇を回避するためには、内定取消がやむを得ない状況であった
(2) 内定取消を回避するために最大限の努力をしていた
(3) 内定取消しかないという判断に至った時点で、すみやかに取消の補償をするなどの取れる手段を尽くした

不況等経営不振を理由とする内定取消(解雇)については、「その会社で現在働いている一般従業員をどうしても整理しなければならないという業務上の必要性があり」「企業がその整理解雇を回避するための努力をした後」など整理解雇の4要件に照らして解雇が有効かどうかが判断されることになります。

被解雇者の選定にあたって、現に就労している従業員を解雇せずに、未就労者である採用内定者の内定取消を優先させても、格別不合理ではないとされています。

しかし、入社日2週間前に、突然、経営悪化を説明して入社辞退勧告を行い採用内定を取り消すことは、信義則に反する行為であるとされてます。

インフォミックス事件 東京地裁 平成9.10.31

人材スカウトにヘッドハンティングされ採用内定した労働者が、業績悪化を理由に内定取消となった。

裁判所は、10年勤めた会社を退職したのに、入社前わずか2週間の時点で自体を求めたのは信義則に反する、として取消無効と判断し、1年間の賃金仮払いの仮処分が認められている。

入社誓約書や身元保証書の異議なき受領とか入社前教育の開始、いわゆる内定式の開催などにより、労働契約が締結されたと認められたあとの内容取消は、「労働契約の解約=解雇」となります。

解雇には、合理的と認められる正当な理由が必要です。

採用内定と労働基準法

労働契約が成立していると認められる場合の採用内定の取り消しについては、労働契約の解除の通知になりますので、労働基準法第20条労働基準法第22条等の規定が適用されます。

このため、やむを得ない事情により採用内定取消を行おうとする場合には、使用者は、解雇予告等解雇手続きを適正に行う必要があるとともに、採用内定者が採用内定取消の理由について証明書を請求した場合には、遅滞なくこれを交付する必要があります。


採用内定取消の適法性

採用内定を始期付解約権留保付労働契約の成立であるとすると、採用内定取消の適法性は、留保解約権の行使の適法性の問題となります。

解約事由は、採用内定通知書や誓約書に記載された取消事由をもとに決定されますが、それに拘束されるのではなく、「解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認されるものに限られる」(大日本印刷事件 最高裁 昭和54.7.20、電々公社近畿電通局事件 最高裁 昭和55.5.30)とされています。

大日本印刷事件では、慰謝料100万円と判決時までに支払われるはずだった賃金支払いが命じられました。


適法性を欠く採用内定取消

採用内定の取り消しは、通説・判例の立場では、労働契約関係の解消=解雇として捉えられますから、法的救済の方法としては、損害賠償を請求しうるのみならず、従業員たる地位の確認を求めることができます。

オプトエレクトロニクス事件 東京地裁 平成16.6.23

採用内定通知を出した後、会社の関係者から原告についての「悪いうわさ」を聞いたとして、採用を取り消した。

この内定取消には、正当な理由があるとはいえないとされ、他の就職内定先を断った・精神的苦痛・不安定な立場に置かれた・弁護士費用が生じたことによる慰謝料100万円と、未払賃金2ヶ月半分108万円が認容された。

本件については、社長は再面接まで行い、再度採用内定を出しながら、採用を見送っている。裁判所はこの点を重視し、試用期間を通じ、ウワサが真実かどうか見極めるべきだという見解を示した。

プロトコーポレーション事件 東京地裁 平成15.6.30

中途採用内定時に決めた職務内容の変更に応じないことを理由に内定を取り消すことができるかどうかが争点となった。

会社は、海外旅行情報誌の企画営業として原告の採用を内定したが、経営方針の転換を理由に、配属先をスクール情報誌に変更、これに応じなかった原告の採用内定を取り消した。

裁判所は、内定した職務内容を変更する理由には合理性がないとして、不法行為の成立を認め、会社に対し185万円の支払を命じた。


解雇予告の必要性の有無

会社の採用通知が労働契約締結についての労働者の申し込みに対して、労働契約を完成せしめる使用者の承諾の意思表示としてなされたものであれば、労働基準法第20条解雇予告)が適用されます。

採用通知が「労働契約の予約」にすぎないものであれば、その意思表示によってはいまだに労働契約そのものは有効に成立していないと考えられますので、解雇予告の適用はありません。

この判断は、具体的な個々の事情、特に採用通知の文言、当該会社の労働契約、就業規則等の採用手続に定め、従来からの慣例による採用通知等の意味などを勘案して、総合的に判断されることになります。

一般的には、採用通知に単に「採用する」旨のみが記載されている場合は予約としての要素が強く、「採用日」等が明示されている場合には、労働契約が成立していると認められる可能性が高くなります。


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