競業避止の裁判例について

競業禁止の判断基準

競業禁止が認められるか否かは、会社側の知識・情報・ノウハウなどを保護する必要性と、労働者が被る不利益の度合いを比較した上で、判断されます。

訴えは、主として次の3種類に分類されます。

(1) 競業の差止請求
(2) 損害賠償請求
(3) 退職金の不支給・減額に関するもの

競業禁止を否定した判例

日本水理事件 大阪地裁 平成17.4.15

退職者が別会社を設立し代表取締役となった。

退職者は「万一退職することがあった場合、競業になるような仕事はしない・・・これによりこうむった被害額の倍額を違約金として支払う」という誓約書を入社時に提出していた。

その後、在職中に関わったマンションの工事を受注した。

元の会社は、退職者に合意義務違反として損害賠償2100万円を求めた。

裁判所は、競業禁止規定が、地理的範囲や禁止期間の制限がないことから、公序良俗に反し無効と判断した。

ペットサロンムー事件 東京高裁 平成17.2.24

ペットサロンの経営者が、店舗付近にて退職後ペットサロンを営業している元従業員らに対し、営業秘密である顧客名簿及び情報カードに記載された各顧客情報を、営業活動に使用したことは不正競争に当たり、在職中から競業関係に立つ被控訴人ら店舗の開店準備行為を行ったことは、雇用契約上の競業避止義務に違反するなどとして、損害賠償を求めた。

裁判所は、顧客名簿及び情報カードは、いずれも秘密として管理されていたものであるとは認めることができず、不正競争防止法2条4項所定の営業秘密に該当せず、労働時間中、開店準備行為を行っていたと認めるに足りる証拠も全くないとした。

アートネイチャー事件 東京地裁 平成17.2.23

元従業員らが本件顧客情報及び本件顧客名簿について不正取得後の使用行為等不正競争行為を行い、退職後に同業会社に就職したとして、これが競業避止義務違反を構成するとして、顧客名簿の使用差止等が求められた。

裁判所は、具体的事実の存在が認定できないとして、請求を棄却した。

消防試験協会事件 東京地裁 平成15.10.17

退職後5年間は競業しない旨の特約について、自由意志に基づいてなされたとみられるような状況はなく、むしろ強要されたと同視できる状況が認められ、法的効果を認めることはできない。

したがって、独立し、競業会社を設立した被告に対する原告の損害賠償請求には理由がないとされた。

リロケーションハウス事件 東京地裁 平成15.8.5

本件不動産売買は、従業員である被告が原告会社に無断で行った競業行為として雇用契約上の義務に違反する行為ではあるものの、これによって原告に損害が発生したとはいえないから、原告の被告に対する損害賠償請求は認められない。

新日本科学事件 大阪地裁 平成15.1.22

競業禁止規定は公序良俗に反し無効だとする訴えが認められ、損害賠償義務がないことが確認された。

守られるべき会社独自のノウハウも認められず、秘密保持手当(4,000円)が支給されたとはいえ、就職直後の原告がこれを知り得る立場にあったとはいえず、秘密保持義務・競業避止義務を課す必要性は低い (平成12.1採用、平成13.8退職)。

一方、大卒後の17年間で12年近くにわたり同種の業務に携わってきた原告にとって同業他社への転職を制限することの不利益は大きい。

こうした状況判断に立って裁判所は、退職後の競業禁止義務を定める特約について「従業員の再就職を妨げその生計の手段を制約してその生活を困難にするおそれがあるとともに、職業選択の自由に制約を課すものであるところ、一般に労働者はその立場上使用者の要求を受け入れてこのような特約を締結せざるを得ない状況にあることを鑑みると、このような特約は、これによって守られるべき使用者の利益、これによって生じる従業員の不利益の内容及び程度並びに代償措置の有無及びその内容等を総合考慮し、その制限が必要かつ合理的な範囲を超える場合には、公序良俗に反し無効であると解するのが相当である」とした。

東京貨物社事件 東京地裁 平成12.12.18

イベントの設営等を業とする会社とその従業員との間で結ばれた、退職後3年間の競業をすべての地域において禁止する旨の特約が、退職直前ないし退職届提出後に制定された就業規則中の競業禁止規定に基づき、かつ退職金規程の内容を従業員が知らない状態で作成されたものであること、従業員が受け取った退職金も右規程により算出した額よりも少ないこと、及び、右のように広範な特約によらなければ守れない正当な利益が会社側に存在したとは認められないことなどからみて無効であるとして競業関係に立つ業務の差止めを命じた仮処分決定を取り消した事例。

勤務期間中に得た知識などを退職後にどう活かすかは自由であり、特別な約束なしにこの自由を拘束することはできない、とされた。

キヨウシステム事件 大阪地裁 平成12.6.19

競業避止規定が職業選択の自由を不当に制約するものであるとして無効とされた事例。

工場の組立作業員には、業務の内容やノウハウから見て、競業避止義務を負わせることはできない。

東京貨物社事件 浦和地裁 平成9.1.27

イベントの設営等を業とする会社の労働者が退職に際して使用者と合意した「退職後3年間は同業他社に就職すること、及び個人あるいは会社として同業を営むことは一切いたしません」という旨の競業禁止の特約の効力が争われた保全異議申立事件。

裁判所は、競業禁止について、

  1. 合意によるものであっても、無制限に許されてはならない、
  2. 許されるには、それを必要とする合理的理由があるとき、
  3. その必要を満たす必要な範囲でのみ競業を禁止する合意が、
  4. 正当な手続きを経て得られ、
  5. 禁止に見合う正当な対価の存在がある場合に限られる、

とした。そして、本件については、

  1. 退職後3年間すべての競業行為をすべての地域で禁止するものであり、期間、地域、職種などの範囲のいずれからみても、退職者にとって重大な制約となる。
  2. 一方的に退職者に義務を負担させるだけで、右特約により、それが存在しない場合に比べて、失うもののみがあり、得るものは何もない。
  3. 本件各競業禁止特約は、退職者が既に退職願を提出して相当期間が経過した後になって実現した退職のときに成立したものであり、勤務継続中に勤務継続の前提とされていたものではない。
  4. 本件就業規則中の本件競業禁止規定も、退職者Aについては退職願を提出する直前であり、同Bについては退職願を提出してから約8ヶ月後になって新設されたものであって、これを、退職者らがその存在を前提にその下で就業してきたものとすることはできない。
  5. 会社側に、本件各競業禁止特約におけるように退職後の従業員による競業を厳しく禁止するということ以外の方法で守ることの困難な正当な利益が存在したことは、認めることができない。
  6. 本件各競業禁止特約は、本件競業禁止規定の存在を前提に、しかも、退職者らが本件退職金規程の存在とその内容を伝えられることなく、成立したものである。

などの理由から、本件制約は公序良俗に反し無効であると判断した。

バイクハイ事件 仙台地裁 平成7.12.22

バイク便会社の元従業員が会社を退職後に新たにバイク便会社を開業して行ったバイクによる配達業につき、元のバイク便会社が、秘密保持義務違反及び競業避止義務違反を理由に損害賠償を請求した事例。

新たな顧客をも対象に宣伝を行い、元の会社については誹謗中傷をしていないので、損害賠償は認められない。

東京リーガルマインド事件 東京地裁 平成7.10.6

2年間の競業制限期間がある。この差し止めが請求された。

労働者の職務内容が使用者の営業秘密に直接かかわるため、労働契約終了後の一定範囲で営業秘密保持義務の存在を前提としない限り、使用者が労働者に自己の営業秘密を示して職務を遂行することができなくなる場合は、実体法上労働契約終了後の競業避止義務を肯定すべきであるとし、競業避止を就業規則に規定することについて次のような判断を示した。

「労働契約終了後の競業禁止義務の負担は、それが労働契約終了後の法律関係である一事をもって就業規則による規律の対象となり得ること自体を否定する理由はない。」

裁判所は、禁止の内容や程度が必要最小限でなく、不利益に対する代償措置も十分でない場合は公序良俗に反する としたうえで、代表取締役については有効、監査役については無効(退職金1000万円では不十分)とした。

西部商事事件 福岡地裁 平成6.4.19

競合避止契約を結んだ労働者が競業他社に就職したことに対し、使用者が秘密漏洩の差し止め等を理由に提訴したが、裁判所はその訴えを退けた。

労働者が退職に際し、使用者の機密事項を厳守し、これを漏洩しない旨と使用者を退職して3年間は使用者と事業を競合する同業他社には就職しない旨を定めた秘密保持および競業避止契約を締結した。

しかし、退職後4ヶ月余りのうちに競合する金融会社に就職したことから、使用者は営業秘密の漏洩等の不正行為の差し止めを求めた。

裁判所は、労働者の従前の勤務形態からして労働者が使用者の営業秘密を不正取得したとはいえないとして差止請求を退け、さらに、損害賠償請求についても、労働者の競業他社での営業行為は本件秘密保持契約違反になるほどの違法性はないとした。

また、競合避止義務違反については、本件競業避止契約が競業避止義務を場所的には無制限、期間的には3年間もの長期間、同業者への就職を制限するのであれば、憲法の保障する職業選択の自由に対する不当な制約として、公序良俗に反し無効と解すべき余地があるとした。

そして、これに労働者の年齢やこれまで金融業一筋で働いてきており、他の業種への転職には年齢的にも困難な状況等があること等を加えて考え、本件競業避止契約はその必要性から見て合理的な範囲に制限されることにより、はじめて有効になるとの一般的判断を示した。

このうえで、本件の労働者の同業他社への就業態様は、使用者に対する関係でこれを禁止しなければならないほど顕著な背信性は伺われず、違法とは評価されないとして、使用者の請求をすべて退けた。

中部日本広告社事件 名古屋高裁 平成2.8.31

23年11ヶ月の在職の後、広告業を営む会社を退職し、退職後6ヶ月以内に自営の広告代理業を始めた。

会社は退職金を支給しない旨の退職手当支給規定に基づき、退職金を不支給とした。

裁判所は、退職金の全額不支給は労働者に大きな不利益をもたらすものであるから、それが許容されるには、「顕著な背信性」がある場合に限るとしたうえで、

  1. 原告は退職後の生活を維持するために広告代理店を営むに至った
  2. 会社に損害を与えようとの目的はなかった
  3. 原告の自営により会社の売上高が減少したとは認められないことから、

「退職後6箇月以内に同業他社に就職した場合には退職金を支給しない」旨の定めがあったとしても、原告の退職金をゼロにすることが適当と考えられる「背信性」は認めがたいとして、退職金の不支給を無効とした。

中部機械製作所事件 金沢地裁 昭和43.3.27

一般に、労働者が雇用関係継続中、競業禁止義務を負担していることは当然であるが、その間に習得した業務上の知識、経験、技術は労働者の人格的財産の一部をなすもので、これを退職後に各人がどのように生かして利用していくかは各人の自由に属し、特約もなしにこの自由を拘束することはできない。


競業禁止を認めた判例

東京メディカルサービス・大幸商事事件 東京地裁 平成3.4.8

経理部長の職にある者が、会社の仕入・取引につき自己が代表取締役を兼ねる会社を介在させていたことを会社に察知され、そのことに関し、会社から釈明のための出頭を求められたところ、出勤しなくなり、連絡もとれなくなったことは、懲戒解雇事由たる「正当な理由もなく無断欠勤が7日以上におよび出勤の督促にも応じなかった者」に該当する。

新大阪貿易事件 大阪地裁 平成3.10.15

営業課長、営業部長として13年間勤務してきた従業員が、退職後、元の会社と同じ商品を取り扱う新会社を設立し、元の会社の社員を引き抜いたり、一部の商品を無断で持ち出したりして競業行為を行った。

元の会社は、大口の得意先を新会社に奪われ、月商が10分の1に落ち込む打撃を受けた。

被告は入社時に、退職後3年間の競業避止特約を結んでいた。

裁判所は、事業の性質上重要な顧客情報の利用に関し、得意先を奪うといった競業の禁止行為を、その行為の申請人(会社)に対する影響が最も大きい退職直後の3年間に期間を限定し、特約によって禁止することは不合理ではなく、被申請人のいう職業・営業の選択の自由や生存権を侵すものでなく、公正な取引を害するものではない、とした。

日本教育事業団事件 名古屋地裁 昭和63.3.4

自らの地位を利用して傘下の従業員を勧誘して会社から独立しようとしたことに対し、懲戒解雇とした案件。

原告は、被告の最高級の幹部であり、被告に対する高度の忠実義務を負うものと解されるところ、在職中に被告の営業と完全に競合して、同一の学研商品を同一の方法で販売することを企て、その意図の下に被告の基本的な営業方針に反対の意向を表明して重要な会議中に自己の職務を放棄して無断で中途退席し、さらに、自己の被告における地位を利用して部下の従業員らに対する大量引き抜きを図ったものであり、これが実現されれば被告に重大な損害を与えることは明らかであり、これに対処するために被告のとった同原告に対する本社総務部への配置換えはその必要性が十分首肯できる正当なものであるから、これら同原告の一連の行動は被告に対する重大な忠実義務違反であると評価することができ、同原告に対する懲戒解雇は有効である。

福井新聞社事件 福井地裁 昭和62.6.19

同業他社への再就職を秘密にして退職し、さらに同僚の引き抜きを図った従業員の退職金の返還が認められた。

新聞社(原告)の管理職としての地位にあった2人の労働者がそれぞれ「一身上の都合」「家事都合」という理由で退職し、退職一時金の支給を受けたが、退職後まもなく同地域に新しく設立された新聞社に幹部職員として入社した。

この新しい設立された新聞社は原告新聞社から管理職を中心に40名近くの人員(原告新聞社の全従業員の13%にのぼる)を引き抜き、このため原告新聞社は、従来のままでは平常の新聞発行業務が困難な状況に陥った程であった。

そこで、原告新聞社が、この2人の労働者に対し、真の退職理由をかくして退職し、従業員を大量に引き抜いた行為は、退職金規程の「社の都合をかえりみず退職し、会社の業務に著しく障害を与えたとき」という退職一時金の不支給事由に該当するとして、支給した退職一時金の返還を求めた。

裁判所は以下のように判断した。

被告ら・・・が、終始、真実の退職理由を秘していたのは前記認定のとおりであるところ、これは、被告ら・・・自身が日刊福井へ就職する目的での退職に対しては、退職一時金が支給されないおそれがあることを認識していたためであると解されること等を総合すれば、本件不支給規定は、・・・文理上必ずしも明確に競業禁止義務をうたったものではないが、原告の企業防衛のための規定であって、従業員が同業他社に就職することによって、業務に著しい障害を与えるような場合をも想定した規定であり、また、新規定(※大量引き抜きのさなかに「福井県において当社と競争関係にある同業他社へ就職するため抵触したとき、または同業他社の引き抜きに応じ退職したとき」という退職一時金不支給規定が追加されている。)は、本件不支給規定の内容を注意的に具体化したものと解するのが相当である。

そして被告らが、福井県の新聞業界を取り巻く厳しい状況を認識しつつ、新たに設立され、加えて、原告の従業員を大量に引き抜くことが計画されていた同業他社である日刊福井の事情に参画するために原告を退職し、その計画が実行された結果、原告の平常の新聞発行業務にも支障をきたしたことは前記認定の趣旨に照らすと、正に、右規定に該当するというべきである。

以上のように、被告らの退職は本件不支給規定に該当し、被告らは、本来、退職一時金の支給を受ける地位になかったものであるにもかかわらず、真の退職理由を秘して、それぞれ退職一時金の支給を受け、原告に右各退職一時金相当額の損失を与え、これを不当に利得したものといわざるを得ない。

三晃社事件 最高裁 昭和52.8.9

退職金の返還請求に関する裁判例。

退職後の同業他社への就職を理由に退職金を半分にしたことが肯定された事案。

退職金規程には、退職後同業(広告代理店)他社へ転職のときには退職金は自己都合退職の場合の2分の1にすると定められており、労働者が自己都合退職として退職するに際し、同業他社に就職した場合には退職金規程に従い受領した退職金の半額を返還する旨の念書を差し入れて退職金を受領し、退職20日後に同業他社に就職したもので、会社が退職金の半額を返還請求した。

最高裁は次のように判断した。

原審の確定した事実関係のもとにおいては、被上告会社が営業担当者に対し退職後の同業他社への就職をある程度の期間制限することをもって直ちに社員の職業の自由等を不当に拘束するものとは認められない。

したがって、被上告会社がその退職金規則において、右制限に反して同業他社に就職した退職社員に支給すべき退職金につき、その点を考慮して、支給額を一般の自己都合による退職の場合の半額と定めることも、本件退職金が功労報償的な性格を併せ有することにかんがみれば、合理性のない措置であるとすることはできない。

すなわち、この場合の退職金の定めは、制限違反の就職をしたことにより勤務中の功労に対する評価が滅殺されて、退職金の権利そのものが一般の自己都合による退職の場合の半額の限度においてしか発生しないこととする趣旨であると解すべきであるから、右の定めは、その退職金が労働基準法上の賃金にあたるとしても、所論の同法3条、16条、24条及び民法90条等の規定には何ら違反するものではない。」

フォセコ・ジャパン・リミテッド事件 奈良地裁 昭和45.10.23

被告従業員らは、在職中に「退職後2年間の秘密漏洩禁止と競業禁止の特約」を結んで勤務。退職後、競合他社 (金属鋳造用副資材の製造販売と競業関係にある)に就職し、取締役に就任した。

裁判所は、競業の制限が

  1. 合理的範囲を超え、
  2. 債務者らの職業選択の自由等不当に拘束し、
  3. 同人の生存を脅かす場合には、

その制限は公序良俗に反し無効となる。
この合理的範囲を確定するにあたっては、

  1. 制限の期間、
  2. 場所的範囲、
  3. 制限の対象となる職種の範囲、
  4. 代償の有無等について、

債権者の利益(企業秘密の保護)、債務者の不利益(転職、再就職の不自由)、及び社会的利害(独占集中の虞れ、それに伴う一般消費者の利害)の三つの視点に立って慎重に検討していくことを要する。

また、その技術が、他の使用者のもとでも同様に習得することが可能な一般的知識・技能にとどまる場合には、これを労働契約終了後に活用することを禁ずるのは、職業選択の自由を不当に制限するものであって、公序良俗に反することになる。

その上で本件については、営業が化学金属工業の特殊な分野であり、被告らは客観的に保護されるべき技術上の秘密をもっており、漏洩しうる立場であったので、競業行為を差し止める権利が、元会社にはあり、在職中に「機密保持手当」が支給されていたことを考えると、競業制限は合理的な範囲にある。

また、判決は、秘密漏洩を制限する「ある程度の期間」として、「2年間」は比較的短期であるとして、その効力を認めた。


引抜きを行った会社に損害賠償が命じられた判例

ダイオーズサービシーズ事件 東京地裁 平成14.8.30

本件誓約書に基づく合意は、原告に対する「就業期間中は勿論のこと、事情があって貴社を退職した後にも、貴社の業務に関わる重要な機密事項、特に『顧客の名簿及び取引内容に関わる事項』並びに『製品の製造過程、価格等に関わる事項』については一切他に漏らさないこと。」という秘密保持義務を被告に負担させるものである。

原告は、本件誓約書の定める競業避止義務を被告が負担することに対する代償措置を講じていない。

しかし、前記の事情に照らすと、本件誓約書の定める競業避止義務の負担による被告の職業選択・営業の自由を制限する程度はかなり小さいといえ、代償措置が講じられていないことのみで本件誓約書の定める競業避止義務の合理性が失われるということにはならないというべきである。

会社の顧客を奪った元社員に対し、競業避止義務違反だとして120万円の支払が命じられた。

日本コンベンションサービス(損害賠償)」事件
最高裁 平成12.6.16、大阪高裁 平成10.5.29

国際会議等の企画、運営を行っていた取締役支店長・支店次長が、退職後、同種の事業を営む新会社設立に際し、従業員らに移籍を勧誘したことなどは不法行為に当たるとして、この行為に対し損害賠償を請求。

大阪高裁は400万円の損害賠償を認容。最高裁もこの判決を維持した。

なお、前会社は同時に、退職金不支給条項の遡及適用による退職金不支給を求めたが、この部分について高裁は認めなかった。

チェスコム秘書センター事件 東京地裁 平成5.1.28

電話転送機を利用して秘書代行業を営む会社の従業員が、退職後顧客台帳を利用して在職中に知った相手方を訪問し、より廉価な料金を提示して自分の父母が経営する会社への契約切り替えを勧誘した。

裁判所は、労働契約継続中に獲得した取引の相手方に関する知識を利用して、使用者が取引継続中のものに働きかけをして競業を行うことは許されない。

(これら行為は)労働契約上の債務不履行になるとみるべきである。

従業員は、会社の営業上の秘密を獲得する目的で入社したものと推認されるなどきわめて悪質な競業行為を行う場合、特別な約束なしに退職後の競業避止義務が認められると判断した。賠償額500万円。

東京学習協力会事件 東京地裁 平成2.4.17

進学塾の講師2名が、年度途中に講師12名に対し、自ら開設した進学塾に参加するよう勧誘し、うち5名を退職させるとともに、職務上入手したカードに基づき生徒の住所宛に書面を送付して自分の進学塾への入学を勧誘した。

原告の進学塾はこの2名に対し、退職後3年以内に限って競業避止を課していた就業規則の規定に基づき損害賠償を請求した。

裁判所は、至近距離での競業会社設立については、損害賠償が認められるとした。賠償額3,000万円。

ラクソン事件 東京地裁 平成3.2.25

経営方針に不満を持つ取締役が退職、競合会社に移籍。

在職中から移籍会社と接触し、移籍の段取りを話し合うとともに、マネージャーらとともに内密にセールスマンの移籍を計画準備し、あらかじめ営業拠点を確保して備品を運搬するなどした後、事情を知らないセールスマンを慰安旅行と偽って熱海のホテルに連れ出し移籍の説得を行うと共に、移籍会社の役員に会社説明をさせたりした。

この間にマネージャーが対象者の私物や業務書類を持ち出した。帰京後、直ちに営業開始した。後日、当事者らは退職届を提出した。

このケースについて裁判所は、単なる転職の勧誘を超えて社会的相当性を逸脱した方法で従業員を引き抜いた場合には、その企業は雇用契約上の債権を侵害したものとして、不法行為として右引き抜き行為によって競争会社が受けた損害を賠償する責任がある、とした。損害賠償額870万円。

被告会社は・・・原告における被告若竹及び若竹組織の役割と、それらが抜けた場合の原告の受ける影響を十分認識していながら、被告若竹と若竹組織の集団的移籍のための方法を協議していたこと、右移籍は・・・いわば不意打ち的な集団的移籍の計画であったこと・・・被告会社は・・・移籍の勧誘のための場所作りに積極的に関与し、・・・本件セールスマンらに予定どおり被告会社の説明会を開催してこと・・・セールスマンリクルートを自粛するという振興会の統一見解を遵守しなければならない立場にあったにもかかわらず、それに違反する右のような本件引抜行為を実行したことを総合判断すると、被告会社の行為は、単なる転職の勧誘を超えて社会的相当性を逸脱した引抜行為であるといわざるを得ない。

東日本自動車用品事件 東京地裁 昭和51.12.22

旧会社の取締役らが、一斉に退職して新会社を設立し、旧会社と同一・類似の商品を旧会社の得意先に販売した。

被告らが原告会社と競合する被告会社を設立することは自由であると言っても、その設立については原告会社に必要以上の損害を与えないように退職の時期を考えるとか、相当期間をおいてその旨を予告するとか、さらには被告会社で取り扱う製品の選定やその販売先などにつき十分配慮するなどのことが当然に要請されるのであって、いたずらに自らの利益のみを求めて他を顧みないという態度は許されない、と判示し、共同不法行為として損害賠償を認めた。

モデル大量引き抜きは「違法」 東京地裁が賠償命令

大手モデル事務所「クリエートジャパンエージェンシー」(東京)が、かつての同社取締役らが設立した新会社「フラッグスファイブ・プロモーション」にモデル72人を引き抜かれたことで損害を受けたとして、新会社や元取締役らを相手に約3,300万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が28日、東京地裁であった。

加藤謙一裁判長は「引き抜き行為は違法」として、新会社と元取締役らに約1,500万円を支払うよう命じた。

原告側代理人によると、モデル業界での大量引き抜きで損害賠償を命じたのは極めて異例。

判決によると、ク社の元取締役らは、ク社に所属していたモデルらに新会社と契約するよう勧誘。01年中にク社に所属していたモデル約350人のうち、72がク社との契約を解消し、新会社に移籍した。

加藤裁判長は判決で「元取締役らは100人以上のモデルに電話をかけるなど新会社への移籍を勧誘し続けた」と認定。

「こうした勧誘は著しく社会的相当性を欠くと言わざるを得ず、不法行為と認めるのが相当だ」と述べた。

元取締役らは「親しいモデル以外には新会社設立の事実すら伝えていない」などと主張。移籍の誘導や新会社への勧誘を否定していた。

ク社は、俳優の中谷美紀さんや谷原章介さんらを輩出した事務所として知られる。

(asahi.com 2005.10.29)


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