雇用期間の定めのない場合の退職について

就業規則に退職の申し出の記載がない場合

民法第627条は、雇用契約は解約の申し出があった後、2週間で雇用関係が終了すると規定しています。

退職の申し出の翌日から数えて14日目に雇用関係は切れます。

判例には、「民法第627条第1項を排除する特約は無制限に許容するべきではなく、労働者の解約の自由を不当に制限しない限度においてはその効力を認めるべきであるから、労働者の退職には使用者の承認を要する旨の特約は、労働者の退職申し立てを承認しない合理的な理由がある場合の外は、使用者はその承認を拒否しえないという限度でその効力を認めるべき」(浦和地裁熊谷支部決定要旨 昭和37.4.23)があります。

また、たとえば、仕事の継続により労働者の生命・身体に対する危険が予測される場合など「やむを得ない事由」があるとき(民法第628条)には、期間の定めのない労働契約においても、即時解除ができるのは当然であると考えられています。


就業規則が、2週間を超える期間を規定している場合

民法第627条の規定については、強行規定であるとする裁判例もあります。

しかし、判例、学説でも「強行規定」か「任意規定」で意見が分かれていますので、就業規則に規定しておくことが無難です(多数説は『就業規則より民法第627条が優先する』ですが・・・)。

3ヶ月前うや6ヶ月前の予告を必要とする就業規則の規定はともかく、通常1ヶ月程度の解約申入れの予告を必要とする就業規則の規定を無効だとまで断言するのは困難だと思われます。

したがって、就業規則によって、別の取り決めを特約する事は差し支えありません。

大室木工所事件 大阪地裁 昭和37.4.23

就業規則の規定を優先する旨を認定した決定

ただし、退職届提出から実際退職できるまでの期間が長かったり、退職させないような行為をする事は、「公序良俗」(民法第90条)に反するため、できません。

判断基準は、(1)業務引継ぎの必要があること、(2)会社が後任者を雇入れるために必要な最小限の期間であることが目安となるものと解されます。

なお、高野メリヤス事件(東京地裁 昭和51.10.29)では、労働者が労働契約から脱することを欲する場合にこれを制限する手段となりうるものを極力排斥して労働者の解約の自由を保障しようとしているものとみられ、このような観点からみるときは、民法第627条の予告期間は、使用者のためにはこれを延長できないものと解するのが相当であると認定されています。

日本高圧瓦斯事件 大阪高裁 昭和59.11.29

就業規則の「退職を願い出て、会社が承認したとき、従業員の身分を喪失する」旨の規定は、民法627条2項所定の期間経過後においてもなお解約の申入れの効力発生を使用者の承認にかからしめる特約とするならば、労働者の解約の自由を制約することになるから、かかる趣旨の特約としては無効、とする原判決を維持した。

労働者が、強行退職する場合は退職届を内容証明・配達証明付き郵便で会社に送り付けてくる可能性があります。

契約期間の定めのない雇用契約なら、本状が到着した翌日から2週間後に退職すると記した退職届を内容証明・配達証明付き郵便で郵送すれば、雇用契約は終了するとされているからです。

会社は、雇用契約が存続していることを前提に就業規則違反で懲戒処分、損害賠償請求、不利益行為を主張することも可能だと思われますが、就業規則や労働契約で民法第627条と異なる規定がされていても、原則として民法同条が優先すると考えられます。

ケインズインターナショナル事件 東京地裁 平成4.9.30

14日間の余裕を与えないで退職した場合、損害賠償の可能性が生じるが、現実には賠償を受けることは難しい。

本案件は、それが行われた。

室内装飾等を目的とする会社に入社した労働者が突然退社したことにより損害を被った会社が、右の元社員との間で合意したとする200万円の損害賠償の支払を求めた事例。

被告は、原告に対し、右損害に関し200万円を支払うことを約束したが、この意思表示は、原告代表者の強迫に基づくものであると主張した。

しかし、被告は36歳の男性であるのに対し、原告代表者は同年齢の女性であり、原告代表者の他に女子職員1名が同室している状況で行なわれ、被告が抵抗したり、退席しようとすれば、さほどの困難なしに実行可能な状況であったことが認められる。

また、被告は、原告がやくざと関係があると思っていたと供述したが、その事実を認めるに足りる客観的な証拠は全く存しなかった。

裁判所は、双方の事情を勘案したうえで、原告が被告に対して請求することができるのは、本件約定の200万円のおおよそ3分の1の70万円(及び遅延損害金)に限定するのが相当である、とした。


ページの先頭へ