退職金とは

退職金は法律上で支払義務はない

退職金の支給が、法律で義務づけられているわけではありません。

退職金制度がない企業もあり、これは違法ではありません。


退職金の必要性

では、なぜ退職金制度を持つ必要があるのかを考えると、次のような理由が存在します。

  1. 良質な労働力を得るために役立つ
    いわゆる世間並みの労働条件を整備することで人を募集する際に有利になります。
  2. 従業員の引き留めに役立つ
    優秀な従業員を長期間企業に引き留めるためには、長期勤続を優遇する退職金制度が有効となります。
  3. 退職後のトラブル回避に役立つ
    リストラなどで従業員を退職させるとき、金銭による補償がなければトラブルの原因となります。
  4. 従業員の不正回避に役立つ
    懲戒などによる退職金の没収や減額が、従業員の不正を防止の手助けとなります。

就業規則による規定

ただし退職金等の制度がある場合は、就業規則(社員規程などと呼ぶ会社もある)で規定(支給条件含め)することが労働基準法で義務付けられています。

次のような事項について、はっきりと規定しておく必要があります。

(1) 適用される労働者の範囲
パートタイマーやアルバイト、嘱託等に退職金規程が適用されるかどうかは、しばしば問題となるので、適用されない場合は、その旨明記しておきます。
「勤続3年未満は支給しない」とか「臨時・パート労働者は対象としない」「役付者の格付けによって算定率に差を設ける」など、原則として当事者が自由に定めることができます。
(2) 退職手当の決定、計算及び支払の方法
勤続年数、退職事由等の退職手当額を決定するための要素、退職手当額の算定方法を明記します。
「退職手当について不支給事由又は減額事由を設ける場合には、これは退職手当の決定及び計算の方法に関する事項に該当するので、就業規則に記載する必要がある」(基発第1号 昭和63.1.1)
(3) 支払方法
一時金で支払うのか年金で支払うのかを明記します。
(4) 支払時期
労基法第23条は「使用者は、労働者の死亡または退職の場合において、権利者の請求があった場合においては、7日以内に賃金を支払い・・・」とされていますので、これと異なる扱いも可能ですが、あらかじめ規程に明記し、周知しておく必要があります。

退職手当は、通常の賃金の場合と異なり、予め就業規則等で定められた賃金支払時期に支払えば足りるものである。

(基収5483号 昭和26.12.27、基発150号 昭和63.3.14)

宇田工業事件 大阪地裁 昭和60.12.23

支払時期が定められていない場合の退職金の支払いについては、労働基準法第23条に基づき請求日から7日以内に支払うべきものである。


退職金は賃金の後払いか功労報償か

退職金は、通常、算定基礎賃金に勤続年数別の支給率を乗じて計算されるので、一般に「賃金の後払い」と性格づけられています。

しかし、他方では功労報償的性格も併せ持っており、また、退職後の生活を保障すべきものとされています。

退職金は、使用者が恣意的、恩恵的に支給するときは法的に贈与に過ぎず、労働者から請求することはできないが、労働協約、就業規則、労働契約または慣行等によってあらかじめ支給条件が明確になっているときには、労働基準法第11条の「労働の対償」としての賃金に該当し、労働者は所定の要件を満たすかぎり退職金請求権を取得するとされています。

なお、労働基準法第20条で定められている解雇予告手当は、退職金とは違うものです。


退職金の支払が必要な場合

退職金等の規程がある場合はもちろん、労働(雇用)契約で支給が定められていたり、定着した支給慣行があれば、法律上も支給が義務付けられ、賞与、退職金も賃金の後払いとして、その規程等にしたがって支払われなければなりません。

また、労働者の同意を得ないで、合理的な理由もなく、使用者(会社)が一方的に就業規則を変更するなど、従来の規程などに定められた支給額を減らしたり、支給時期を遅らせることもできません。

しかし、使用者が一方的に減額した場合、同意できないことをただちに労働者が主張しなければ、暗黙の了解をしたものとみなされます。

関連事項:未払い賃金の遅延損害金

小型自動車開発センター事件 東京地裁 平成16.1.26

1年更新の研究員を委嘱され、13年間勤務。職員規定には退職金制度があるが、嘱託員には適用がなかった(説明済み)。しかし、原告は、職員の規定が準用されるはずだと主張して、退職金を求めた。 裁判所は、退職金請求権を否定した。

東洋製作所事件 大阪地裁 平成15.9.5

就業規則上は退職金の支給を予定しているが、その計算方法や額についてはまったく定められていなかったために明確な基準がなく、労使間の慣行に委ねる形になっていたが、慣行上も明確な基準等はなく、いわば被告会社が恩恵的に支給するものとなっていた。

明らかな支給基準がない以上、会社に対する退職金請求権が当然あるということはできない。

丸一商店事件 大阪地裁 平成10.10.30

職業安定所の求人票に「退職金共済加入」と記載しながら、加入していなかった。

裁判所は、求人票に退職金共済制度に加入することが明示されているのであるから、被告は、退職金共済制度に加入すべき労働契約上の義務を負っていたというべきであり、原告は、被告に対し、少なくとも、仮に被告が退職金共済制度に加入していたとすれば原告が得られたであろう退職金と同額の退職金を請求する労働契約上の権利を有するというべきであるとして、退職金共済に加入していたら支払を受けることができた額の支払いを使用者に命じた。


退職金のパートタイマー等への適用

退職金の支払基準は、法令等に違反しないかぎり当事者が自由に定めることができます。

臨時社員、アルバイト、パートタイマー、嘱託員等について、支給しない旨を決めたとしても、これは労働基準法第3条の均等待遇には抵触しないと考えられますので、支給しないことも違法ではありません。(富士重工事件 宇都宮地裁 昭和40.4.15)

ただし、不支給とする場合は、その旨を退職金規程や就業規則に明示しておかなければ、トラブルの原因となります。

また、最近ではパートタイマーなども勤続期間が長くなっていますから、別途退職金制度を設けて処遇することなども、配慮すべきところです。


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