就業規則の変更による退職金減額について

就業規則と退職金のポイント

(1) 就業規則を使用者が不利益に変更することは原則として許されない。しかし、変更された就業規則の条項が合理的である場合には、変更に合意しない労働者にも拘束力がある。
(2) 「合理性」は、変更の必要性と内容の合理性の両面から見て、労働者の被る不利益を考慮しても、なお当該労使関係において法的規範性を是認できるだけの合理性をいう。

特に賃金、退職金など労働者にとって重要な権利・労働条件について、労働者に実質的な不利益を及ぼす就業規則の変更の場合には、その不利益を労働者に法的に受忍させることができるだけの「高度の必要性」に基づいた変更であることが必要です。


就業規則と退職金のポイント

就業規則の変更手続き

就業規則を変更する場合、使用者には意見聴取、変更、周知、届出義務があり、変更の場合にはこれらのすべてが効力発生要件になると考えられています。

これら手続きが一つでも欠ければ就業規則の変更は無効になります。

労働者の受ける不利益

変更により労働者の受ける不利益を考えるにあたっては、賃金、労働時間などの変更による労働密度や生活リズムへの影響、家族生活に及ぼす影響、労働者の将来設計への影響などをリアルにとらえることが必要です。

労働者の受ける不利益が大きければ大きいほど、それだけ変更の合理性・必要性に関するハードルは高くなります。

高度の合理性・必要性

不利益を労働者に法的に受忍させることができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものであるかどうかが問題になります。

高度の合理性・必要性については、使用者側に主張・立証責任があると考えられています。

代償措置

不利益を緩和する代償措置、たとえば定年の延長、特別融資制度の新設等がとられた場合には不利益変更が認められやすくなりますが、代償措置はあくまでも付随的な事情として判断されることになります。

労働組合との交渉

労働条件の不利益変更の場合には、実際の労使交渉の手続やプロセスが特に重要になります。

従業員の多数を組織する労働組合との間に交渉、合意を経て労働協約が締結されたときには、「変更後の就業規則の内容は労使間の利益調整がされた結果としての合理的なものであると一応推測することができる」と考えられるとしています。(第四銀行事件 最高裁 平成9.2.28)

これに対して、企業に従業員の多数を代表する労働組合がない場合、多数を代表する労働組合があり交渉・合意があったとしても設問のように高齢者、女性やパートタイマーといった一部のグループのみが変更により制度上特に不利益を受ける場合、そのグループの意見を聴き、その利益に配慮したかが問題となります。

同業他社との比較

大曲市農業協同組合事件 最高裁 昭和63.2.16

七つの農協組織の合併に際しての賃金退職金規定の統一整備の一環として、元の一組織の退職金支給倍率を引き下げて他の六組織に統一した大曲市農業協同組合事件では、

  1. 労働者の給与額は合併に伴い相当程度増額され、この増額分およびその賞与・退職金への反映分を合計すると、支給率低減による退職金の減額分をほぼ補ってしまうこと。退職金の支給倍率は低減されているものの、実質的な不利益は大きなものではない。
  2. 問題の支給倍率は農協職員の給与の公務員並み引き上げと退職金の適正化のために他の六農協組織において県農協中央会の指導で実現されたもので、合併による新組織においては退職金を旧六農協組織の方に合わせて統一する必要性が高かったこと。このまま放置するならば合併後の人事管理等の面で著しい支障が生じ、単一の就業規則を作成、適用する必要性が高い。
  3. 合併により当該労働者らは、休日、休暇、諸手当、旅費等の面でより有利な取扱いを受けるようになり、定年も男子は1年、女子は3年延長されていること。これらの措置は、退職金の支給倍率の低減に対する直接の見返りないし代償として採られたものではないものの、合併に伴う格差是正措置の一貫として採られたものであるから、合理性があるか否かの判断にあたって考慮することの事情である。

として変更の高度の合理性ありとしています。


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