損害賠償と雇用契約

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損害賠償と雇用契約


損害賠償請求できる場合

以下の場合は、損害賠償請求できるとされています。

ただし、過失の場合は、過失相殺、損害の公平な分担の原則により減額される場合が多いです。


故意に損害を与えた場合

使用者が従業員に対し損害賠償を請求すること自体は、民法415条または709条に基づき差し支えありません。

民法415条(債務不履行による損害賠償)

債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。

民法709条(不法行為による損害賠償)

故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

損害賠償の立証責任は、債務者側にあります。消滅時効は10年です(民法167条1項)

「故意又は過失によって会社に損害を及ぼした場合には、懲戒されることによって損害を免れることはできない」と就業規則に定めている場合があります。

そもそも懲戒処分と損害賠償は法的には別の次元の問題ですから、このような規定を設けることもできます。

故意に損害を発生させた場合や犯罪とみなされる場合には、賠償額が制限されることはありません。

ペイヴァロー事件 東京地裁 平成8.11.26

高速道路切符の横領、不正な経理処理による詐欺の事件につき、会社からの損害賠償請求を全額認めた。


従業員に賠償を求める前に

労働過程において通常発生することが予想されるミスによる損害について損害賠償を従業員に求めることは、難しいと考えられます。

なぜなら、社会生活において利益を収める者(=会社)はその収益活動から生ずる損害については責任を負うのが公平ですし(報償責任)、また、会社としては任意保険をかけるなどしてその損害を分散できるからです。

さらに業務命令自体は会社が決定しているのですから、そこから発生すると予想されるミスについては、そのリスクを会社が負担するのが公平だといえます。

会社があらゆる手だてを講じたにもかかわらずミスが起こったとしても、報償責任はなお会社に残っていますので、損害の全額賠償を求めることはできないと解されています(ただし、求償範囲は広くなる)。

業務上のミスと従業員の処分

通常の労働過程において労働者がミスを犯し、会社に損害が生じた場合に、会社が労働者に取り得る措置としては、以下のものが考えられます。

軽微なミスの場合、会社は始末書の提出等、就業規則に基づいて相応する処分をすることができます。

中程度のミスの場合は、懲戒処分をすると同時に、成績評価などに反映させることは可能でしょう。人事上の措置として配置転換降格処分をすることもできます。

さらにそのミスが労働能力や適格性の欠如によるものである場合には、普通解雇や雇止め(雇用契約の更新拒否)という措置も講ずることが可能です。

ただし、不利益が大きいため、そのミスが処分に相当するものかどうか、会社としても安全対策や教育指導をしてきたのか、十分に考慮してから決定すべきだと考えられます。

普通解雇に相当するような理由がある場合にも、労働者に円満に退職してもらうよう退職勧奨を行う等、話し合いの機会を持つことも検討すべきでしょう。

現実には総合的に判断する

ただし、実際に従業員に賠償責任があるかどうかは、

等によって、判断されることになります。請求できる賠償額もおのずと限界があります。

労働者が損害賠償の義務を負うか否かについては、以下のような尺度で判断されます。

(1) 労働過程において通常求められる注意義務を尽くしている場合には、損害賠償は生じない(損害賠償の基礎となる「過失」がないため)
(2) 些細な不注意(軽過失)により損害が発生したとしても、そのような損害の発生が日常的に(一定確立で)発生するような性質のものである場合には、損害の発生はいわば労働過程に内在するものとして、損害賠償義務は発生しないと考えるべき
(3) 労働者に重大な過失や故意がある場合には、損害賠償義務は免れない

全額を負担させるのは適当でない

学説では、従業員に賠償を求めることについては、否定・制限すべきだというものが有力です。

その背景には、事故の危険性を内在する企業活動によって、企業は収益を上げているのだから、損失もある程度企業が負担すべきである、労働条件(過労など)や会社の設備の不備などが事故の原因になっている場合があるという考え方があります。

株式会社T(引受債務請求等)事件 東京地裁 平成17.7.12

消費者金融T社では各支店において3ヶ月連続で営業目標を達成できなかった場合、その支店の支店長は降格処分になる取り扱いがなされていた。被告もかつてその経験があった。

被告は、A支店長(上記条件に2ヶ月した達成できない状況にあった)の要請に答えるかたちで、無理な融資拡大を行った。また、その責任について会社からの要請に応じて、誓約書を書いた。

各貸付が紹介屋による紹介案件であり、提示された給与明細が虚偽であること、紹介屋が貸出額から利得を得ていたことを認識しながら、融資の拒絶をすることなくその手続に関与したとして、諭旨解雇とされ、損害賠償1144万余円(+利息)が請求された。

裁判所の判断

回収に支障をきたす危険性を知りながら関与した行為は雇用契約上の債務不履行に該当し、また、故意または過失により、違法に原告の営業に損害を与えたものとも評価できる。したがって、被告の不法行為が認められる。その追求は可能。

ただし、認定した損害(未収日数が1000日を超える貸付1722万円)について、賠償責任は過失相殺ないし信義則の見地から制限されるとして、1割の限度(172万余円)で請求を認容。

なお、会社による監禁行為や書面(供述書・誓約書:今回の件について全額を返済する旨の記載あり)作成の強要等があったとまでは認められないとした。なお、この誓約書も、被告が内規に違反する貸付の存在を認め、賠償を抽象的に約束したものであり、貸付金元金相当額までもの引受を約束したものとは、解しえない。

※ 注:紹介者

消費者金融に対し借主を紹介し、この者に対して貸付を行うように口利きするなどして、その見返りに借主から、その受け取った借入金の一部を受領する者。融資が可能となるよう虚偽の給与明細などを顧客に交付する。T社では、「1名の者からの紹介による貸付は2名まで」との貸付基準があった。紹介屋の介在を許すと、顧客が貸付金全額の返済を拒絶したり、手数料名目で紹介屋に貸付金の一部が搾取され、借主が資金的に脆弱となって弁済が滞ることがある。


株式会社G社事件 東京地裁 平成15.12.12

客に車両を販売する際には代金全額が入金されてから納車するのが中古車販売の基本ルールであることを熟知しながらも、店長は、これに反し、入金がまったくない段階で、短期間のうちに次々と商品の車両を引き渡し、結果、15台の価格相当額の損害を生じさせた。

諸事情を総合勘案して、原告は信義則上、損害の2分の1である2,578万円余の限度で、被告に賠償を求められるとされた。


M運輸事件 福岡高裁那覇支部 平成13.12.6

社有のクレーン車の運転中にブームを歩道橋に衝突させた労働者に対して、民法709条、715条に基づく損害賠償請求につき、労働者に重過失が認めがたいこと、会社が適切なリスク管理を怠ったこと(保険加入を怠っていた)、すでに総損害額の4分の1にあたる42万円を弁済していたことから、さらに損害賠償の支払いを求めたり、求償権の行使をすることは許されないと判断した。


K興業事件 大阪高裁 平成13.4.11

運送業で、労働者が社有のトラック運転中に車両を損傷させたことにつき、民法709条に基づく、修理費、休車損害の請求につき、諸般の事情を総合考慮して、会社が労働者に損害を請求しうる範囲は、信義則上、損害額の5%(27,766円)に当たるとされた。


日本国際酪農連盟事件 東京地裁 平成10.4.22

連盟の事務局長であった職員が、数年間にわたり出金根拠のない不正出金を行ってこれを取得したこと、及び副会長に対する名誉を傷付ける内容の書簡を会員に配布したことを理由に懲戒解雇され、同時に、不正出金相当額の損害賠償を求められた。

裁判所は懲戒解雇を有効とし、不正出金相当額(1,200万円余)の賠償請求を認容した。


第一自動車興業事件 大阪地裁 平成9.3.21

会社の売掛金の集金や経理業務全般を1人で行っていた社員が、回収した金員の一部を会社に入金せず、そのことを使用者に糾された際にも誠実に対応しなかったことを理由として即時解雇され、同時に、入金しなかった金員相当額の損害賠償を請求された。

裁判所は、社員の不法行為に対し、即時解雇を有効とした上で、入金しなかった金員相当額(162万円余)の損害賠償を命じた。


丸山宝飾事件 東京地裁 平成6.9.7

宝石の入った鞄をもって営業中、鞄から4m近く離れたところで納品書を作成していたところ、鞄の盗難にあった。

保管管理義務を怠った任務不履行にあたり、その違反の程度は重過失に該当する。

ただし従業員の日頃の勤務態度に問題がない、従業員の収入・資産状況、第三者の犯罪行為によって発生したこと、会社が盗難保険に入っていなかったこと、から、賠償を被害総額(約2,750万円)の半額1,380万円とした。

また、身元保証人である父母にそのうちの4割に当たる約550万円の連帯損害賠償を認めている。


大隈鉄工所事件 名古屋地裁 昭和62.7.27

製造現場での居眠りにより、大型プレナーの機械のスイッチを押し忘れ、約333万円の損害を生じた。

重大な過失として、損害額の4分の1(約83万円)の賠償命令


美濃窯業事件 名古屋地裁判決 昭和61.9.29

プラントの主任が台湾出張中に、使用者が台湾での特許権をもつ技術について、無断で技術指導し一定の利益を得ていた。使用者は労働者と機材納入業者を共同被告として損害賠償支払いを求めた。

裁判所は、労働者の秘密漏洩について義務違反を認めたが、結論的には損害が認定できないとして、使用者の請求を棄却した。


栄和交通損害賠償事件 大阪地裁 昭和56.6.22

駐車禁止でタクシーが客待ちできない場所で客待ちしていた原告Kと、そこに客を乗せるため通りかかった被告Nとが、タクシーの駐車方法について諍いを起こし、Nの頭突きでKは転倒し、重大な後遺症を伴う被害を受けた。

これはNが被告会社の事業執行につきKに加えた損害にあたり、Nと会社はその賠償の責を負う、とされた。ただし、けんかをしたKにも過失があり、5割が過失相殺となった。


茨城石炭商事事件 最高裁 昭和51.7.8 東京高裁 昭和49.7.30 水戸地裁昭和48.3.27

特命により臨時的にタンクローリーを運転していた従業員が、交通事故を起こした。

前方注視不十分等の過失により、先行車に追突。全損害(約40万円)。

会社は、加害車の修理費及び加害車の休車に伴う利益の損失などを理由に、損害賠償を従業員及びその身元保証人に請求した。

第一審の判断

事故発生は必然的に予想されたところであるから、従業員の負担に帰することは、是認できない。

本人の落ち度に対する求償権の4分の1を超えるときは、権利濫用として許されない。

その理由として

(1)経費節減のために会社車両につき対人賠償保険のみに加入し、対物賠償責任保険および車両保険に加入していなかった

(2)タンクローリーには特命により臨時的に乗務するにすぎなかった

(3)勤務成績は普通以上であった、などが上げられた。

第二審の判断

従業員への求償を4分の1に制限した一審判決を支持。

最高裁の判断

会社が従業員に損害賠償をすることはできる。

使用者が、その事業の執行につきなされた被用者の加害行為により、直接損害を被り又は使用者としての損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被った場合には、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと解するべきである 、とした。

そのうえで、従業員への求償を請求しうる範囲は、信義則上損害額の4分の1に制限した。


その他

飲酒のうえジグザグ運転による事故につき7割の求償(昭和46.7.3 大阪地裁)。

前方不注意による事故につき会社の労務の過度の影響もあるとして請求金額の4分の3の求償(昭和46.9.7 松江地裁浜田支部)。

建築業の雑役人夫の過失事故につき自動車利用の頻繁な業種を考慮する等して5分の1の求償(昭和57.4.27 大阪地裁)。

新車の積載陸送車の運転手につき先行車の進路変更に対応し前方不注視のまま車線変更したため停車中の作業車に追突した事故につき4分の1の求償(昭和55.1.30 名古屋地裁)。


「女と話がしたい」 104に4400回迷惑電話の疑い

NTTの電話番号案内104に迷惑電話をかけ続けたとして前橋署は4日、前橋市千代田町5丁目、無職石川惇夫容疑者(58)を偽計業務妨害の疑いで逮捕した。

朝から酒を飲んでは電話したといい、「話し相手がほしかった」と容疑を認めているという。

調べでは、石川容疑者は3、4月に約4400回にわたり、自宅から電話して番号案内の業務を妨害した疑い。

同署によると、石川容疑者は応対した女性従業員に「女と話がしたい」「バカヤロー」と大声で怒鳴ったり、ひわいな言葉をかけたりした。電話番号は案内していないため電話しても費用はかからなかった。

NTT側の記録では一連の迷惑電話は04年4月〜今年5月中旬に計9500回に及び、1日に500回を超えた日もあった。同署は石川容疑者が少なくとも1万回を超す迷惑電話をかけたとみて調べている。

(asahi.com 2005.7.4)


「髪短くされ、売り上げ落ちた」 美容室に賠償命令

東京・歌舞伎町のキャバクラに勤める20代の女性が「長く美しい髪がアピールポイントだったのに短くカットされ、売り上げ成績が落ちた」として、美容室側に600万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁の水野有子裁判官は16日、「担当者が女性の希望について十分に確認しなかった」として約25万円の支払いを命じた。

判決によると、女性は昨年4月、東京・渋谷の美容室で、女性雑誌に載っていた髪形を参考にカットなどを依頼。

だが、頭頂部の髪が短くなり、想定していた髪形にならなかったため、途中で店を出た。

勤務先は歩合制で、髪の毛を切る前の3ヶ月間は月平均で約157万円の給料を受け取っていたが、4月〜7月の平均月収は約74万円に下がった。このため、新しい髪形が売り上げ低下を招いたとしていた。

水野裁判官は、今年に入って収入が約200万円に達した月もあることなどから「カットによって明確に収入が減ったとは言えない」と指摘。

一方で「付け毛の使用を余儀なくされ、接客に自信がもてなくなった時期があった」などとして慰謝料の支払いを命じた。

(asahi.com 2005.11.16)


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