懲戒処分時のチェックポイント

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懲戒処分の際に守るべきルール

懲戒処分を行うには、最低限、下記の2項目を満たしている必要があります。

(1) 懲戒処分を行うには、就業規則上の根拠が必要である。
(2) 懲戒手続きを欠いた懲戒処分は、懲戒権の濫用となり無効となる。

また、下記の要件を欠いた懲戒処分は懲戒権の濫用として無効となります。

(1) 罪刑法定主義の原則
懲戒事由、懲戒内容を明示すること
(2) 平等待遇の原則
すべての労働者を平等に扱うこと
(3) 二重処罰の禁止
同じ事由で二重に処分することはできない
(4) 不遡及の原則
懲戒規定の制定以前の行為には適用できない
(5) 個人責任の原則
連座制は許されない
(6) 相当性の原則
処分の種類・程度には客観的妥当性が必要
(7) 適性手続きの原則
就業規則や労働協約などで定められた手続きが必要

(1)懲戒の根拠があること(罪刑法定主義が準用されているか)

当然のことながら、懲戒に該当する事実がなければなりません。

また、本人に十分は弁明の機会を与える必要があります。

さらに、懲戒処分を行うためには、その理由となる事由とこれに対する懲戒の種類・程度が就業規則の懲戒規定(懲戒事由と懲戒手段)により定められていることが最低限必要です(労働基準法89条1項9号)。

また、その就業規則は周知されていなければなりません。


(2)平等取扱いの原則

特別な理由もないのに、人によりあるいは会社内の地位によって処分の重さを変えたり、先例に反した仕方をしてはいけません。

規律違反の種類・程度その他の事情に照らして、他の同僚や過去の例と比べても平等な扱いであることが求められます。

同じ規定に同じ程度に違反した場合には、これに対する懲戒は同一種類、同一程度とされていることが必要です。


(3)一事不再理(二重処罰の禁止)

日本には「一事不再理」の原則があります(憲法39条)。

同一の事犯に対して二回懲戒処分を行うことは許されません。

一度判決が決まったら、その罪では二度と罰することができないという原則です。

会社内の制裁についても同じように考えられています。

関連事項:始末書

このため、同じ行為に対し二重に処罰することはできませんので、ご注意ください。

なお、二つの罪があるとすれば、二つの罰があるともいえます。

近鉄タクシー事件 大阪地裁 昭和38.2.22 ほか

ある事実に基づいて甲という懲戒処分がとられた後に、その事実について再び乙という別の懲戒処分(処分の形式は同一でもよい)をとることは一事不再理の原則に照らし許されないものと解すべきである。

ただし、ある事実について懲戒処分をとったところ、それから短期間の後に他の懲戒事由が発生したのでこれに対する処分を定める際に・・・、いわば情状として考慮することは許される。


平和自動車交通事件 東京地裁 平成10.2.6

懲戒処分は、使用者が労働者のした企業秩序違反行為に対してする一種の制裁罰であるから、一時不再理の法理は就業規則の懲戒条項にも該当し、過去にある懲戒処分の対象となった行為について反省の態度が見受けられないことだけを理由として懲戒することもできない。


ただし、懲戒歴について、後日の他の懲戒処分に当たっての情状としてある程度考慮することは、認められると解されています。

一事不再理は、過去に懲戒処分を受けたのと同一の行為につき再度懲戒処分を課すことを禁ずるものであって、過去に懲戒処分を受けたことのある者が、新たに懲戒処分の対象となる非違行為を犯した場合に、過去にまったく懲戒処分を受けたことのない者に比して、重く処罰されることまでを禁ずる趣旨ではありません(甲山福祉センター事件 神戸地裁尼崎支部 昭和58.3.17)


(4)不遡及

根拠規定が設けられる以前の事犯に対して適用されてはなりません(不遡及の原則)。


(5)個人責任の原則

懲戒処分は労働者個人の行為に対して行う制裁罰ですから、行為に関与していない別の労働者に対しての責任連座制は許されません。


(6)相当性の原則

処分理由となった服務規律違反行為は、そうした程度の処分をするに値するものでなければなりません。

懲戒には、軽い順に下記のような処分があります。

(1) 戒告
将来を戒めるのみで始末書の提出なし
(2) 譴責(けんせき)
始末書を提出させて将来を戒めること。
譴責それ自体は具体的な不利益を受けないが、昇給・昇進・昇格や賞与において不利な査定を受けることが多い。
(3) 減給
労働者が受け取ることができる賃金から一定額を差し引くこと。
1回の減給額は平均賃金の1日分の1/2以下。減給総額は一支払期の賃金の1/10以下。
(4) 出勤停止・停職
労働契約をそのままとして就労を禁止すること 。
出勤停止期間中は、当然に賃金を受けられない=労基法91条の減給規定は適用されない。(昭和23.7.3 基収第2177号)。
出勤停止の期間について、とくに法律の規定はないが、賃金が支払われず生活が不安定となるため長期化は好ましくない。
(5) 休職
(6) 降格
労働内容が変わらないのに、肩書きだけ降格させると、その降格自体が不当だとされます(倉田学園事件 高松地裁 平成1.5.25)
(7) 自主退職の勧奨
(8) 諭旨解雇
退職願や辞表の提出を勧告し、即時退職を求め、催告期間内に応じない場合は懲戒解雇に付するもの。
(9) 懲戒解雇
解雇予告手当の支給は不要(労働基準監督署の認定があれば)。

以上のようなものがあり、これに始末書提出が付いたり付かなかったりしますが、それほど重大でない違反行為に厳しい処分で当たることは許されません。

はじめから「懲戒解雇」という結論を出すように決めてかかるのではなく、その違反行為について順次軽い処分を適用できないかということを考察してゆき、やっぱり懲戒解雇しかないというように判断していくのが原則です。

なお、ひとつの事例に対し、懲戒解雇とするには妥当性を欠くが、狭義の普通解雇としては有効であるとした裁判例も存在します( 大商学園事件 大阪地裁 平成8.12.25、日経新聞社事件 東京地裁 昭和45.6.23)


(7)適正手続の原則

処分手続は、適正かつ公平なものでなければなりません。

特に、本人に弁明の機会を与えることは最小限必要とされます。

処分しようとする時は本人に弁明の機会を与えるとか、理由をはっきりさせその証拠を明らかにするとか、処分に対する不服があればそれを公正に検討するといった手続きが必要です。

こうした手続が就業規則や労働協約に定められているのに、それに違反した場合はもちろん、特に定めがなくても適正な手続を経ないでなされた処分は、権利の濫用等として無効とされることになります。

また、このような規定がない場合でも、本人に弁明の機会を与えることが最小限必要です。

例えば懲戒処分にあたり就業規則や労働協約上、労働組合との協議や懲戒委員会の討議を経るべきことが定められているにも関わらず、それらの手続が適正に取られていない場合です。

大栄運輸事件 大阪地裁 昭和47.7.12

刃物をもって社長の腹部を刺し重症を負わせた従業員に対する懲戒解雇が、解雇協議約款の定めを守らなかったという手続き上の不手際で無効とされた。

しかし、いずれにせよ難しい案件なので、相反する判断が下されることが多いようです。


後付けの解雇理由は認められない

懲戒解雇の理由となる事実は、会社が懲戒解雇を通告した時点で知っていた事実に限られます。

多くの裁判例では、懲戒解雇のときの解雇理由とは別の解雇理由を、社員が争う姿勢を見せた途端に「あれもあった、実はこれも解雇の理由だ」と付け加えてくることがあるようです。

中には、相当古い昔の事実で、当時何ら注意しなかった事柄まで持ち出すこともあるようです。

しかし、そのことが「重大なことだ」と主張する一方で、その後に功績を認めて昇進・昇格していたり、表彰していたりするのでは説得力はなく、会社側の訴えの根拠が疑われることになるといえます。

このような「苦し紛れのあら探しの末に探し出してきた解雇理由」では、裁判でも認められる可能性は少ないのです。

山口観光事件 最高裁 平成8.9.26

懲戒解雇に関して、後から追加される解雇理由は、主張すること自体許されるものではない。


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