仮処分とは
仮処分制度とは、債権者からの金銭債権を保全する仮差押えと異なり、金銭債権以外の権利を保全する申し立てによって、民事保全法に基づき裁判所が決定する暫定的な処置です。
係争物に関する仮処分と仮の地位を定める仮処分の2種類があります。
係争物に関する仮処分は、金銭債権以外の権利執行を保全するために、現状の維持を命ずる仮処分で、不動産の処分を禁止するための処分禁止の仮処分や、不動産の占有の移転を禁止するための占有移転禁止の仮処分があります。
また、仮の地位を定める仮処分とは、争いがある権利関係について、債権者に生ずる著しい損害または急迫の危険を避ける為に発令されるものです。
解雇撤回のための仮処分
例えば、労働者が不当に解雇されたとして、「地位保全」と「賃金仮払い」のための仮処分の決定を求めてくる場合があります。
退職強要などに対する申し立てについては、職場での言葉などによる権利侵害や名誉感情を損なうような行為によって働き続けることができなくなるような、直接的侵害行為があるという主張になります。
債権者(労働者)は、本訴ほど厳密な証拠が必要なわけではありませんが、こうした主張を裏付けるための証拠を提出する必要があります。
もちろん仮の処分なので、本訴での判決が確定するまでの暫定的な処分です。
民事保全法
第23条
係争物に関する仮処分命令は、その現状の変更により、債権者が権利を実行することができなくなるおそれがあるとき、又は権利を実行するのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに発することができる。
2 仮の地位を定める仮処分命令は、争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためにこれを必要とするときに発することができる。
3 第20条第2項(※注:条件付・期限付の仮差押命令)の規定は、仮処分命令について準用する。
4 第2項の仮処分命令は、口頭弁論又は債務者の立ち会うことができる審尋問の期日を経なければ、これを発することができない。ただし、その期日を経ることにより仮処分命令の申立ての目的を達することができない事情があるときは、この限りでない。
賃金確保のための仮処分
解雇を争って復職を求める場合、いきなり通常訴訟を行うと、判決までの1年余りを無収入で過ごすことになり、生活できないため、まずは賃金仮払いの仮処分を申し立ててきます。
労働審判を利用するケースが多いのですが、金銭解決の余地はなく絶対に現職に復帰したいなどのような場合には、賃金仮払いの仮処分から本訴となるようです。
仮処分は、時間をかけて判決を取った場合とほぼ同一の効果があるものだけに、仮処分を認めないと労働者の生活が困窮するという、やむを得ない場合にのみ認められます。
したがって、未払給与の場合には認められ易いということになりますが、退職金未払の場合には容易には認められないと考えたほうが良いようです。
仮処分の流れ(解雇を争っている場合)
(1)申立書提出 |
「仮処分申立書」を地方裁判所に提出する。申し立てでは、以下のことを訴えます。
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(2)審尋 |
裁判所が会社と労働者の双方から事情を聞く。通常、仮処分では当事者尋問や証人尋問は行わず、答弁書をやり取りします。お互いに相手の主張に反論しながら併せて証拠書類として陳述書を出していきます。 東京地裁の場合、審尋はおおむね2週間に1回程度のペースで行われ、何回か審尋をして双方の主張が揃うと、裁判所から和解の勧めがあることが多いようです。 |
(3)仮処分の決定 |
審尋で和解の折り合いがつけば、和解文書を交わして解決となりますが、和解で解決できそうもない場合は、裁判所は通常訴訟の判決にあたる決定を出します。 東京地裁の場合は、3~6ヶ月で決定が出されているようです。 |
仮処分の決定では、東京地裁の場合、従来の給料全額ではなく、実際の生活費を領収書や陳述書を出させ、その範囲の額に限定され、期間はたいてい1年間のようです。
また、解雇が違法な場合でも、賃金仮払いの仮処分だけが認められ、地位保全の仮処分は認められないことが多いようです。
本訴の提起
仮処分は、あくまで仮の救済を与えるに過ぎないので、紛争が終局的に解決されるわけでありません。
労働者の申し立てを認める仮処分が出された場合、使用者は労働者に対して本訴を提起するよう求めることができます。
裁判所によって起訴命令が出されたにもかかわらず、命令された期間内に本訴を提起しない場合には、仮処分決定は相手方の申し立てにより、取り消されることになります。
また、仮処分決定そのものに対して不服申し立てをすることもできます。ただし、不服申し立てがあったこと自体によって仮処分決定が効力を失うことはありません。
裁判所が仮処分決定を取り消して初めて、仮処分決定の効力が失われることになります。