裁判員制度とは

国民が刑事裁判に参加する

「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」が平成16年5月21日に成立し、平成21年5月21日から裁判員制度が施行されました。

裁判員制度は、国民が裁判員として刑事裁判に参加し、被告人が有罪かどうか、有罪の場合どのような刑にするかを裁判官と一緒に決める制度です。

国民が刑事裁判に参加することで、裁判が身近で分かりやすいものとなり、司法に対する国民の信頼向上につながることが期待されています。


代表的な事件の例

(1) 殺人 人を殺した場合
(2) 強盗致死傷 強盗が人にけがをさせ、あるいは、死亡させた場合
(3) 傷害致死 人にけがをさせ、その結果、死亡させた場合
(4) 危険運転致死 ひどく酒に酔った状態で、自動車を運転して人をひき、死亡させた場合
(5) 現住建造物等放火 人が住んでいる家に放火した場合
(6) 身代金目的誘拐 身代金を取る目的で、人を誘拐した場合
(7) 保護責任者遺棄致死 子供に食事を与えず、放置して、死亡させた場合

また、国民が裁判に参加する制度は、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリアなどでも行われています。

必要な法律知識を知らない場合

裁判員の仕事に必要な「法律に関する知識」や「刑事裁判の手続」については、裁判官によって説明されることになっています。


裁判員の仕事

公判に出席する

裁判員に選ばれたら、裁判官と一緒に、刑事事件の審理(=公判)に出席します。公判は、できる限り連続して開かれます。

公判では、証拠として提出された物や書類を取り調べるほか、証人や被告人に対する質問が行われます。

裁判員から、証人等に質問することもできます。

審理日数は事案により異なりますが、多くは数日間で終わるものと見込まれます。

評議、評決する

証拠をすべて調べた後、事実を認定し、被告人が有罪か無罪か、有罪だとしたらどんな刑にするべきかを、裁判官と一緒に議論(評議)し、決定(評決)することになります。

議論を尽くしても、全員一致の結論が得られない場合、評決は多数決により行われます。

ただし、その多数意見には、裁判官、裁判員のそれぞれ1人以上の賛成が必要とされています。

有罪か無罪か、有罪の場合どのような刑にするかについての裁判員の意見は、裁判官と同じ重みを持ちます。

判決宣告

評決内容が決まると、法廷で裁判長が評決の宣告をします。

裁判員としての仕事は、評決の宣告により終了します。


裁判員の選任まで

裁判員候補者名簿の作成

選挙権のある人の中から翌年の裁判員候補者となる人を毎年くじで選び、裁判所ごとに裁判員候補者名簿を作ります。名簿に載った人には連絡がきます。

事件ごとに裁判員候補者が選定される

事件ごとに、上の名簿の中からくじでその事件の裁判員候補者を選びます。選ばれた人には、裁判所に来てもらう日時等が知らされます。

候補者の中から裁判員を選ぶ

裁判長から、裁判員になれない理由がないかどうか、辞退希望がある場合はその理由などについて質問されます。

裁判員になれない理由のある人や辞退が認められた人は候補者から除外されます。

また、検察官や弁護人は、双方とも法律で決められた人数の範囲内で候補者から除外されるべき人を指名することができ、指名された人は候補者から除外されます。

裁判員が選任される

除外されなかった候補者から、裁判員が選ばれます。なお、裁判員には日当や交通費が支払われます。

裁判員は原則として辞退できない

裁判員に選任された人は、原則として辞退できないことになっています。

ただし、次のような人は、申し出をして、裁判所からそのような事情があると認められれば辞退することができます。

  1. 70歳以上の人
  2. 地方公共団体の議会の議員(ただし、会期中に限る)
  3. 学生又は生徒
  4. 過去5年以内に裁判員、検察審査員等を務めたことのある人
  5. 過去1年以内に裁判員候補者として裁判所に行ったことがある人
  6. 一定のやむを得ない理由があって、裁判員の職務を行うことや裁判所に行くことが困難な人(やむを得ない理由とは、重い病気・けが、同居人の親族の介護・養育、事業に著しい損害が生じる恐れがあること、父母の葬式等)

トラブル防止のための措置

裁判員の名前や住所などは公にはされません。評決の際に裁判員がどんな意見を述べたかは、明らかにされません。裁判員やその親族に対し、威迫行為をした者を処罰する規定が設けられています。

なお、裁判員やその親族に危害が加えられる恐れがあり、裁判員の関与が非常に難しいような例外的な事件は、裁判員が加わらず裁判官だけで裁判を行う場合があります。

裁判員となるために必要な休みを取ることは法律で認められています。裁判員として仕事を休んだことを理由として、会社が解雇などの不利益な取り扱いをすることは法律で禁止されています。


裁判員は義務

裁判員としての職務を行う場合は、労基法第7条(公民権行使の補償)の「公の職務」に該当します。

労働者がその職務に必要な時間を請求した場合は、使用者は拒むことができません。


裁判員になれない場合

裁判員の欠格事由

(1) 国家公務員となることができない人(成年被後見人など国家公務員法第38条の規定に該当する人)
(2) 義務教育を終了していない人(義務教育を終了した人と同等以上の学識のある人は除きます)
(3) 禁錮以上の刑に処せられた人
(4) 心身の故障のため裁判員の職務の遂行に著しい支障のある人

就職禁止事由

(1) 国会議員、国務大臣、国の行政機関の幹部職員
(2) 司法関係者(裁判官、検察官、弁護士等)
(3) 大学の法律学の教授、助教授
(4) 都道府県知事および市町村長(特別区長も含む)
(5) 自衛官
(6) 禁錮以上の刑に当たる罪につき起訴されて裁判中の人
(7) 逮捕または拘留されている人  など

事件に関連する不適格事由

(1) 審理する事件の被告人または被害者本人、その家族、同居人等
(2) 審理する事件について、証人または鑑定人になった人、被告人の代理人、弁護士等、検察官または司法警察職員として職務を行った人  など

その他

裁判所が不公平な裁判をする恐れがあると認めた人

判決文、わかりやすく 最高裁、裁判員導入へ文例検討

裁判員制度の導入に合わせて判決文がわかりやすくなる。

最高裁は仮想の事件を設定したサンプル文案をつくり、現場の裁判官と検討を始めた。

これまでの判決文は「未必の故意」「共謀共同正犯」などの法律用語や漢語があふれ一つの文が長く、ふつうの市民には難解だった。今回の「判決文改革」では、法律の素人の裁判員と裁判官がどう判断したかの筋道を当事者や世間にわかりやすく示し、上級審の裁判官も納得させることが必要になる。最高裁は法曹関係者だけでなく市民らとも議論を重ねる意向だ。

裁判員制度は、法律の専門家だけでなく市民も裁判の審理に参加する。司法を市民にとって近い存在にするねらいもある。

明治以降、判決文のわかりにくさが司法と市民を遠ざけてきた要因とされてきた。わかりやすい判決文で社会への説得力を増すことは、裁判員制度を成功させる必要条件だと言える。

最高裁による仮想事件は「夫婦げんか殺人事件」で、夫とけんかした妻がとっさに果物ナイフで夫の胸を刺して殺害したという題材。

これをもとに書かれた判決文試案の判決理由欄では、争点を「殺意があったかどうか」と端的に設定した。そのうえで「興奮状態における偶発的・一時的な殺意を認定できると判断した」と、簡潔な結論を述べた。

その後で、なぜそう判断したかの根拠を5項目に分けて論じている。

これは長い説明の最後で結論に至る従来型に比べ、個条書きに近い形で読みやすくするという工夫の表れだという。

また、法律家の間でしか通用しない、隠語のような言葉遣いは避けた。たとえば、争点の「殺意」。

専門家の間で当たり前のように使われてきた「未必の故意」は、「とっさに『死んでもかまわない』との思いを抱いたとしても特に不自然ではない」と言い換えた。

裁判員らの思いをわかりやすく改めて伝えるようめざしたのが、刑の重さについて説明する「量刑の理由」欄だ。

たとえば、「本件のような偶発的な事件では、被告人を長く刑務所に置くことで罪を償わせるよりも、出所後も視野に入れて、遺族に対する真の謝罪を尽くさせるのが重要なのではないか」といった表現だ。

これまでは「被告人にとって酌むべき事情」とされてきた部分も、「刑を軽くする方向で考慮すべき事情」に変わった。

さらに、場合によっては数十件以上になることもあった証拠も七つに限った。

被告人や鑑定人の主張や意見は、捜査段階で検察官らがまとめた調書ではなく、裁判員が直接に見聞きする法廷での口頭のやりとりを重視した。

こうした具体例をもとに、全国の刑事裁判官が今年7月と9月、司法研修所で意見を交わし、「簡潔にわかりやすく」という最高裁試案の方向性が固まった。

(asahi.com 2005.11.5)

「密室の恋」? 日弁連、裁判員制へ難解用語見直し

「ミヒツノコイ」って「密室の恋」?

09年までに始まる裁判員制度に備えて、難解な法廷用語をわかりやすく言い換える作業に、日本弁護士連合会のプロジェクトチームが取り組んでいる。

裁判員裁判では法廷での口頭のやりとりが中心になり、ふつうの人が耳で聞いて分かる言葉が使われないと裁判がうまくできない。

このため、一般になじみがなかったり誤解されやすかったりする16語についての案を、これまでにまとめた。単純な言葉の置き換えが難しいものも少なくない。

チームはまず、言い換えの対象とすべき単語を弁護士に挙げてもらい、50語をリストアップ。その後、大学生や会社員ら46人に面接調査。

50語について聞いたことがあるかや、意味を理解しているかなどを尋ねた。

市民生活ではまず耳にせず、「聞いたことがある」も3割にとどまったのが「合理的疑い」だ。

この場合の「疑い」の意味は「検察側の主張通り犯人と認定することへの疑問」だ。「合理的な疑いが残る場合は、被告を有罪にすることはできない」などと使う。

だが「聞いたことがある」と答えた市民でさえ、その意味を「誰がどう考えても、その人に容疑があると考えられること」「疑われても仕方がない状態」などと、正反対にとらえているケースが続発した。

プロジェクトチームは、「疑い」という言葉は「容疑」という語感も強いため、誤解が生じやすいとして、「そのまま使わないのが望ましい」と判断した。

同様にねじれがあったのが「公訴事実」。

検察側が公判を通じて証明しようとする目標を示すもので、検察側がそれを十分に立証できるかどうかが、裁判の焦点になる。

だが「事実」という言葉の響きに引っ張られ、「確実と思われること」「それを前提として裁判を進めてもいいと思われる事柄」とする回答があった。漢字の書き取りでも「控訴事実」「抗訴事実」などとまちまちに。

そこで言い換え案では「検察官が裁判を求める事件の要点」とした。

だじゃれのような勘違いもある。

殺人事件などの法廷でよく出てくる「未必の故意」。被告に殺意があったかどうかというような議論で登場する重要な用語の一つだ。

昨年2月、群馬県のある市民講座で、チームの一人が40~80歳の男女30人に「ミヒツのコイ」と読み上げ、漢字に書き取ってもらった。

苦心の末に出てきた答えは、「密室の恋」「密室の行為」……。正答は一つもなかった。

裁判員裁判は、書面に頼らず、法廷での口頭のやりとりが中心になる。ふつうの人が聞いて分かる言葉でなければ、使い物にならない。

最高裁もわかりやすい審理の進め方や判決文のあり方を検討するなど、関係者が工夫を続けている。

チームの座長をつとめた酒井幸弁護士は「弁護士が当然と思っていることでも、意外な解釈や指摘があり、『ああ、そうなんだ』と目を開かせられた」。チームは「将来は裁判員用の用語集として結実させたい」としており、今秋までに50語ほどに増やす計画だ。

(asahi.com 2006.1.14)


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