セクハラの判例
和歌山(青果卸売会社)事件 和歌山地裁 平成10.3.11
概要
被告:取締役 会社
原告:青果の卸売業を行う会社の女性社員
被告の取締役等が、原告を「おばん、ばばぁ、くそばばぁ」と呼称し、性器付近、胸、尻等を触る、性的な言動によりからかい、被告が紙製のバインダーで原告の頭を数回叩くという行為に及び、原告は謝罪を求めたが、会社の対応が不十分であるとして退職した。
慰謝料 500万円を請求
判決
慰謝料100万円認容
被告らの行為は、原告の人格権を侵害し、不法行為を構成する。
本件不法行為は、長期間にわたる継続的、集団的なものであり、その結果、原告が退職せざるを得なかった等の事情に鑑みると原告の精神的苦痛は相当なものであったと認められる。
出典・参考:管理職のためのセクハラ講座 あなたの理解で大丈夫ですか?(ぎょうせい 金子雅臣 著)、セクシュアル・ハラスメント法律相談ガイドブック(第二東京弁護士会)
鳴門教育大教授セクハラ事件 高松高裁 平成11.6.22 徳島地裁 平成10.9.29
概要
教授は大学院修士課程のゼミに在籍する女性(指導学生)に恋愛感情を抱き、自宅に頻繁に電話したり、性的内容の嫌がらせの手紙を約1年間で80通も出すようになった。女性は私事に干渉しないよう申し入れたが聞き入れられず、執拗な食事の誘いや愛人関係を強要された。そのため院生の女性は体調を崩し、「精神が著しく疲労している」と診断されて3ヶ月間、通院治療を受ける羽目になり、精神的なショックで、博士課程への進学を断念せざるを得なかった。
判決
セクハラ行為は地位を利用したものであり、また、手紙、言葉によるセクハラの実態が認められたため、220万円の支払いが命じられた。
出典・参考:職員からの相談実務のてびき(日本人事行政研究所 職員相談研究会監修)
中央タクシー事件 徳島地裁 平成8.10.16
概要
組合に所属する被告会社の女子従業員が、被告会社の幹部職員から体に触るなどのセクハラ行為を繰り返し受けたとして抗議したところ、解雇を通知された。職場から排除され、就業不能になった。
判決
解雇無効と、地位保全・賃金支払の仮処分が認められた。
出典・参考:労働判例707号
石見交通事件 松江地裁益田支部 昭和44.11.18
概要
原告Aは、採用後1ヶ月の基礎教育を受け、営業所に配置されて間もなく、同じ従業員宿舎に居住するCに暴力をもって姦淫され、その結果懐妊するに至った。営業所長Dは原告Aに対し、情交関係の事実は被告就業規則の規定から、本来ならば懲戒解雇すべきであると強迫により退職届を書かせ、情交に関し詳細に陳述することを求めて供述書を作成し、書面押印させた。
判決
原告Aが雇用契約解約の意思表示をするに際し、数人の前でDから情交関係を難詰、罵倒され、驚愕の余り何らの弁明もできず、かつDによる退職届の要求がひどく強制的であったので反発もできないまま退職届に署名押印したことが認められる。当時原告Aは18歳の女子で、雇用契約解約の意思表示をしなければ解雇され、社会的に如何なる不利益を被るかわからないとDが原告Aを畏怖させた上、その影響のもとにこれを行わせようとしていたと推認するに十分であり、原告AとしてはDに従わなければ今後如何なる事態が起こるかも知れないと畏怖したことも明らかである。
原告Aの祖母がCによる姦淫につき強く抗議したので解雇してやったとDが語ったこと、Cに対する処分の仕方と著しい不均衡があるのみならず、営業所副所長は本件情交については合意によるものであるとの資料作成に努力し、原告Aの退職を合理化しようとしている点も認められ、結局Dの原告Aに対する退職の強要は、原告Aの祖母から受けた抗議に対する私怨から出たものといわざるを得ない。以上、原告Aには被告から解雇される正当な理由は何らないものというべく、原告Aから雇用契約解約の意思表示を強迫によって得たことはまさに違法である。
18歳で未婚の原告がその意に反して自らの情交関係の陳述をさせられた精神的打撃により殆ど錯乱状態にあったということができる。本件原告Aの職業、年齢、性別を総合すると、本件不法行為による損害については、30万円をもって一応の慰藉がなされ得るものと認められる。
出典・参考:職場のトラブル解決の手引き-個別労働関係紛争判例集-(日本労働研究機構編)
岡山セクハラ(労働者派遣会社)事件 岡山地裁 平成14.5.15
概要
専務が原告Aと出張した際に、「君を後継者として決めた。これから君のプライベートも仕事も拘束させてもらう。」などと言い、原告Bに対しては、原告Aに「専務のこと好きなんでしょ、抱かれれば。」と言って決断を促してほしいことを依頼するなどのセクハラを受け、他の社員とも相談し会社に訴えを起こしたが、逆に社長からセクハラを受け、さらに会社を混乱させたとして支店長から平社員に降格された。
判決
原告Aについて、慰謝料250万円、未払給料相当損害金399万円、逸失利益として799万9,320円、弁護士費用160万円を認容。
原告Bについて、慰謝料80万円、未払給料相当損害金356万円、逸失利益として914万2,080円、弁護士費用133万円を認容。
社長のセクハラについては認めなかったが、上司のセクハラを認め、会社は十分に調査せず、多人数で訴えたことを理由に降格・減給することは許されないとされた。
裁判所は、「子どもはまだか」という質問、「服装が派手」という注意について、これらは執拗に尋ねられるなどしないならば、発言のみを捉えて違法行為であると解することはできないと判断した。
出典・参考:働く女性と労働法(東京都産業労働局 2004)、パワーハラスメントなんでも相談(日本評論社 金子雅臣 著)
A社(女子高生アルバイト)事件 広島地裁 平成.15.1.16
概要
未成年の女性が、アルバイト先の制服販売会社でセクハラを受け、重篤な精神疾患(解離性同一性障害=多重人格障害)に罹患した。
本人と両親が会社と加害者の男性社員に対し、約1,300万円の慰謝料を求めた。
判決
両親に対する精神的苦痛も合わせて認め、総額260万円(両親への慰謝料は各20万円)の支払いを命じた。
出典・参考:労政時報(2003.11.14)
下関セクハラ(食品会社営業所)事件 広島高裁 平成16.9.2 山口地裁 平成16.2.24
概要
上司は、自身の性器に関する露骨な描写を含む卑猥なメールを10数回にわたって原告女性従業員に送信し、他の従業員が外出中であることに乗じ、「ダンスをしよう。」などと言って抱きつき、胸を触るなどした上、勤務時間中であるにもかかわらず、強引にラブホテルに誘い、性交渉を持った。後日、上司は、原告を再度ホテルに誘って性交渉を持とうとし、これを拒否した原告に対し、自身の性器を露出して見せ、逃げようとする原告に抱きついて机の上に押し倒すなどした。
その後、原告は山口労働局雇用均等室に相談。個人情報の秘匿を条件に、対応を求めた。このことにより、会社総務部長宛に、山口労働局から、セクハラがあるようなので注意されたいという連絡があった。会社は、会議を開き、ポスター等により注意を与えるなどの措置を取った(※この会議にはセクハラの加害者等も参加)。
しかしその後も、加害者は原告が拒否したにもかかわらず暴力行為に及んだ。
このため、当事者を会社に紹介した推薦人(従業員)が、この女性を呼び、誰でも肉体関係を持つようなふしだらな女だという、ウワサが立っていると注意した(このことは当事者も認めているが、セクハラという認識はない)。
被害者は退社し、これに対し、夫からも訴えがあった。
会社は事実確認し、セクハラの加害者に対し、減給10%12ヶ月の懲戒処分とし、当該従業員にセクハラ的な注意を行った者に対しても減給10%1ヶ月・譴責の処分を行った。また、両者からは当事者に謝罪文が提出された。
被告はこれを不満とし、加害者・推薦人・会社に対し、良好な職場環境の配慮に対する注意義務違反等を求めた。
判決
一審:山口地裁
加害者は原告に対し、145万円(+利息)を支払え。
会社は原告に対し、55万円(+利息)を支払え。
控訴審:広島高裁(会社が上告。加害者等は訴外)
会社は、事態を深刻に受け止めて、懲戒処分を含めた処置を考えている旨、告示するなどの必要があったと、裁判所は判断し、一審どおりの支払を命じた。
「使用者は従業員に対し、良好な職場環境を整備すべき法的義務を負うと解するべきであって、セクシュアルハラスメントの防止に関しても、職場における禁止事項を明確にし、これを周知徹底するための啓発活動を行うなど、適切な措置を講じることが要請される。したがって、使用者がこれらの義務を怠った結果、従業員に対するセクシュアルハラスメントという事態を招いた場合、使用者は従業員に対する不法行為責任を免れない」とされた。
出典・参考:労働判例(No.881 2005.2.1)
福岡セクシュアルハラスメント(出版社)事件 福岡地裁 平成4.4.16
概要
被告:上司 会社
原告:雑誌編集等の業務に従事する女性社員
被告は、編集業務における原告の役割が増大し、業務の重要部分にかかわれないなどから、疎外感を持つようになり、会社の関係者や取引先に「結構遊んでいるらしい。お盛んらしい」「某らと怪しい仲にある」など原告の性的言動に関する噂を会社内外に流布した。
その後、被告は原告に転職を勧め、両者の関係は悪化した。
専務は、これに対する報告や訴えに対し、両者の話し合いによる解決を指示するにとどまり、「編集長と妥協できなければ退職してもらう」旨の申し入れをしたため、原告は退職するに至った。
請求額 367万円(慰謝料 300万円、弁護士費用 67万円)
判決
165万円認容(慰謝料 150万円、弁護士費用 15万円)
原告に対する性的中傷を行った被告の行為は、原告の人格を損ない、働きやすい職場環境の中で働く利害を害するものである。
会社は、被告上司の行為について使用者としての不法行為責任を負う。
また、会社は、従業員が働きやすい職場環境を調整する義務を怠った点においても不法行為性が認められる。
出典・参考:管理職のためのセクハラ講座 あなたの理解で大丈夫ですか?(ぎょうせい 金子雅臣 著)、セクシュアル・ハラスメント法律相談ガイドブック(第二東京弁護士会)
熊本セクハラ(教会・幼稚園)事件 神戸地裁尼崎支部 平成15.10.7
概要
教会の代表役員牧師(併設幼稚園の理事長・園長)による教会女性職員に対するセクハラ。
2年以上にわたり性的嫌がらせを反復継続していた。
原告の着任早々に、二人きりの車両でラブホテル街を通過した。夫婦の性生活や牧師として知った相談者の性に関する相談事を露骨に聞かせ、原告との性関係を望んでいるかのような趣旨の発言をした。口説くような言葉を言いながら肘で胸を触ったり、手を太ももに当てたりした。「僕は抱きたいと思った子しか雇わないんだから」と発言した。
このため、退職後の原告がPTSDに準ずるような重篤な精神的被害を被った。
判決
精神的苦痛の慰謝料として300万円、弁護士費用として50万円の支払が命じられた。
地位の悪用、行為の内容からも倫理的に非難の枠を超え、社会通念場相当とされる範囲を逸脱し、原告の性的自由、性的自己決定権、人格権を侵害する違法性が認められるとして、民法709条の不法行為責任を負うとされた。
出典・参考:労働判例(No.860)、パワーハラスメントなんでも相談(日本評論社 金子雅臣 著)
熊本セクハラ(バドミントン協会)事件 熊本地裁 平成9.6.25
概要
被告:県バドミントン協会副会長、市バドミントン協会会長である県議会議員
原告:元国体選手で実業団(T電気)のバドミントン部に所属する女性
原告は被告に食事を誘われ、2人で食事をしたが、飲酒した後被告の車に同乗したところ、ホテルに連れていかれ、「そういうつもりじゃありません。」と言ったが部屋に連れ込まれ、ベッドの上に押し倒され、性関係を強いられた。原告は被告に強姦された後、傷心のため恋人と別れ、部も会社も退社した。
被告による強姦とその後の性関係の強要により精神的苦痛を受けたとして、500万円の損害賠償を請求した。
判決
被告は、原告を食事に誘った上、原告の被告に対する信頼を裏切り、無理矢理ホテルに連れ込み、原告の意に反して性行為に及んだのであって、この被告の行為は、刑法上の強姦又はこれに準ずる行為というべきものである。また被告は、その後も原告との性関係を継続したのであり、この関係は、被告が意識するとしないとに関わらず、原告に対し、結婚したいなどと甘言を弄し、あるいは自らの社会的地位と影響力を背景とし、被告の意向に逆らえば選手生命を断たれるかもしれないと思わせる関係の中において、形成され維持されたものであるから、結局、原告は、被告から強姦又はこれに準じる行為によって辱められた上、その後も継続的に性関係を強要されたのであり、被告によって性的な自由を奪われたということができ、しかも、これが原因で恋人と別れた上、バドミントン部を辞め、会社も退職するに至ったのであり、多大の精神的苦痛を被ったといわなければならない。
控訴審で和解(平成11.5.24)、謝罪と300万円。
出典・参考:判例時報1638号
鹿児島セクハラ(社団法人)事件 鹿児島地裁 平成13.11.27
概要
被害者は、勤務していた社団法人医師会事務局の研修旅行の懇談会終了後の二次会で上司からセクハラを受けたと訴えた。
日頃それほど親しくもない女性職員である原告に対して、肩に手をまわすなどの身体的接触を行い、その唇に軽くではあるもののキスをするなどした。
判決
上司2人のうち1人のセクハラ行為を認定したが、他方の上司については制止しなかったのみをもってセクハラにあたるとはいえないとした。
社団法人に対しては、自由行動となってから起きた事件であるとして使用者責任は認めなかったが、セクハラ防止のための組織的措置がまったく取られておらず、職場環境維持・調整義務を怠っていたとして、30万円の損害賠償を命じた。
出典・参考:働く女性と労働法(東京都産業労働局 2004)、パワーハラスメントなんでも相談(日本評論社 金子雅臣 著)
琉球大助教授暴行、強姦未遂事件 那覇地裁 平成10.3.27
概要
男性指導教官(助教授)は、アジアからの外国人女子留学生が、プロポーズを断ったことから、約1年3ヶ月間キスや体を触ったりセーターを無理やり脱がせようとするなどの行為をし、教官室内において床に押し倒して性的関係を強要した。
判決
170万円の損害賠償の支払いが命じられた
出典・参考:職員からの相談実務のてびき(日本人事行政研究所 職員相談研究会監修)