セクハラの相談を受ける際の心構え

問題が起きる前に、日頃から相談体制を整備しておく

迅速かつ適切に対応するためには、問題が生じた場合の担当部署や対応の手順などをあらかじめ明確に決めておくと効果的です。

相談担当者の研修も必要です。

相談窓口は人事担当部局と併せて労働組合にも設置するなど、複数にするとよいでしょう。


ひたすら相手の話を聞く側に回る

相手のペースを尊重して、先を急がず、簡単に切り上げようとせずに聞いてあげることが大切です。

話を聞いてあげることが相手にとっては癒しになるということを念頭におき、ゆっくりと対応しましょう。


相手の立場で聞き、相手の希望の内容を真摯に受け止める

まず事実確認をすることになりますが、単に事実を聞くだけではなく、相談者がどのように思った・感じたかを重視します。

相手がその時にどのような受け止め方をしたのか、そして今はどのような気持ちなのかなどについても聞きましょう。


相談内容について判断するよりも、要望を理解し受け止める

早急に自分の意見を言ったり、アドバイスしたりすることはなるべく避け、相手の言いたいことを理解し、受け止めることに徹しましょう。


プライバシー保護に留意する

また、プライバシー保護に留意していることについて、相手側に説明し、安心させましょう。

相談や苦情申立によって不利益な取扱いを受けないことについても、説明します。

当事者同士を同席させて事実確認させると事態をいっそう悪化させることになりますから、注意が必要です。


会社の対応状況を確認する

外部の者が相談を受ける場合は、会社名を明かせるか確認しましょう。

相談者から、会社の名前は出せないという要望があるならば、当面は、本人が交渉することになり、相談を受けた側はその都度、当人にアドバイスすることになります。

会社に相談窓口があるかどうかを確認しましょう。

相談者が会社の相談窓口を知らなければ、会社がそれを設けていないか、設けていたとしても周知していないことがわかります。

相談窓口があれば、実質的に会社がどのように対応したかを聞いてください。

後日、会社側の言い分を確認する必要があるので、事前にこういうことは確認しておく必要があるといえます。


相手の要望に沿った解決方法を考え、解決の方向を話し合う

相手の要望は何なのか、相手は何をして欲しいのかなどをつかんで、解決の方法について考えます。相談者も整理がついていないことが多いので、整理のための助言をします。

  • 労働者から名前を出してもいいかどうかを、確認。
  • 会社で働き続けたいのかどうか。
  • 会社に何をしてもらいたいか。相手ないしは自分の配置を変えてほしいのか。
  • 相手に謝罪を求めているのかどうか。
  • 会社にどのような対応を求めているのか。

会社側の言い分もきちんと把握する

先入観を持たずに会社側の説明を聞きましょう。

ちなみに、職場仲間の宴会でのセクハラを扱った佐川急便事件では、一審が会社側の責任を認めたのに対し、二審では「職場の延長ではあるが、会社は宴会をしないように事前に注意しており、しかも二次会での事件だった」という理由から、会社側の責任まで問うことはできないとされました。

会社側が、これ以上の対応はできないと主張するならば、なぜ対応できないかという説明をしてもらいましょう。


解決の方向が決まったら、解決に向けて可能な限り努力する

普通の相談とは違って、相談を受けた者が、人事部に働きかけたり、上司に働きかけたり、あるいは関係セクションと話し合いをしたり、といった努力をしなければ、解決が難しいケースが多いです。

また、相談者の退職からかなりの時間が経過している場合で、本人が復職を希望している場合は、会社側に受け入れる余地があるかどうか確認します。

本人の希望が聞き入れられない場合でも、相談者がセクハラを伝えることを後任のためにやりたいというなら、会社側のセクハラ防止策が不足していなかったのではないかという点に着目して、事情聴取します。


自分や組織の対応の分担を決め本人の意向を踏まえ判断する

  • 会社のセクハラ防止システムの中で相談
  • 直属の上司も交えて相談
  • 弁護士などの代理人による対応
  • 当事者間での話し合いを基本にあっせんによる対応
  • 行政などの第三者を入れての相談

やってはいけないこと、言ってはいけないこと

カウンセリングの基本として最も重要なのは、相手の話をきくことです。

あまり性急に自分の意見を言ったり、たとえ本人のためとは思っても、アドバイスを急ぐことは好ましくありません。

また、被害者の言動を批判したり、必要以上に励ましたりすることも適切ではありません。

批判はもちろん、安易な励ましは、被害者側に「この人は私のことを何も理解していない」と感じさせ、相談することでかえって孤立感を強めさせることにもなりかねません。

その結果、相談さえ否定し、問題の解決をますます困難にしてしまう場合もあります。

相手のペースを尊重して、急がず、慌てず、相手をせかしたり、詰問したりすることも避けましょう。

また、相手の話したくないことは無理に聞き出したりせず、相手が話しやすい状況を作り出すことに傾注しましょう。

「話したくなければ、話さなくてもいいんだよ」という語りかけや、話されたことについて「それはこういうことですね」という確認、そして場合によっては「ほんとうに辛い思いをしたんですねえ」という共感をしめすことも大切です。

相談者に絶対に言ってはいけない言葉

(1) あなたの行動にも問題(落ち度)があった。
(2) あなたにも隙があった。
(3) それはあなたの考え過ぎではないか。
(4) そんなことは大したことではないから、気にする方がおかしい。
(5) (加害者は)決して悪い人ではないから、問題にしない方がいい。
(6) そんなことでくよくよせずに、やられたらやり返せばいい。
(7) 個人的な問題だから、相手と二人でじっくりと話し合えばいい。
(8) そんなことは無視すればいい。
(9) 気にしても仕方ない。忘れて仕事を頑張ればいい。
(10) 「なぜ、そんな危険な状態になるまで・・・」
(11) 「どうして『嫌だ』と拒否しなかったのか」

被害者は、考えに考え抜いて、自分が被った被害を明らかにしているのですが、これを周囲がまともに取り上げず、むしろ訴える側に問題があったかのように主張することがあります。

こうしたことで、被害者が二重の屈辱を味わわされることは、俗に「セカンド・レイプ」と称して、問題とされています。

緊急措置が必要とされる場合

  • 被害が極めて深刻な場合
  • 相談者が非常に感情的になっていたり、精神的に不安定となっている場合
  • 加害行為が継続していたり、加害者から相談者に対して圧力的な言動が予想される場合
  • 当事者間の対立が深刻で、職場環境が悪化し、他の同僚などにも影響を与えている場合
  • 相談者が何らかの措置を求めている場合

緊急措置の例

  • 仕事のパートナーを変える、勤務場所を変えるなど、当事者間の職場を引き離す。
  • 問題解決処理が図られるまで、休みをとれるようにする。
  • 自宅で仕事を行えるようにする。
  • 加害者を自宅待機とする。

マスコミからの被害者の保護

セクハラの被害をマスコミに公表するか否かは議論のあるところでしょうが、被害を公表した場合、以下のように、事態をさらに悪化させる可能性があります。

  1. 事件を公表せずに交渉していたならば事実を認めたはずの加害者が、報道されたことによって絶対否認に転じる。
  2. 被害者がマスコミから、おもしろおかしく報じられてしまって、さらに傷つく。

そのため、マスコミへの対応は注意が必要です。

マスコミによって被害者本人の名誉が毀損されたり、プライバシーが侵害された場合は、ただちに通告書を内容証明で送付します。

当該マスコミが放送事業者の場合は、放送法第9条1項所定の訂正報道を求めるなど、原則として毅然とした対応をとるべきだといえます。

放送法第9条1項

放送事業者が真実でない事項の放送をしたという理由によって、その放送により権利の侵害を受けた本人又はその直接関係者から、放送のあった日から3ヶ月以内に請求があったときは、放送事業者は、遅滞なくその放送をした事項が真実でないかどうかを調査して、その真実でないことが判明したときは、判明した日から2日以内に、その放送をした放送設備と同等の放送設備により、相当の方法で、訂正又は取消しの放送をしなければならない。


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