就業規則や労働協約によらない賃下げ等
会社側の一方的通告による場合
労働者との個別的な同意がなければ変更できない
労働契約において賃金は最も重要な契約要素であり、これを従業員の同意を得ることなく、一方的に不利益に変更することはできません。
業績悪化等を理由とする賃金の切下げは、一般的には就業規則の変更によりなされることが多いと思われますが、中小零細企業では使用者が一方的に賃金を切下げたり、賃下げが気に入らなければ辞めろと迫るような無茶なことがしばしば行われています。
こうした会社には就業規則がないことが多く、たとえ就業規則があったとしても周知していないことが多いからです。
労働者を全く拘束しませんが、会社側が賃下げ等を強行する場合には、内容証明などで無効を確認する通知を送付される場合があります。
なお、賃下げの場合は、不払いとして労働基準監督署に申告される可能性もあります。
非違行為に対してあらかじめ就業規則によって懲戒として定める減給において使用者の恣意を許さないという労働基準法91条の趣旨からしても、使用者が自由に賃金を長期にわたって減額することは、非常に難しいでしょう。
更正会社三井埠頭事件 東京高裁 平成12.12.27
就業規則の根拠なしに、会社が経営難を理由に管理職の賃金を20%減額した事案。
会社が減額通知を出したのは認められるものの、労働者らが自由な意思に基づいてこれを承諾したとは認められないと判断された。
エイパック事件 東京地裁 平成11.1.19
会社から提案された変更に即座に異議を述べず、振り込まれた金額にも異議を述べなかったことから、承諾を認めたと判断された。
駸々堂事件 大阪高裁 平成10.7.22
経営悪化による人件費削減のため、会社が「定時社員」に対して、時給引き下げなどの労働条件の変更内容を記載していない白紙の新雇用契約書の提出を要求し、社員がそれを提出することで新労働条件への変更に合意したことは、応じなければ働き続けられないと誤信した動機の錯誤によるもので、無効である。