減給処分

損害賠償と賃金の相殺はできない

不法行為による損害賠償請求権と賃金との相殺は許されません。(労働基準法24条

また、減給処分の場合、その減給は労働基準法91条で、以下のように制限されています。

  1. 1回の額が平均賃金の1日分の半額まで
  2. なおかつ、

  3. 総額が一賃金支払い期間における賃金総額の1割まで

「1回」の事案にもかかわらず平均賃金の半日分の減給を加算しながら月の賃金の10分の1まで積み上げていくことはできません。(昭和23.9.20 基収1789号)

その一方、遅刻3回で1日分の欠勤としてカットすることは適法とされます(ただし、1給料支払期の支払総額の1割を超える減額はできません)。

1日に2回の事案があった場合も、半日分ずつ2回減給することはできますが、当然、総額は1日分を超えることはできません。

また、懲戒処分としての相当性がなければならないのはいうまでもないことです。

なお、この10分の1を超えた部分を時期に延ばすことは認められています。

会社側として賃金総額の1割以上の減給が相当であるとした場合は、減給を数ヶ月に分けて実施することになります。

よくマスコミの報道等に「減給10%、3ヶ月」などの記述があります。

しかし、1回の事由に基づく減給は給与の半日分ですから、例えば月給20万円、日額1万円だとすると、1回の減給の最高額は5000円となります。これ以上の減給はできません。

したがって、上記のような処置は違法となる可能性が高くなります。

どうしても減給額を増やしたいのであれば、複数の懲戒理由についてそれぞれに減給額を計算し、それを合算したものを、毎月1割以内ずつ差し引いていくことになります。

あるいは、本人から返上させたような形式をとったり、出勤停止などさらに重い処分とし、その分の賃金をカットする等の手法を用いざるを得ません。

実務的には、始末書と減額の申出書を自筆で書かせておく方法などが必要となります。


賞与と減給

賞与からの減給について、労働省は次のような通達を出しています。

制裁として賞与から減額することが明らかな場合は、賞与も賃金であり、法第91条の減給の制裁に該当する。

したがって、賞与から減額する場合も、1回の事由について平均賃金の2分の1以上、また、総額については、一賃金支払期における賃金、すなわち賞与額の10分の1を超えてはならない。

(昭和63.3.14 基発第150号)

賞与には「考課」が加味されます。

考課結果による減額があったとしても、これを制裁規定による「減給」というには無理がありますので、この減額は制約を受けないと考えられます。

ただし、年俸制で、賞与額が「年俸額の16分の4」などと予め決められている場合は、考課を理由とする賞与の減額であっても制裁と解される可能性があります。


遅刻と減給

ノーワーク・ノーペイの原則に則って、遅刻した分の給料をカットすることは問題ありません。

しかし、それとは別に減給処分を行う場合には、労働基準法91条の制限(1回の減給額が平均賃金の1日分の半額を超えない、1賃金支払期に発生した減給の合計が給料総額の10分の1を超えない)は適用されます。


降格と減給

降格処分により課長が課長補佐になるような例があります。

もし、その者が、身分上は課長補佐となったにもかかわらず、仕事内容は課長のままだったとすると、労基法91条の適用を受けることとなります。(昭和37.9.6 基発917号)

したがって、減給額は制限されることになるのです。

使用者が交通事故を惹起した自動車運転手の制裁として助手に格下げし、したがって賃金も助手のそれに低下せしめるとしても、交通事故を惹起したことが運転手として不適格であるから助手のそれに格下げするというものであるならば、賃金の低下は、その労働者の職務の変更に伴う当然の結果であるから法第91条の制裁規定の制限に抵触するものではない。

(昭和26.3.14 基収518号)

職務毎に異なった基準の賃金が支給されることになっている場合、職務替によって賃金の支給額が減少しても法第91条の減給制裁規定には抵触しない。

(昭和26.3.31 基収928号)

逆に、事実、業務内容が変更されるなら、法を超える給与減額も認められることになります。

この降給の場合に、調整的に遡って減給することがあり得るところです(例えば4月に遡って降格した者に対する4月分の役職手当を5月分の給料から引くような場合)。

この場合には、その控除が過払いのあった時期と合理的に接着した時期に行われ、事前に労働者へ予告していれば、有効とされると思われます。(福島県教組事件 最高裁 昭和44.12.18)

同時に、労働基準法91条の適用とのかねあいから見れば、賃金の10分の1を超えない範囲で設定することが望ましいと言えます。

事前に予告できなかった場合は、降給幅を含めて、1ヶ月分の賃金低下を10分の1に抑えるべきでしょう。


昇給停止

賃金を上げないという昇給停止処分については、減給の制裁には該当せず労基法違反とはなりません。

就業規則中に懲戒処分を受けた場合は昇給せしめないという欠格条項を定めても、法第91条に該当しない。

(昭和26.3.31 基収938号)


社内罰金

労働者が業務命令違反や過失行為によって会社に損害を与えた場合に、現実に生じた損害について賠償を請求すること自体は禁止されていません。(昭和22.9.12 基発17号)

しかし、あらかじめ交通事故の物損等について「物損1回1万円」「人身事故1回10万円」というように金額を定めて過怠金や罰金をとるという制度を定めることは、労働基準法16条に定める「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」という規定に抵触し、違法となります。

非喫煙者手当、「吸ったら返金」はダメ・労基署

社員がたばこを吸わないと宣言すれば「非喫煙者手当」を支給している化粧品メーカー、ヒノキ新薬(東京都千代田区)が、宣言を守らずに喫煙した社員に手当を返還させる社内規定を設けているのは労働基準法違反の疑いがあるとして、東京労働局の中央労働基準監督署は11日までに、社内規定を改めるよう是正勧告した。

同社は「長年社員の健康維持のため禁煙対策を進めているのに、今回の勧告は『角を矯めて牛を殺す』もので納得できない」としている。

同社は化粧品メーカーとして肌の健康に悪影響を与える喫煙を控えるため社員の禁煙運動を展開し、1990年からは非喫煙宣言すれば「健康維持管理手当」を支給。月1万3000円を個人名義の積立金にして健康増進目的で使う際のみに引き出せる仕組みで、現在は約200人の全社員が非喫煙宣言をしている。

ただ、社員が宣言を守らずに喫煙した場合は退職か解雇となり、積立金を全額返還するという社内規定があり、年1回の健康診断で非喫煙状況をチェックしている。

(NIKKEI-NET 2005.5.11)


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