パワハラ関連の判例

ヨドバシカメラほか事件 東京地裁 平成17.10.4

概要

派遣会社→通信事業者→量販店へと派遣され、携帯電話機の販売業務に平成14年10月下旬から従事した労働者に対するいじめ問題。

第一暴行(平成14.11.29):慰謝料100万円を請求
顧客に対する笑顔が足りないという販売店のクレームで、会話練習を受けさせられることになり、派遣元の社員から、頭部を、販売促進用のポスターを丸めたもので30回殴打され、さらにクリップボードにより20回殴打された。

第二暴行(平成14.12.7):慰謝料100万円を請求
許されていない取り置き(購入予約)を受け付け、在庫切れ問題を起こした。販売売り場で販売店社員により、大腿を3回蹴られた。

第三暴行(平成15.3.13):慰謝料201万500円を請求
出社時間の偽装(遅刻したにもかかわらず出社したと携帯で連絡)が発覚し、派遣会社の社長が見守る中、30回に渡り、頬を殴打され、蹴られ、頭部を殴打された。午前2時30分ころまで事務所に留め置かれ、販売店のトイレを掃除し、掃除結果を確認する意味で便器を舌でなめろという発言があった。勤務継続の意欲を失い、翌日から出勤せず。

第四暴行:(平成15.3.14)慰謝料300万5770円、逸失利益等2584万1778円を請求
出社しなかったところ、派遣元の社員が自宅に押しかけ、母親の目前で、30回に渡り、手拳や肘で殴打したり、足で蹴ったりした。この暴行により、頭部・顔面打撲、左眼窩部皮下血腫、口腔内挫創、聴力障害、胸腹部打撲、左第8・9肋骨骨折、左耳介部血腫兼擦過傷。

その後、店で虚偽の連絡をしたことについて、強制的に謝罪させられた。

原告は、このことに対し、警察に傷害罪で告訴。当事者は傷害罪による略式命令により罰金30万円となった。

※本案件は、二重派遣問題としての側面ももっている。

判決

第一暴行:慰謝料10万円が認容
教育目的があったとしても、違法性がないとは認められない。ただし、この教育行為に販売店側の関与は認められない。

第二暴行:慰謝料10万円が認容
店側は、加害者の使用者としての責任を負う。

第三暴行:慰謝料30万円+プール講習キャンセル料=31万500円が認容
ただし、派遣元・販売店側の関与は認められない。派遣元社長が制止しなかったことは、違法な権利侵害行為に当たる。

第四暴行:労働者に対し慰謝料100万円+治療費=100万5770円が認容
母親に対し仕事ができなくなったことに対する逸失利益403万1438円が認容
ただし、派遣元・販売店側の関与は認められない。

事件に関与した各個人とその使用者については、損害賠償責任が認められた。

派遣先会社の使用者責任・安全配慮義務違反については認められなかった。二重派遣であり、指揮命令を行っていたが、いじめや暴行そのものにまで責任は及ばないとされた。

いじめを受けた労働者の母親がショックで仕事をできなくなったことについて、逸失利益等が認められた。

ただし、申告による所得額の平均は年額220万余円であり、予定されていた仕事分までも認めることはできない。

仕事ができないことによる精神的損害、暴行事件のあった家の転居費用、治療のためのタクシー代、飼い犬の預託料、刑事責任を問うための費用(交通費7万余円、弁護士費用22万余円、カメラマン謝礼10万余円)は認められない。

また、母親には、もともと軽度のうつ病があったことから、認定損害額575万9197円の3割を減額した403万1438円を損害額とする。

※厚生労働省職業安定局は、実態として二重派遣・無許可派遣(職安法44条、派遣業法5条、24条違反)であったとして、関係各社に文書指導(職安法48条2項)を行っている。

出典・参考:労働判例(2006.2.15 No.904)

U福祉会事件 名古屋地裁 平成17.4.27

概要

福祉施設の看護師。職員らから、50人の入所者等の医療データを1週間で整理するように言われたが、無理だと口論になった。

その後、原告は、職場の組合を脱退し、地域のユニオンに加入。

うつ病罹患のため約1か月休職した。

職員会議で、職場の綱領を否定するという批判を浴びた。

「残念なことに綱領は認められないという職員がでました。○○看護婦です。」「経営を外から崩す。」「個人の思いだけでやったり、やらなかったりする看護業務ならやっていただきたくない」「隣の療護施設に自分の子供が入所しているのに・・・いつも自分が中心・・・親の立場、職員の立場、看護婦の立場を使い分け、逆に利用して混乱させてきた」「仲間に対する援助の姿勢に疑問を感じる」「自分中心の○○に仲間のためという言い方はしてほしくない」「スパイのような感じがする」などの発言があった。

不眠、情緒不安定等の症状(自分に向かってトラックが突進してきたり、狭いビルの谷間を後ろからせかされて飛び降りるなどの悪夢を見た。職場に怖ろしくて近寄れなくなった)を訴え、主治医から「職員会議のつるし上げによる不安定症状」という所見を得た。

また、労基署に労災保険に基づく療養補償を求め、これについては認められた。

組織ぐるみのいじめだとして、法人の使用者責任と、施設長・副所長、労組役員の連帯責任が問われた。

慰謝料として1000万円を請求。

判決

被告らの行為は、労組を脱退しユニオンに加入した原告を非難・糾弾したばかりか、職員会議の参加者に、同様の発言をするよう、誘導・扇動したものである。

また、法人も、被告らの不法行為について、使用者責任を負う。

原告は、ストレス耐性の弱さ(会議以前にうつ病に罹患している)はあるが、この会議により、精神的疾患(うつ病とは別)に罹患した。

原告の現在の症状に照らせば、職場への復帰は困難。他職場への復職も直ちに可能とは断言できない。

慰謝料500万円。休業補償給付額を除いた賃金・手当の未払額、827万円の請求が認められた。

出典・参考:労働判例(2005.9.15 No.895)

トナミ運輸事件 富山地裁 平成17.2.23

概要

原告は昭和45年に入社し、現在も在籍。昭和48年、大手運送会社により最高運賃を一律とし顧客を争奪することを禁止するヤミカルテルが結ばれた。これは独占禁止法に違反する可能性が高いものであった。このことを原告は、読売新聞に告発。さらに、公正取引委員会、関連の労働組合、運輸省、日本消費者連盟、国会議員に告発した。

日本消費者連盟の調査により、この訴えの事実が判明し、運輸省からの厳重警告処分が下された。

原告は、その後研修所へ異動し、6畳程度の個室で1人で勤務し、業務内容も雑用しか与えられなかった。

上司から毎日退職勧奨が行われ、兄も退職を説得するように迫られたり、家に暴力団風の者が訪れ、退職願を書くことを要求することもあった。

こうしたことから、慰謝料等5,400万円の支払と、謝罪文を求めて提訴した。

判決

内部告発には公益性があり、発言力が乏しかった原告が外部の報道機関に告発したことは無理からぬことだった。

会社は人事に裁量権を持っているが、それは合理的な目的の範囲内、法令や公序良俗に反しない限度で行使されるべきものである。このことから雇用契約に付随する義務として、裁量を逸脱した人事権が行使される場合は、会社は債務不履行の責任を負う。

原告に雑務しか行わせず、昇格を停止して賃金格差を発生させたことは、人事権の裁量の範囲を逸脱する違法なものであり、債務不履行による損害賠償責任がある。

以上により、在籍している同期同学歴の者の中で最も昇格の遅い従業員の賃金との差額1,356万7,182円(+延滞損害金)の支払いが命じられた。

出典・参考:労働判例(2005.10.1 No.896)

内部告発で不利な人事 トナミ運輸と社員が控訴審で和解

運輸業界の不正を内部告発したため約30年間昇格を見送られたとして、「トナミ運輸」(富山県高岡市)の社員串岡弘昭さん(59)=同市=が、同社に総額約5400万円の損害賠償と謝罪を求めた訴訟の控訴審が16日、名古屋高裁金沢支部(長門栄吉裁判長)で和解した。

原告側によると、一審の富山地裁が命じた賠償金など約1356万円に上乗せした和解金が同社から支払われるほか、和解条項に同社が「本件を教訓に適正で公正な業務運営を心がけ、信頼回復に努める」とする内容が盛り込まれたという。

串岡さんは74年に同社を含む大手運輸業者が結んだヤミカルテルを公正取引委員会などに告発。

翌75年に同社の教育研修所に異動後、昇格もなかったという。

05年2月の富山地裁判決で同社への謝罪要求が認められなかったことなどを不服として控訴していた。

(asahi.com 2006.2.16)

三井住友海上火災保険(エリア総合職考課)事件 東京地裁 平成16.9.29

概要

業績の考課を理由に評定を落とされた従業員が給与減額分の支払いを求めた。

上司はメールで「意欲がない、やる気がないなら、会社を辞めるべき」「あなたの給料で業務職が何人雇えると思えますか。あなたの仕事なら業務職でも数倍の業績を挙げますよ」などの指摘を行っていた。

また、会議に資料を持参しなかったことから、その場で席上から退席させることもあった。原告側はこれらの行為をパワーハラスメントだと主張した。

判決

業績実績が客観的な数値から明らかになったことから、裁判所は、原告の申立を退けた。

出典・参考:労働判例(2005.2.15 No.882)

誠昇会北本共済病院事件 さいたま地裁 平成16.9.24

概要

准看護師(21歳 男性 看護学生)が、先輩の准看護師(27歳 男性)のいじめに遭い、自殺(平成14.1.24)。民法709条に基づく損害賠償(加害者及び病院に各1,800万円)を請求。

いじめの行為は、3年近くにわたり、

(1)勤務時間就業後も遊びにつき合わせ、自分の仕事が終了するまで帰宅を許さず、病院が禁止していた残業や休日勤務を強制した(学校の試験前に朝まで飲み会につき合わせたりしている)。

(2)買い物や、肩もみ、家の掃除、車の洗車、長男の世話などの家事に使用。風俗店の送迎、パチンコ店の順番待ち、馬券購入などの私用に使った。ウーロン茶を1缶3,000円で買い取らせた。看護学校の女性を紹介するよう命じた。

(3)恋人とデート中であることを知りつつ、用事もないのに病院に呼び出した。

(4)職員旅行の際、飲食代約9万円を負担させたほか、本人に好意を持っている事務職の女性と2人きりにさせ、性的行為をさせ、それを撮影しようと企てた。本人はこの際急性アルコール中毒となり入院(両親は、先輩の企てを避けようとした行為であると主張)。

(5)仕事中に、何かあると「死ねよ」と発言したり、「殺す」とメールしたりした。

(6)カラオケ店で、コロッケを口で受け止めるよう投げつけられた。

などとなっている。

被害者は、こうしたいじめのつらさを、友人に訴えるようになっていた。恋人に対しては「もし、俺が死んだら、されていたことを全部話してくれよな。」と言っていた。

判決

いじめの行為者に対しては1,000万円の慰謝料が命じられた。

いじめを原因とする自殺の可能性は予見できたとされた。

病院側に500万円の慰謝料請求が命じられた。

病院は、自殺の予見可能性は認めがたいが、職場の上司及び同僚からのいじめ行為を防止して、従業員の生命及び身体を危険から保護する安全配慮義務を負担しており、債務不履行(民法415条)がある、とされた。

出典・参考:労働判例(2005.3.1 No.883)

日本郵便逓送事件 京都地裁 平成16.7.15

概要

郵便集配の1時間半の遅延事故を起こした従業員に下車命令をし、業務を与えられないまま、会議室の机に座り、一人きりで反省すること(進退伺の提出を求めたほかは何の指示も与えられなかった)を求めた。

従業員は1か月経過後から神経内科に通院するようになり、不安神経症・不眠症との診断を受けた。

下車後3か月した時点で、会社は別部署での勤務を命じたが、当該従業員はこれを拒否し、会議室で過ごすことが続いた。

会社は反省期間の長期化の理由として、従業員が所定の始末書を乱雑に作成したうえ、話合いの最中に携帯電話の通話のため退出するなど真摯な反省が伺われなかったうえ、黒板に「不当労働行為をただちに会社はやめろ」と書いたことなどを挙げた。

従業員は、会議室で仕事を与えられなかった約3か月間は人格権の侵害だとして損害賠償約370万円を、また、遅延事故を理由とする減給処分(7360円)の無効を訴えた。

判決

会議室での期間のうち、3か月間は人格侵害であるとされ、会社に約103万円の損害賠償が命じられた(諸手当減額分・休業損害・治療費、慰謝料80万円、弁護士費用10万円の合計)。

減給処分については相当であるとした。

出典・参考:労政時報(No.3640 2004.10.22)

JR西日本吹田工場事件 大阪高裁 平成15.3.27

概要

安全確保のため、最高気温が摂氏34度から37度の炎天下で、日よけのない約1m四方の白線枠内に立って、終日踏切横断者の指先確認状況を監視、注意するという作業を命じられた。

判決

著しく過酷なもので、労働者の健康に配慮を欠いたものであったと言わざるを得ない。

その内容において使用者の裁量権を逸脱する違法なものであったと言わざるを得ない。

出典・参考:パワーハラスメントなんでも相談(日本評論社 金子雅臣 著)

川崎市(水道局)事件 東京高裁 平成15.3.25

概要

工業用水の工事に協力してくれなかった原告の息子が、職員として工業用水課に配属されてきた。

当該課に配属されてきた職員に対し、被告らは、汗をかいて顔が赤くなっている様子から「酒を飲んでいるな。」などと嫌みを言ったり、スポーツ芸能新聞に掲載されている女性のヌード写真を押し付けてからかったり、オウム真理教の教祖であった麻原彰晃に似ているとして「麻原がやってきた。ハルマゲドンだ。」などと嘲笑した(被告の一人は、スポーツ新聞に女性のヌード写真が掲載されている紙面を話題に話をしていたとき、会話に入ってくることなく黙っている当該職員に対し、「もっとスケベな話にものってこい。」「センズリ比べをしろ。」などと猥雑なことを言ってからかい、そして、当該職員が女性経験がないことを告げると、からかいの度合いはますます強まり、「風俗店のことについて教えてやれ。」「経験のために連れて行ってやってくれよ。」などと言ったことがあった。

職員が休みがちになってからは、「とんでもないのが来た。最初に断れば良かった。」、「顔が赤くなってきた。そろそろ泣き出すぞ。」、「そろそろ課長にやめさせて頂いてありがとうございますと来るぞ。」などと、当該職員が、工業用水課には必要とされていない厄介者であるかのような発言をした。

さらに、平成7年11月中旬ころの水道局旅行会の際、被告の一人がナイフを振り回しながら「今日こそは刺してやる。」などと言うなどのいじめ、嫌がらせを行ってきた。

いじめの訴えを受けた組合は、実態調査を行うことになった。

これを知った被告ら3名は「被害妄想で済むんだからみんな頼むぞ。」「工水ははじっこだから分からないよ」「まさか組合の方からやってくるとは思わなかった。」などと、工業用水課の他の職員に対し、いじめ、嫌がらせは当人の被害妄想であり、当人を除く職員全員でいじめの事実を見聞したことはないと言えば、いじめはなかったことになる旨働き掛けるなどして、口裏合わせをするように働き掛けた。

かくして当該職員は自殺未遂を繰り返した後、精神的に追い詰められて自殺に至った。

自殺未遂をするようになってから、精神分裂病あるいは境界性人格障害と診断されたものであるとの診断を受けた。

遺書には、「私は、工業用水課でのいじめ、b課長、c係長、d主査に対する「うらみ」の気持が忘れられません。また水道局の組しき機構の見直し、人事異動の不公平にがまんができません。そして組合(本部)もくさいものにはフタのような考え方で納得できません。最後にお世話になった方々にごめいわくをかけました。すいませんでした。」と書かれていた。

判決

横浜地裁川崎支部(平成14.6.27)

原告ら(両親)の損害額合計は、各1172万9708円(弁護士費用110万円を含む)。

(1) 逸失利益の計算

ア 給与分

当該職員は、昭和42年3月25日生まれの男子であり、60歳の定年までの約30年間稼働することができ、その期間中、少なくとも1級A11号から1年ごとに順次上の号給に昇給し、43歳で2級20号に、54歳で3級16号の給与の支給を受けることができると見込まれること、

死亡当時の給料は1か月23万円であり、30歳以降の収入は、月給に調整手当(月給の100分の10)を加えたものの12か月分及び期末手当、勤勉手当を加えた合計として、月給を1.1倍した額に別表記載の係数を乗じた額になることが認められる。

そこで、支給を受けるはずであった給与をライプニッツ方式により年5分の割合による中間利息を控除して死亡時点の現価を求めると、8937万1878円となるところ、生活費として、50パーセントを控除すると、その額は4468万5939円となる。

イ 退職手当分

退職手当については、既に支給された退職手当の金額と定年まで勤務すれば得られたであろう退職手当の金額との差額が逸失利益となるところ、定年退職時における月給を41万3500円として支給率62.7を乗じると、退職手当の総額は2592万6450円となる。

そこで、その金額からライプニッツ方式により年5分の割合による中間利息を控除すると、死亡時点の現価は599万6787円(2592万6450×0.2313)となるが、原告らは、既に退職手当として381万8000円の支給を受けたので、これを控除すると、その額は217万8787円となる。

(2) 相続

原告らは、当該職員の父母であるから、その法定相続分に従い、被告川崎市に対する損害賠償請求権を2分の1ずつ相続した。

(3) 原告ら固有の慰謝料

原告らは、被告ら3名のいじめ、被告川崎市の安全配慮義務違反により唯一の子を失ったものであり、その無念さは想像に余りあり、その他諸般の事情を考慮すると、原告らの慰謝料は、それぞれ1200万円とするのが相当である。

(4) 過失相殺の規定の類推適用

当該職員は、いじめにより心因反応を生じ、自殺に至ったものであるが、いじめがあったと認められるのは平成7年11月ころまでであり、・・・これらの事情を考慮すると、本人の資質ないし心因的要因も加わって自殺への契機となったものと認められ、損害の負担につき公平の理念に照らし、原告らの上記損害額の7割を減額するのが相当である。

(5) 小計 各1062万9708円

(6) 弁護士費用

本件事案の性質、審理経過等を考慮すると、本件事件と相当因果関係のある原告らの弁護士費用は、それぞれ110万円とするのが相当である。

(7) 損害額合計

以上によれば、原告らの損害額合計は各1172万9708円となる。

※職場側の安全配慮義務違反

課の責任者は、被告のいじめを制止するとともに、被害者に自ら謝罪し、被告らにも謝罪させるなどしてその精神的負担を和らげるなどの適切な処置をとり、また、職員課に報告して指導を受けるべきであったにもかかわらず、被告らのいじめを制止しないばかりか、これに同調していたものであり、A課長から調査を命じられても、いじめの事実がなかった旨報告し、これを拒否する態度をとりつつけていた。

また、被害者の訴えを聞いたA課長も、直ちに、いじめの事実の有無を積極的に調査し、速やかに善後策(防止策、加害者等関係者に対する適切な措置、被害者の配転など)を講じるべきであったのに、これを怠り、いじめを防止するための職場環境の調査をしないまま、被害者の職場復帰のみを図った。その結果、不安感の大きかった被害者は復帰できないまま、症状が重くなり、自殺に至った。

したがって、課の責任者及び相談を受けたA課長についても、被害者に対する安産配慮義務を怠っていた、とされた。

東京高裁(平成15.3.25)

控訴を棄却。一審判決を一部変更。

精神分裂症とはいえ、業務の強い心理的負荷により精神障害を発病する場合があるものとされ、この発症原因を「いじめ」だとした。

過失相殺の必要は認めた。

精神分裂病等の素因を有する者にとっては、自殺という重大な結果を生じる場合があり、この場合に、加害者側が被害者側に生じた損害の全額を賠償すべきものとするのは公平を失すると考えられる。

出典・参考:パワーハラスメントなんでも相談(日本評論社 金子雅臣 著)

国際信販事件 東京地裁 平成14.7.9

概要

嫌がらせによる懲戒解雇事件。会社側がいじめを放置していた。

判決

これらの一連の行為は、その経緯に照らすと、原告を被告会社の中で孤立化させ、退職させるための嫌がらせといわざるを得ず、Hが懲戒解雇された以降は、その傾向が顕著に現れている。

そして、程度の差はあれ、このような嫌がらせが原告の入社後間もないころから本件解雇の直前まで長期間にわたり繰り返し行われたこと、被告会社の代表者であった被告丙山と被告乙原は当初からこのような事実を知りながら特段の防止措置をとらなかったこと、一部の行為は業務命令として行われたことからすると、これらの行為は、いずれも被告会社の代表者である被告丙山及び被告乙原の指示ないしその了解に基づいて行われたものというべきであるから、被告丙山と被告乙原は、それぞれ民法709条の不法行為責任を負う。

そして、これらの不法行為は、被告丙山と被告乙原の代表者としての職務執行と密接な関連があるから、被告会社は、商法261条3項、78条2項、民法44条1項に基づき損害賠償責任を負う。

出典・参考:パワーハラスメントなんでも相談(日本評論社 金子雅臣 著)

全日本空輸事件
最高裁 平成13.9.25 大阪高裁 平成13.3.1 大阪地裁 平成.11.10.18

概要

労災による休業後復帰したスチュワーデスに、復帰の前後約4か月にわたり、上司らが30数回もの面談を行い(なかには8時間に及ぶものもあった。)、復帰者訓練(定期緊急総合訓練)に関して「こんな点(数)でよくあんな顔して帰る」、「寄生虫」などと述べたり、大声を出したり、机をたたいたり、原告の家族に退職の説得をするよう働きかけるなどして退職強要をした後、労働能力の低下を理由に解雇した。

判決

大阪地裁

右のような退職強要行為は、社会通念上許容しうる範囲を超えた違法な退職強要であるとして、被告会社に55万円(慰謝料50万円、弁護士費用5万円)の支払いを命じた(退職強要の実行行為者は被告にされていない。)。

なお、解雇に関しては、直ちに業務に復帰できない場合でも、労働者に基本的な労働能力の低下がなく、復帰不能な事情が休業または休職に伴う一時的なものであり、短時間に従前の業務に復帰可能な状態になり得るにもかかわらず、短期間の復帰準備時間を提供したり、教育的措置を取るなどの措置を取らずに行われた本件解雇は無効であると判断している。

大阪高裁

面談の長さ、上司の言動から、社会通念上許容しうる範囲を超え、違法な退職強要に当たるとして、慰謝料80万円の支払いを命じた。

最高裁

高裁判決を維持した。また、退職強要を拒否した客室乗務員に対する、労働能力低下を理由とする解雇も解雇権濫用に当たり無効と判断した。

出典・参考:「職場のいじめ」(東京都労働経済局 平成.13.3)、労働法学研究会報(2003年 No.2317)

エース損害保険事件 東京地裁 平成.13.8.10

概要

人員削減や営業所の統廃合等を内容とする中期経営計画の一環としての希望退職者募集を行ったが、これに応じなかった従業員を、地方事務所に配転のうえ、自主退職を勧告し、さらに応じない者を、就業規則の「労働能力が著しく低く事務能率上支障があるとみとめられたとき」に該当するとして、解雇した。

判決

本件解雇は、解雇権濫用に当たり無効。

長期雇用システム下で長期にわたり勤務してきた正規従業員を勤務成績・勤務態度の不良を理由として解雇する場合は、それが単なる成績不良ではなく、企業経営や運営に現に支障・損害を生じ又は重大な損害を生じる恐れがあり、企業から排除しなければならない程度に至っていることを要し、かつ、その他是正のため注意し反省を促したにもかかわらず、改善されないなど、今後の改善の見込みもないこと、使用者の不当な人事により労働者の反発を招いたなどの労働者に宥恕すべき事情がないこと、配転や降格ができない企業事情があることなども考慮して濫用の有無を判断すべきである。

出典・参考:労働法学研究会報(2003年 No.2317)

NTT東日本(東京情報案内)事件 東京地裁 平成12.11.14

概要

業務改善を具申したことにより担当業務から外され、孤立されたことを不法行為であるとして損害賠償請求をした。

判決

パソコン業務から外したのはパソコンをシステムダウンさせたり、上司に無断で業務内容に関するアンケートを実施し、上司の作業命令の指示にも従わなかったりした。また、勤務時間中に上司に無断で離席し、喫煙したり、私用の電話をしたりしたためであるという会社の主張が認められ、違法な業務命令ではないとして、請求が棄却された。

出典・参考:労働判例(2001.6.15 No.802)

フジシール(配転・降格)事件 大阪地裁 平成.12.8.28

概要

技術開発に従事していた管理職(54歳)が勧奨退職を拒否したところ、降格(部長職も解任)のうえ筑波工場へ配転され、従前の経験や経歴とは関係がない、単純作業をさせられた。

これに対して原告が裁判所に仮処分を申し立て、右配転命令が無効である旨の仮処分決定を得たところ、被告会社は、原告を奈良工場へ出向させ、ごみの回収作業させた。

判決

筑波工場や奈良工場での勤務内容からみて、これらの配転命令は業務上の必要性のない嫌がらせであるとし、そのいずれをも無効とした。

また、降格処分についても就業規則上の要件や手続きを尽くしていないとして無効とし、降格による給与の減額分の支払いを命じた(ただし、部長職の解任については人事権の裁量範囲内とした。)。

なお、精神的損害については、配転命令や降格を無効とすることで足りるとして、慰謝料請求は認めなかった。

出典・参考:「職場のいじめ」(東京都労働経済局 平成.13.3)

東加古川幼児園事件 最高裁 平成12.6.27

概要

無認可保育園の経験の浅い保母が長時間労働と休日出勤を強いられ、2か月足らずで主任保母という責任ある職務を命ぜられて勤務してきたところ体調を崩し、勤務して3か月後に精神的ストレスが起こす心身症的疾患と診断されて入院し退職したが、その後1か月後に自殺した。

遺族が園の安全配慮義務違反を主張して損害賠償を請求。

判決

うつ病の罹患と園での勤務との間に相当因果関係を認め、園が保母の仕事の内容に配慮を欠き、その結果、自殺を招いたものであるから安全配慮義務違反の債務不履行があったとして、大阪高裁は約1、148万円の損害賠償の支払いを命じた。

最高裁はこれを指示し、園側の上告を不受理。確定。

出典・参考:労働法学研究会報(2001年 vol.2249)


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