セクシュアルハラスメントとは

労務管理におけるセクハラ

セクシュアルハラスメントとは、男女雇用機会均等法第11条第1項によると、「職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されること」とされています。

強姦・強制わいせつなど刑法によって罰せられるべき犯罪行為や、身体を触るなど民法上の不法行為は、もちろん絶対禁止ですが、男女雇用機会均等法における「セクハラ」とはレベルが違うということに注意が必要です。

労務管理におけるセクハラ問題は、男女雇用機会均等法におけるセクハラを対象としています。


セクハラ問題はここが怖い

セクハラは、立場の強い者から弱い者に対して行われるケースが少なくありません。

加害者は経営者・役員等の管理職が圧倒的に多く、顧客によるセクハラもあります。

非正規社員や契約社員など立場の違う従業員に対しては、正規社員からのセクハラがあります。

子供を抱えている方や退職すると就職が難しい方など、弱い立場であれば、セクハラの被害を受けやすくなります。

セクシュアルハラスメントは、パワハラ同様、人権侵害としての要素を有しています。

何かされたり、言われた人が「嫌だ」と感じていたということが、いろいろな状況からわかるならば、セクハラであるとされます。

セクシュアルハラスメントの問題が、当事者はもとより、加害者や会社にとっても深刻な結果をもたらすのは、以下の理由からです。

被害者の精神的被害が大きい

裁判を起こすと、当事者は職場に居づらくなるでしょう。

それでも判決まで行くというのはよほどのことですから、かなりの件数が水面下にあると考えられます。

セクハラ行為がささいなものであっても、被害者の精神的なダメージは大きく、勤務の継続が困難となる場合があります。

また、一定の決着がついたとしても、次の勤務先で同じ記憶がフラッシュバックしたりして、再び出社できなくなる可能性もあります。

セクハラ事件の多くは、弁護士を立てての争いとなります。

これらのさまざまな事情から、損害賠償の請求額が多大にならざるを得ないのです。

加害者の償いが大きい

加害者とされた人間にとっても、損害賠償の負担は重く、大きな経済的損失となります。

それまでセクハラを認め、「逃げ隠れしない」と言い張っていた加害者が、賠償請求額を見せられた途端に、事実否認をするということもよくあるといいます。

これに加え、加害者の家族への精神的被害も大きいものがあり、場合によっては離婚に至ったり、そこまで行かなくても家庭内の状況が冷え切ってしまうということは容易に想像できるでしょう。

しかも、加害者とされた人は、これが原因で職を失ったり、そうでなくても遠隔地に転勤させられたりすることが、ままあります。

会社としての損失も大きい

会社は初期の段階で、問題をうやむやのまま処理しようとします。

しかし、これが事態をよりいっそう悪化させます。

被害者の弁護人は、相当額の賠償金を請求するために、会社側の対応や職場環境を問題視します。

判例には個人名は出ません(本人が実名を許可する場合を除きます)が、企業名は分かってしまいます。

法廷が公開なので、記録を閲覧することもできます。

会社にとっては、経済的負担以上にセクハラ判例として「○○会社事件」という名前が残ることが、大きな社会的な損失となります。

このため、多くのケースでは裁判以前の段階で和解という決着が取られるといわれています。

当然のことながら、賠償金は上積みされ、会社の名誉を守るために、相当な経済的損失を被るわけです。

仲裁に入った者も責任が問われることもある

A市職員(セクハラ損害賠償)事件(横浜地裁 平成16.7.8)では、相談窓口の対応にも問題があるとして、慰謝料総額220万円のうち88万円(弁護士費用8万円を含む)が、苦情処理担当の課長の対応ミスの責任とされました。

この判例から考えてみても、セクシュアルハラスメントの問題は、初期段階で適切な対応を取ることが重要です。


モラルの低下とセクハラ

過剰なストレスにさらされている事業所では、いろいろな形の犯罪が起こり得ます。

メンタルヘルスの悪化した事業所でも、セクハラやパワハラなどの事例が増えてきています。

女性が安心して働けない職場は、男性にも同じことがあてはまります。

当然、生産性の低下に繋がります。

雇用環境・均等部(室)で取り扱った相談、是正指導の状況・総数

厚生労働省は、都道府県労働局雇用環境・均等部(室)で受け付けた平成28年度の相談・指導状況をまとめた。

男女雇用機会均等法に関する相談は、2万1,050件だった。

セクシュアルハラスメントについての相談が最も多く7,526件で全体の35%を占めた。

次いで婚姻、妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いに関する相談が多く、7,344件で、全体の34.9%となっている。

企業に対し行った是正指導については、何らかの男女雇用機会均等法違反が確認された 5,787 事業所(79.7%)に対し、9,773 件の是正指導を実施した。

指導事項の内容は、「母性健康管理」が4,917 件(50.3%)と最も多く、次いで「セクシュアルハラスメント」の 3,860 件(39.5%)となっている

(平成28年度 都道府県労働局雇用環境・均等部(室)での法施行状況)

セクハラ行為に潜む心理

セクハラ行為を行う男性の心理には、「女はかくあるべき」「女とはこういうものだ」という性差別意識の呪縛にとらわれた上で「男と女は違う」「男はいいが、女はダメ」というダブルスタンダードに支えられる構造があります。

これと具体的に対比させると、次のようになります。

女性に対する意識 隠された心理
普通の女は派手な服装をするものではない。 だから、派手な服装は男を挑発しているのだ。
女は酒をあまり飲むべきではない。まして酔いつぶれるなどは論外である。 酒をよく飲む女はだらしがない。二次会に行くなどもってのほかだ、酔いつぶされたら何をされても仕方がない。それくらいの覚悟はあるはずだ。
女が性的な話題に関心をもつべきではない。 性的な話題に関心を示す女は、性的にふしだらだ。だから、性的な誘いをしてもいい。

※金子雅臣氏による


その行為がセクハラになるかのチェックポイント

  • その行為は、仕事を進める上で必要ですか?
  • 自分や家族が他の人からその行為をされても平気ですか?
  • 上司や家族が見ているところでその行為ができますか?
  • 自分と同性の職員に対しても、その行為をしますか?
  • 自分の家族はもちろん、上司や部下の家族にも堂々と見せられる職場環境ですか?
  • 明白な拒否はもちろん、言葉にしなくても相手の顔色や態度が変化していませんか?
  • 以前同様の行為を行い、その後相手の態度が変わったことはありませんか?

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