セクハラの使用者の配慮義務

使用者の責任

使用者は労働者が他者に迷惑をかけた場合、次の2種類の責任を負います。

不法行為責任 使用者は、故意または過失により他人(労働者も該当)の権利を侵害したときは、それによって生じた損害を賠償する責任を負います。(民法第709条)
また、事業のために人を使用する者は、被用者が事業の執行に当たり第三者に与えた損害を賠償する責任を負います。(民法第715条)
債務不履行責任
(安全配慮義務違反)
使用者には、雇用契約上、労働者の生命・身体が害されないようにすべき安全配慮義務があり、その義務違反がある場合、債務不履行として民事損害賠償責任を負います。

セクハラ問題に対する使用者の配慮義務について、次の3点を厚生労働大臣が指針で定めています。

(1) 事業主の方針の明確化およびその周知・啓発

事業主が職場でのセクシュアルハラスメントを認めない、容認しない方針を明確にし、その内容を職場の労働者に広く伝えて認識させる。

周知啓発の方法としては、以下のような方法があります。

  1. 社内報、パンフレット、ポスター等広報・啓発資料等にセクシュアルハラスメントに関する方針等を記載し、配布する。
  2. 従業員心得や必携、マニュアルなど服務上の規律を定めた文書にセクシュアルハラスメントに関する事項を記載し、配布または掲示する。
  3. 就業規則等に職場におけるセクシュアルハラスメントに関する方針を記載する。
  4. 労働者に対して職場におけるセクシュアルハラスメントに関する意識を啓発するための研修、講習等を実施する。

(2) 相談や苦情の対応

事業主は、相談・苦情への対応のための窓口を明確にすることについて配慮しなければなりません。

  • 相談・苦情に対応する担当者をあらかじめ定めておく。
  • 苦情処理制度を設ける。
    ※苦情を持ちかけられやすくするために、担当者(男女ともに一人以上)を配置するとよいでしょう。
    事業主は、相談・苦情に対し、その内容や状況に応じ適切かつ柔軟に対応することについて配慮しなければなりません。
  • 相談・苦情を受けた場合、人事部門との連携等により円滑な対応を図る。
  • 相談・苦情への対応のためのマニュアルをあらかじめ作成し、これに基づき対応する。

特に相談・苦情を申し入れた者の秘密を保持すること、相談・苦情を申し入れた者に対して不利益な取り扱いを行わないことを明らかにすることが必要です。

また、セクシュアルハラスメントの発生のおそれがある場合や、職場におけるセクシュアルハラスメントに該当するか否か微妙な事例であっても、相談・苦情に対応することが求められます。

相談をもちかけやすくするために、担当者(男女ともに一人以上)を配置し、窓口を人事担当部局と併せて労働組合にも設置するなどの工夫をするといいでしょう。

(3) 職場でセクハラが生じた場合の事後の迅速かつ適切な対応

事業主は、現実にセクシュアルハラスメントの問題が発生した場合において、その事実に係る事実関係を迅速かつ正確に確認することについて配慮しなければなりません。

事実関係の調査が大切ですので、当事者を個別に呼んで確認することになります。例えば当事者が女性の時は、できれば女性を含む複数人で対応する方がいいでしょう。

  • 相談・苦情に対応する担当者が事実関係の確認を行う。
  • 人事部門が直接事実関係の確認を行う。
  • 相談・苦情に対応する担当者と連携を図りつつ、専門の委員会が事実関係の確認を行う。

あなたにとっては嫌なことを聞くかもしれないが、必要があって聞くのだから、こと細かに話してもらいたい」、と説明してから聞きます。

ここで遠慮したら、判断に大事なポイントが聞けなくなります。

一方の言い分のみを聴くのではなく、公平に双方の主張を聴くことが必要です。併せて、必要に応じて周辺情報も得ることになりますが、プライバシーの保護にも十分な配慮が必要です。

事実確認ができたら、第一は、双方を離すことが必要です。両当事者が同じ場所で仕事を続けることは、それだけでも耐え難い負担となりますし、2次被害を避けるためにも必要です。この段階でもプライバシーへの配慮が求められます。

その後の対応としては、加害者に対する就業規則上の制裁(口頭注意、停職、降格、解雇等)、配置転換、労働者に生じた不利益の除去、謝罪等があります。

被害者に対するメンタルケアが必要な場合もあります。

再発防止の観点から、全従業員に対する会社方針の再確認、研修、職場点検、相談・苦情処理システムのチェックなども考えられます。


その他、使用者が配慮すべきこと

セクハラや不倫などを個人的な問題だと放置しておく場合、会社責任を問われることになる可能性があります。

第一に、社内で不倫のウワサが流れていること自体が、環境型セクハラの典型例ともいえるので、それを放置しておくことがセクハラとされる場合があります。

第二に、社内不倫の噂の原因が、人事担当の把握している休暇届等の情報漏洩に基づく場合は、個人情報保護法違反やプライバシー侵害の問題につながることもあります。


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