不当労働行為


正当な組合活動による不利益取扱いは禁止されています。

労働組合法は、使用者の行ってはならない行為を不当労働行為として禁止しています。(労働組合法第7条

主な不当労働行為には次のようなものがあります。


不利益取扱い(1号)

労働者が、以下を理由として、その労働者を解雇したり、その者に不利になる取り扱いをしたりすることをいいます。

(1) 労働組合員であること
(2) 労働組合に加入したり、労働組合を結成しようとしたりしたこと
(3) 労働組合の正当な行為をしたこと

不利益な取り扱いの種類・態様はさまざまであり、法律行為、事実行為(懲戒、解雇、配転、出向、転籍、昇給させない、仕事を与えない、残業をさせないなど)であると否とを問いません。

組合活動家を昇進により組合員資格を失わせる行為についても、組合活動上の不利益な取り扱いとなるというのが通説です。

恵和会宮の森病院(降格)事件 札幌地裁 平成15.11.19

組合委員長に対する放射線科課長から同技師長への降格が不当労働行為として違法・無効とされ、減額分手当ての支払いが認容された。

奥道後温泉観光バス事件 高松高裁 平成15.5.16

事業縮小を理由とする20名の希望退職募集に18名が応じたが、後の2名として割り当てられた労組の委員長と書記長の整理解雇には、合理的な理由はなく、事前説明も不十分であって、解雇権の濫用に当たり無効である。

最高裁は上告棄却(平成15.10.9)

インディアンサマー事件 大阪地裁岸和田支部 平成15.1.9

レストランのフロア担当。1日の実労働時間が連日12時間になり、週休も2日から1日になった。体調不良となった従業員は合同労組に加入し、団交したところ、労働時間の厳守などが確認された。

しかし、その後社長から組合を辞めるか否かと問いただされるなどし、辞めないと返答したところ、解雇通告された。本人が解雇理由を組合加入のせいかと質問したところ、社長は「それもあるし、性格の問題もある」と答えた。

裁判所は、組合活動を原因とした解雇だと判断し、地位保全の仮処分の申し立てを認容した。

中労委(青山会)事件 東京地裁 平成13.4.12

原告(青山会)が、別法人の経営する精神病院の施設、業務、従業員の大半を引き継ぐ際、旧病院の看護職員のうち組合員であった2名を採用しなかったことが不当労働行為に当たるかが争われた。労働委員会が不当労働行為との判断をしたため、会社側が提訴。

裁判所は、労働委員会の判断を支持している。

日本臓器製薬(本訴)事件 大阪地裁 平成13.12.19

管理職組合を結成した支店長4名が、秩序紊乱行為等を理由に懲戒処分を受けた。大阪地裁の仮処分決定(平成12.1.7)は懲戒解雇を無効と判断した。

本訴判決は、本件懲戒解雇は、管理職組合結成前に原告らが被告の経営陣の更迭を求めて多数の社員を巻き込んで行った署名活動等を理由とするものであり、原告らのこれまでの長期間の勤務状況を考慮しても本件懲戒解雇を不相当とすることはできないとして、原告らの請求を退けた。

JR東日本(本荘保線区)事件 最高裁 平成8.2.23

国労マーク入りのベルトを着用して就業した組合員に対し、会社が就業規則の書き写し等を命じた。

裁判所は、労働者の人格権を侵害し教育訓練に関する違法なものとして、会社側の損害賠償義務を認めた。

倉田学園事件 最高裁 平成6.12.20

学級担任に選任されないことは、適格性に消極的評価が下されたという一般的認識が教員間にあるとき、学級担任に選任しない行為は、不利益取扱になる。

国鉄鹿児島自動車営業所事件 最高裁 平成5.6.11

組合バッジの取り外し命令に応じない従業員を、10日間にわたり1人で営業所内に降り積もった火山灰の除去作業に従事させた。労働者が、50万円の慰謝料を請求。

判決:労働者側敗訴

上司の取り外し命令を無視してバッジを着用したまま点呼執行業務に就くという違反行為を行おうとしたことによる措置であり、職務規律維持の上で支障が少ないと考えられる屋外作業に従事させたものである。

これは、職務管理上やむを得ない措置ということができ、これが殊更に労働者に対して不利益を課するという違法、不当な目的でされたものであるとは認められない。


黄犬契約(1号)

労働組合に加入しないことなどを採用の条件にすること(黄犬契約と呼ばれる)も禁止されています。

組合脱退の勧奨(朝日放送事件 東京地裁 平成2.7.19)や、組合加入状況を調査すること(オリエンタルモーター事件 東京高裁 平成2.11.21)も、許されません。


団体交渉の拒否(2号)

使用者が正当な理由なしに団体交渉を拒否すること。

(何が正当な理由であるかは、交渉の対象事項、交渉担当者、交渉の手続きなどの具体的な事業に即して判断されます。)

富山第一銀行事件 富山地労委 平成13.3.30

組合併存(労組・従組)下のトラブル。

銀行は経営協議会を同日に開催し説明。従組が前年実績を確保できるのかという質問に、具体的な数字は示さず、「一時金交渉はシビアなものになる」、などの発言あり。不誠実な回答だという主張。

銀行は、両組合からの要求が出そろってから交渉を開始している。このため、従組が求めた回答指定日に有額回答しなかった。

労組組合員が従組組合員に、抗議行動を行ったが、銀行が労組をして従業員組合への抗議行動を起こさせたということの疎明がない。

このため、銀行の行動は不当労働行為とは認められない。


支配介入(3号)

支配介入には次の場合があります。

(1) 労働者が労働組合を結成したり運営したりすることに、介入すること
(2) 労働組合に対して経費援助すること

支配人・部課長・支店長・工場長など上級管理職の行為は、使用者の明確な支持や連絡によるものでなくても、使用者の行為とみなされます。

行為者に支配介入だという認識がなくても、不当労働行為とされる場合があります。

山岡内燃機事件 最高裁 昭和29.5.28

社長が組合の上部組織加盟を非難する発言を行った案件。

客観的に組合活動に対する非難と組合活動を理由とする不利益取扱いの暗示とを含むものと認められる発言により、組合の運営に対し影響を及ぼした事実がある以上、たとえ発言者にこの点につき主観的認識ないし目的がなかったとしても、なお労働組合法第7条3号にいう組合の運営に対する介入があったものと解するのが相当である。

下級職制が労働組合の結成に介入する行為等を行ったときに、上位者が注意せずに放置したか、これを是正するような措置を行ったかによっても、不当労働行為かどうかの分かれ道になります。(シェル石油事件 最高裁 昭和59.11.26)

また、次の判例は、別の解雇理由があることは認めつつも、使用者の一連の行為から、不当労働行為意思による解雇だと認められた事例です。

茨木消費者クラブ事件 大阪地裁 平成5.3.22

就労開始時以降1年2か月の間に49回の遅刻をし、たびたび口頭による注意を受け、警告書を交付されていたにもかかわらず、その後もさしたる理由と認められないような事情で4回の遅刻を繰り返した組合委員長に対する解雇の事案。

大阪地裁は、そのような常習的遅刻が解雇事由に当たることは認めつつ、使用者が同人を委員等とする組合結成直後から、「俺は組合が嫌いだ。帰ってくれ、警察を呼ぶぞ。」などといい、団体交渉も拒否し、その後も、組合員に対して「お前らカスや、嫌やったら辞めたらいい、組合なんか聞いたことがない」などとの発言を繰り返していたこと、組合結成前から約していた冬季賞与の額につき、組合が結成された交渉の結果、同年の夏季賞与の額が0.2か月分上乗せされていたことから、その分の冬期賞与から差し引くなどとしたり、労働委員会においてあっせんが成立しているのに、その内容となっている労使協議会の開催には容易に応じようとせず、委員長を含めて3名の組合役員を解雇した後には、他の組合員に対し、「あの3人を解雇したらお前らも辞めると思とった。なんで辞めへんねん。だから段取りが狂るてしもてんねん。」などと発言していたことから、不当労働行為意思に基づく解雇であるとした。

経費援助

不当労働行為となる労働組合の運営のための経費援助とは、組合専従者の給料(安田生命保険事件 東京地裁 平成4.5.29)、組合大会等の諸経費・旅費・その他労働組合の諸活動に必要なあらゆる経費をいいます。

ただし、次のものについては特に経費援助に入らないとされています。

(1) 就業時間中の団体交渉・労使協議に対する賃金不控除
(2) 最小限の広さの組合事務所の供与
(3) 組合の福利厚生資金への会社の寄付

関連事項:労働組合への便宜供与

組合員資格への介入

どの範囲の従業員を組合員とするかは、労働組合が自主的に決めるものです。

労働組合法第2条には、使用者の利益代表を除外すべきとの規定がありますが、それが明確に利益代表とならない限り、これを排除するように会社側が働きかければ、不当労働行為に該当することになる可能性があります。

関連事項:労働組合への管理職の加入

上部団体加入の妨害

上部団体への加入は本来自由です。

しかし、一般的には使用者は、組合活動が外部から影響を受けることを認めたがりません。

このため「企業秘密が漏れる」と主張して、加入を思い止まらせようとしますが、それは不当労働行為となる可能性があります。


労働委員会への救済申立等を理由とする不利益取扱(4号)

不当労働行為が行われたときは、労働委員会へ救済の申し立てを行うことができます。

労働委員会が不当労働行為の事実を認めたときは、使用者に対して、不当労働行為がなかった状態に戻すようにとの、命令が出されます。

関連事項:労働組合対策相談室


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