締結・変更
協約当事者組合の組合員の場合、非組合員の場合、少数組合の組合員の場合とで対応が異なってきます。
例えば、55歳以上の者の賃金を一律40%カットするという労働協約は、著しい労働条件の低下といってよいでしょう。
こうした労働協約に拘束されるか否かにあたっては、以下を考慮する必要があります。
公正代表義務を尽くしたか
一部の従業員が制度上特に不利益な労働条件の変更が行われた場合に、組合がその従業員グループの利益を公正に代表したか、そのグループの意見を聴き、その利益に配慮したかどうかが、まず問題となります。
協約当事者組合の組合員の場合
不利益を被る労働者の意見が明示あるいは黙示の授権によって交渉過程に反映されている限り、不利益な労働協約も当該組合員を拘束すると考えられます。
協約当事者組合の非組合員の場合
当該労働者の意見が交渉過程に反映されていない場合、もともと反映させることが不可能な非組合員や少数組合の組合員の場合には、協約締結権の限界を超えるか拡張適用が著しく不当と考えられる特段の事情がある場合として、締結した労働協約の効力は及ばず、協約より有利な労働契約は影響を受けないといってよいと思われます。
画一的実施により一部に不利益が生じる場合
また、労働者全体の立場から見るときは合理性を是認できる場合であっても、これをそのまま画一的に実施するときは一部に耐えがたい不利益を生じるときは、不利益緩和の経過措置が必要とされるといってよいでしょう。
労働協約の変更にも制限がある
しかし、労働組合の有する協約締結権も決して無制限ではありません。労働協約を不利益に変更するには、労働組合にはその決定権限・締結権限が必要です。
労働協約による労働条件の不利益変更の場合には、組合が協約締結交渉において組合員のみならず関係従業員全体の意見を公正に集約して真摯な交渉を行ったこと、特に不利益を受ける従業員グループがある場合には、組合員の有無を問わずその意見を十分に汲み上げて不利益の緩和を図るなど、関係従業員の利益を公正に調整したことが必要です。
強行法規に違反する場合や公序良俗に違反する場合は、締結した労働協約の効力は協約より有利な労働契約に及ばず、影響を受けません。
変更内容の吟味は、多数組合との交渉を経ていない場合に前面に出てくるべきものだとする考え方もありますが、労働者の多様化が進行し、組合員間に利害対立が生じてくると手続き的瑕疵のない多数決原理に基づく組合内部意思の形成も、少数者抑圧の手段となるおそれもあるところから、変更内容の吟味をも行うべきだと考えられます。
この場合、就業規則不利益変更の場合におけると同様、変更内容に合理性があるかが問題となります。
すでにあるより有利な労働契約の内容まで変更できない
条項の性質や内容によっては、締結した労働協約の効力は協約より有利な労働契約には及ばず、影響を受けないことが考えられます。
北港タクシー定年退職事件 大阪地裁 昭和55.12.19
既に定年年齢を過ぎているにもかかわらず従来は定年不適用の取扱を受けてきた高齢者に対して、労働組合が使用者と高齢者を1年後には定年制に服せしめる旨の労働協約を締結しても、この協約によって組合員の契約を終了させることはできない。
松崎建設工業事件 東京高裁 昭和28.3.23
組合員全員の退職を定めた労働協約は、個々の組合員の承諾ないかぎり、当然に個々の労働契約を消滅する効力はない。
香港上海銀行事件 最高裁 平成1.9.7
既に発生した具体的権利としての退職金請求権を事後に締結された労働協約の遡及適用により処分変更することはできない。
効力が有効な期間中は、一方的に破棄できない
東京12チャンネル事件 東京地裁 昭和43.2.28
「被申請人らは、右議事確認書は有効期間の定めのないものであるから法定の予告期間をおいて解約した」と主張する。
なるほど右議事確認書(甲1号証)はその記載事態から明らかなように明示の機関の定めはない。
しかしながら、右議事確認書を文字どおりに解すれば「当面する再建途上」すなわち、協定締結当時から企業の再建もしくは閉鎖に至る期間は人員整理をしないという主旨に解される。
ことに右協定締結当時組合は夏季一時金の要求を大幅に譲歩し、被申請人もまた組合のストライキを封ずるための代償として右協約の締結に応じた経緯に照らせば90日の予告により何時でもこれを解約し、人員整理をなしうると解することは、当事者の意思解釈上極めて不自然である。
したがって、本件労働協約は、協約締結の日を始期とし企業再建もしくは閉鎖という不確定期限を終期とする有効期限の定めのあるものであり、ただ、不確定期限であるために確定的な終期を定めることができないことから、「当面する再建途上」という文言を使用したに過ぎないものと解すべきである。
右のとおり、本件労働協約は有効期間の定めのあるものであり、解約通告当時はいまだ債権途上にあったことは明らかであるから、有効期間の定めのないことを前提としてなした被申請人の解約の通告はその効力を有しない。
ただし、当事者双方の合意に基づいて労働協約の効力を消滅させることは、その労働協約が有効期間の定めのあると否とを問わず、当事者はいつでも自由に行うことができます。
これは、労働組合法第15条第3項及び第4項に規定する一方的意思表示による解約とは異なります。