職場内のビラ配布

ビラ配布は個別に判断される

ビラの配布は、施設管理権との関係が薄いため、ビラ貼付の場合と判断は異なります。

職場内の演説・集会・ビラ配布の許可制を定める就業規則の規定について、最高裁は次の判断をしています。

目黒電報電話局事件 最高裁 昭和52.12.13

休憩時間中に「職場の皆さんへの訴え」と題するビラを休憩室および食堂で配布したもので、懲戒処分の対象となるとされた。

休憩時間中であっても、局所内の施設の管理を妨げるおそれがあり、更に、他の職員の休憩時間の利用を妨げ、ひいてはその後の作業能率を低下させるおそれがあって、その内容如何によっては、企業の運営に支障をきたし企業秩序を乱すおそれがあるから許可をとることは合理性がある。

明治乳業事件 最高裁 昭和58.11.1

昼休みに工場食堂において、赤旗号外と参院選の法定ビラを従業員に配布したケース。

形式的に(このような許可制を定めた)規定に反するようにみえる場合であっても、実質的に職場秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは、右規定違反になるとはいえない。

そこで、何が「実質的に職場秩序を乱すおそれのない特別の事情」になるかですが、この点については、ビラ配布の態様、経緯、目的およびそのビラの内容を総合的に勘案して判断されることになります。

会社の敷地内であっても、会社の正門と歩道の間の広場でのビラ配布は、会社の施設管理権を不当に侵害するものではないとした判例もあります(最高裁 昭和52.12.13)。

就業時間外・職場外で行ったビラ配布であっても、そのビラの内容が企業の経営政策や業務等に関して事実に反するあるいは事実を誇張・わい曲した記載であり、その配布によって企業の円滑な運営に支障をきたすおそれがある場合は、正当性は有しないとも判断されています。

加部建材・三井道路事件 東京地裁 平成15.6.9

甲事件の原告および乙事件の原告らに対する、被告らの街宣活動およびビラ配布行為は、甲事件原告の名誉・信用の毀損、営業活動の侵害に該当し、乙事件の原告やその家族の私生活を侵害するものとして差止請求を認め、また、これらは名誉を毀損し、営業権および人格権を侵害するものであるとして、被告らに対し、不法行為に基づく損害賠償として、原告らそれぞれに慰謝料20万円の支払いが命じられた。

関西電力事件 最高裁 昭和58.9.8

労働者Xが、他の労働者らとともに、就業時間外に、社宅でビラ約350枚を配布した。

これに対し、エネルギー供給業を営む使用者Yは、就業規則に定める懲戒事由である「その他特に不都合な行為があったとき」にあたるものとして、就業規則に定める6種類の懲戒のうち最も軽い懲戒である譴責(始末書を提出させて将来を戒めること)を課した。そこで、Xが譴責処分の無効確認を求めた。

判決:労働者側敗訴

Xは、労務提供義務を負うとともに企業秩序を遵守する義務を負い、使用者は、企業秩序を維持し、企業の円滑な運営を図るために、労働者の企業秩序違反行為を理由として、労働者に対し懲戒を課することができる。

職場外でされた職務遂行に関係のない労働者の行為であっても、企業の円滑な運営に支障を来すおそれがあるなど企業秩序に関係を有するものもあるから、使用者はそのような行為をも対象として労働者に懲戒を課すことも許される。

上記のような場合を除き、労働者は、職場外における職務遂行に関係のない行為について、使用者による規制を受けるべきいわれはない。

本件では、ビラの内容が大部分事実に基づかず、又は事実を誇張歪曲して被上告会社を非難攻撃し、全体としてこれを中傷誹謗するものであり、ビラの配布によりXの会社に対する不信感を醸成して企業秩序を乱し、又はそのおそれがあったものと認められない訳ではない。

したがって、本件ビラの配布は懲戒事由にあたり、譴責を課したことは懲戒権に認められる裁量権の範囲を超えるものではない。

下級審判決には、選挙ビラの配布について、特別な事情とは認められないとしたものがあります(日本アルミニウム建材事件)。


ビラが名誉毀損か否かを判断する基準

労働組合活動の一環として配布されたビラの内容について、違法かどうかは、次のような基準によって判断されます。(エイアイジー・スター生命保険事件 東京地裁 平成17.3.28)

(1) ビラで摘示された事実が真実であるか否か。真実と信じられる相当な理由が存在するか否か。
(2) 表現自体は相当であるか否か。
(3) 表現活動の目的、態様、影響はどうか

正当な組合活動として、社会通念上許容される範囲内のものであると判断される場合には、違法性が阻却されることになります。

日本計算器蜂山製作所懲戒解雇事件 京都地裁 昭和46.3.10

工場内の有毒ガスにより従業員が危険にさらされていること、工場廃液により地域の水稲に被害が生じていることなどを記載したビラを工場付近の住民に配布した。

これに対し、会社側は「名誉毀損、信用失墜」行為だとして、従業員を懲戒解雇処分とした。

従業員は、この無効を主張して、地位保全・賃金支払の仮処分を求めた。

裁判所は、従業員の申立を認容し、地位保全・賃金支払の仮処分を命じた。

通報した事実については、真実であると信じる合理的理由があり、当該通報が労働組合活動として認められる場合は、これを懲戒処分の対象とすることは、懲戒権の濫用となると判断している。

山陽新聞社事件 広島高裁岡山支部 昭和43.5.31

労働組合が、会社の報道内容、報道姿勢へ批判、合理化反対等について抗議するビラを通行人に配布した。

会社は、「故意に会社の名誉を傷つけた」として、組合役員を懲戒解雇処分とした。

これに対し、従業員としての地位確認および未払賃金の支払を求める仮処分申請が行われた。

裁判所は、新聞が公衆に与える影響は多大であり、公共性を有するものである。したがって、事実に基づく企業内事情の暴露については、公益に関する行為として、受忍すべきである。本件ビラ記載の内容は、大筋において真実に合致するものであり、懲戒解雇処分によって臨むのは、懲戒における裁量の範囲を著しく逸脱したものだといえるので、本件懲戒処分は無効というべき、とした。

毅峰会吉田病院賃金請求事件 大阪地裁 平成11.10.29

解雇を争っている病院職員が、病院のモラルに反して労働者を解雇した等というビラを付近住民に配布した事案。

裁判所は、原告が監督官庁に対して被告の不正を糾弾することはともかくとして、被告に不正行為があるとしてこれを付近住民等に流布することはなんら従業員としての正当な行為とはいえず、その必要性もないことであるし、前記ビラの記載内容は、被告の信用を害し、病院経営に悪影響を及ぼすことも明らかであって、被告からすれば許し難い背信行為というべきであり、懲戒事由ともなし得るものというべきであると判示し、これを理由とする賞与不支給を有効としている。


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