賃金未払いのトラブル

賃金未払いのケース

経営不振による未払い

経営不振による未払いについては、経営側からすると致し方ない部分もあるかもしれませんが、当然に賃金の支払い義務があります。

資金繰りが苦しく、払いたくても払えないという経営状態の場合もあるでしょう。

しかし、だからといって払わなくていい理由にはなりません。

また、会社の経営状況が悪く、未払いについて労働者も同意していたとしても、使用者の支払義務は免除されません。

扶桑商事事件 大阪高裁 昭和25.2.4

たとえ各労働者が賃金の不払を承諾していたとしても、賃金の支払は労働条件の中でも重要な条件であって、使用者に対し労働者を保護するために特に賃金支払確保の目的から労働基準法第24条が設けられたのであるから、同条第1項但書及び第2項但書の場合の外所定の支払方法を変更することは許されないものと解する

感情的トラブルによる未払い

この場合は解雇と関連するケースが多くなりますが、「会社に迷惑をかけたから払わない」とか、「労働者が急に退職したので、最後の賃金の締め日から退職日までの部分を払わない」などと、心情的には理解できる部分もありますが、あくまでも、「働いた分は払う」「損害賠償と賃金は別もの」これが原則です。

勝手に出社しなくなったから、辞め方が悪かったからなどの理由は、その行為自体が社会的に肯定される行動ではなかったとしても、実際に働いた部分の賃金は支払われなければなりません。

会社に損害を与えた賠償金として、使用者が一方的に賃金と相殺することもできません。

関連事項:賃金の考え方→、最低賃金

約束より低い賃金でのトラブル

基本給など賃金が雇い入れの時の約束より低いといった場合にもトラブルとなります。

必ず雇用契約書を採用の際に書面で交付するようにしましょう。

労働基準法15条、同法施行規則5条は、賃金の決定、計算、支払方法、賃金の締切、支払の時期について書面を交付することにより明示することを義務付けています。


労働者かどうか、賃金かどうかは実態で判断

働く形態には、会社役員であったり、請負や委任の形であったり、いろいろなケースがあります。

その中には、呼び名はどうであれ、労働基準法上の労働者に該当しない場合があり、そうなると、その報酬も賃金とは呼べず、先に述べた原則があてはまらない場合もあります。

最近は、雇用形態が多様化しており、名目上「委託」「請負」の形で会社から仕事を命じられているものの、実質的には指揮命令の下に働くという形が出ています。

また、肩書きは役員であっても、実際には他の労働者と同様の仕事をしているような場合や、形式的に請負の形をとっていても、独立の事業主となっておらず、もっぱら指揮命令を受けて仕事をして賃金を得ている場合には、ここに言う労働者となる場合もあります。

名称や契約形態ではなく、労働の実態から、労基法9条にいう労働者かどうかが判断されることになりますので注意が必要です(労働者とは事業所で他人から命令を受けて働き、賃金をもらっている人をいいます)。


賃金請求権の時効

賃金請求権の時効については、賃金一般は2年間、退職金は5年間になっています。

時効は支払日の翌日から進行します。

民法166条第1項
消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する。

民法140条
日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない。
ただし、その期間が午前零時から始まるときは、この限りでない。


未払い賃金を確認する書類

賃金の未払いに対して、裁判や労働基準監督署に労働者が訴える場合、未払いがあったことを証明するのは、訴える労働者になります。

賃金の未払いを確認するための書類としては、労働契約書、就業規則、賃金規程、タイムカード(残業時間管理記録)や業務記録、過去の給与明細書、預金通帳のコピーなどが賃金算定の裏付け根拠となる書類ということになります。

書類の保存義務は3年間

労働者名簿・賃金台帳をはじめ、雇入れや退職に関する書類、災害補償に関する書類、賃金その他労働関係に関する重要な書類は、3年間の保存が義務付けられています。

労働者名簿や雇入れ・退職関係の書類の保存期限の起算日は、労働者の死亡、退職、解雇の日から、賃金その他労働関係に関する重要な書類の保存期限の起算日は、その完結の日から起算されます。


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