未払い賃金の労働者からの請求
内容証明・配達証明付きの手紙で請求
口頭ではらちがあかないと思われた場合や、早期解決を目的として、内容証明・配達証明付きの書面で請求してくるケースが多いでしょう。
内容証明郵便などでこのような請求をする際には、支払期日を明記するとともに、支払がない場合には法的手段を取ることを明記することがよく行われています。
労働基準監督署への駆け込み
賃金不払いは労働基準法24条違反になることが多いので、その企業を管轄する労働基準監督署へ相談し、場合によっては、労働基準法違反の申告をされる場合があります。
賃金未払いは労働基準法120条1項違反で30万円以下の罰金となっています。
また、労働基準監督署に相談だけしてみても問題の解決につながらない場合には、労働基準法違反の是正申告(救済要求)をされることもあるでしょう。
労働者は、申告は「労働基準法違反申告書」を監督署に提出して行います。
賃金未払いについて労基署に申告がなされた場合には、労働基準監督署が使用者に対して調査し、その法違反に対し是正勧告、救済調停、和解、斡旋等の措置が試みられます。
なお、悪質な労基法違反や労働安全衛生法違反を繰り返し、監督署の是正要求などにも応じない会社や使用者に対しては、労働基準監督官(司法警察員)宛に「告訴状」を提出される可能性もあります。
ただし、労働基準監督署は、行政指導から入る形になり、ある程度時間がかかります。
また、労働基準監督署は相手の財産を差し押さえてそれを渡すということはできません。これができるのは裁判所だけとなっています。
したがって、労働者が「相手の財産を押さえてでも、とにかく早く支払って貰いたい」と考えているとすれば、裁判所を利用することになります。
申告と告訴・告発
申告は、違反の是正要求または自己の被害の回復を求める意思表示をいう。
これに対し告訴とは、法律上告訴権を有する者が、検察官又は司法警察員に対して、犯罪事実を申告し 犯人の処罰を求める意思表示をいう。
また、告発とは、告訴権者以外の者が検察官又は司法警察員に対して、犯罪事実を申告し、犯人の処罰を求める意思表示をいう。
送検事例
賃金不払で製造会社を書類送検
青梅労働基準監督署は、賃金を支払わなかった製造会社等を、労働基準法違反容疑で東京地方検察庁八王子支部に書類送検した。
事件の概要
法人Dは、労働者6名に対する平成15年6月21日から同年7月20日までの賃金を所定支払日に支払わなかったものである。
同社は、その後に雇い入れられた労働者に対しても賃金不払いを発生させた。
是正状況
平成26年4月から平成27年3月までの間に、全国の労働基準監督署が定期監督および申告に基づく監督等を行い、その是正を指導した結果、不払いになっていた割増賃金の支払いが行われた事案のうち、1企業当たり合計100万円以上の割増賃金の支払額となった事案の集計は以下の通り。
是正企業数は1,329企業(対象労働者数は203,507人)
支払われた割増賃金の合計は142億4,576万円
(企業平均では1,072万円、労働者平均では7万円)
1企業での最高支払額は、14億1,328万円(電気機械器具製造業)で、次いで9億4,430万円(金融)、6億3,321万円(理美容業)の順である。
是正状況(企業数)
期間 | 100万円以上の割増賃金 | 1000万円以上の割増賃金 |
---|---|---|
H17.4~H18.3 | 1,524 社 | 293 社 |
H18.4~H19.3 | 1,679 社 | 317 社 |
H19.4~H20.3 | 1,728 社 | 275 社 |
H20.4~H21.3 | 1,553 社 | 240 社 |
H21.4~H22.3 | 1,221 社 | 162 社 |
H22.4~H23.3 | 1,386 社 | 200 社 |
H23.4~H24.3 | 1,312 社 | 117 社 |
H24.4~H25.3 | 1,277 社 | 178 社 |
H25.4~H26.3 | 1,417 社 | 201 社 |
H26.4~H27.3 | 1,329 社 | 196 社 |
計 | 14,426 社 | 2,179 社 |
是正状況(対象労働者数)
期間 | 100万円以上の割増賃金 | 1000万円以上の割増賃金 |
---|---|---|
H17.4~H18.3 | 167,958 人 | 106,790 人 |
H18.4~H19.3 | 182,561 人 | 120,123 人 |
H19.4~H20.3 | 179,543 人 | 103,836 人 |
H20.4~H21.3 | 180,730 人 | 126,172 人 |
H21.4~H22.3 | 111,889 人 | 55,361 人 |
H22.4~H23.3 | 115,231 人 | 57,885 人 |
H23.4~H24.3 | 117,002 人 | 44,319 人 |
H24.4~H25.3 | 102,379 人 | 54,812 人 |
H25.4~H26.3 | 114,880 人 | 60,049 人 |
H26.4~H27.3 | 203,507 人 | 156,740 人 |
計 | 1,475,680 人 | 886,087 人 |
是正状況(支払額)
期間 | 100万円以上の割増賃金 | 1000万円以上の割増賃金 |
---|---|---|
H17.4~H18.3 | 2,329,500 万円 1企業平均額 1,529 万円 1労働者平均額 14 万円 |
1,961,494 万円 1企業平均額 6,695 万円 1労働者平均額 18 万円 |
H18.4~H19.3 | 2,271,485 万円 1企業平均額 1,353 万円 1労働者平均額 12 万円 |
1,815,200 万円 1企業平均額 5,726 万円 1労働者平均額 15 万円 |
H19.4~H20.3 | 2,724,261 万円 1企業平均額 1,577 万円 1労働者平均額 15 万円 |
2,124,016 万円 1企業平均額 7,724 万円 1労働者平均額 20 万円 |
H20.4~H21.3 | 1,961,351 万円 1企業平均額 1,263 万円 1労働者平均額 11 万円 |
1,584,914 万円 1企業平均額 6,604 万円 1労働者平均額 13 万円 |
H21.4~H22.3 | 1,160,298 万円 1企業平均額 950 万円 1労働者平均額 10 万円 |
851,174 万円 1企業平均額 5,254 万円 1労働者平均額 15 万円 |
H22.4~H23.3 | 1,232,358 万円 1企業平均額 889 万円 1労働者平均額 11 万円 |
885,305 万円 1企業平均額 4,427 万円 1労働者平均額 15 万円 |
H23.4~H24.3 | 1,459,957 万円 1企業平均額 1,113 万円 1労働者平均額 12 万円 |
830,223 万円 1企業平均額 7,096 万円 1労働者平均額 19 万円 |
H24.4~H25.3 | 1,045,693 万円 1企業平均額 819 万円 1労働者平均額 10 万円 |
722,259 万円 1企業平均額 4,058 万円 1労働者平均額 13 万円 |
H25.4~H26.3 | 1,234,576 万円 1企業平均額 871 万円 1労働者平均額 11 万円 |
873,142 万円 1企業平均額 4,344 万円 1労働者平均額 15 万円 |
H26.4~H27.3 | 1,424,576 万円 1企業平均額 1,072 万円 1労働者平均額 7 万円 |
1,097,010 万円 1企業平均額 5,597 万円 1労働者平均額 7 万円 |
計 | 16,843,677 万円 1企業平均額 1,168 万円 1労働者平均額 11 万円 |
12,744,737 万円 1企業平均額 5,849 万円 1労働者平均額 14 万円 |
出所:監督指導による賃金不払残業の是正結果(厚生労働省労働基準局監督課)
労働組合(ユニオン)への駆け込み
社内に労働組合があれば、組合に相談をすることになるでしょう。
しかし、職場に労働組合がなくても、一人でも加入できる社外の労働組合(ユニオンなど)に加入して団体交渉を要求してくるケースも増えています。
他にも労働者が、新たに自分たちで労働組合を結成して、交渉してくることもあります。
訴訟手続き
内容証明郵便での請求、労働基準監督署への申告、労働組合の交渉などでも問題が解決せず、支払われないときは、裁判所での手続ということになります。
賃金不払い問題は弁護士を依頼しなくても本人で裁判手続を比較的利用しやすい分野だといえます。
特に民事調停手続、140万円以下の請求額の訴訟(通常の訴訟や60万円以下の場合の少額訴訟)、支払督促手続は、個人でも可能な場合があり、インターネットのWebサイトなどを活用して、労働者自身で簡易裁判所に訴状や申立を行うこともあるでしょう。